22歳日本人がチェルシーの「中心になる」 来夏W杯視野…現地喝采”ビューティ”弾「今季ベスト」

チェルシー・ウィメンの浜野まいか【写真:REX/アフロ】
チェルシー・ウィメンの浜野まいか【写真:REX/アフロ】

トッテナム・ウィメン戦で豪快ミドルを突き刺した浜野まいか

 右足で打った瞬間、「入る時の、あの感覚がありました」――チェルシー・ウィメンの浜野まいかは、そう言って微笑んだ。

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 10月18日に行われた、ウィメンズ・スーパーリーグ(WSL)第6節トッテナム・ウィメン戦(6-2)の後半41分、ゴール正面だが優に25メートルはある距離から炸裂した、ミドルシュートについてのコメントだった。

 ボールがゴール右上隅に飛び込むと、今季から、女子のリーグ戦でもホームとなっているスタンフォード・ブリッジの記者席では、若手が多い女性陣からも、筆者を含む年配の男性陣からも、「今季のWSLベストゴールは決まった」とする声が上がった。

 だが、ピッチ上の得点者自身は、それほどの“ビューティ(いわゆる「ゴラッソ」)”を決めたにしては控え目とも言える喜び具合。5失点目でトドメを刺された相手は、レンタルで出た昨季後半のチームメイトたち。自ら「チーム全体で組み立ててゴールに向かうから、スタイル的に合っている」と言ってもいたトッテナムでは、チェルシーでの昨季前半と比べて3倍のリーグ戦6試合に先発し、2倍以上の計470分をピッチ上で過ごした。本人は「ちょっと複雑な心境」だったのだと言う。

「もちろん自分はチェルシーの選手ですけど、トッテナムでの半年間、心温かいチームで最高の仲間と過ごすことができたから、自分のハートはチェルシーだけど、やっぱりトットナムのハートもあるから」

 しかしながら、チェルシーに戻った浜野としては重要なゴールだ。まだ22歳だが、移籍4年目の今季は、WSL強豪での「勝負の年」だと言っても良い。昨夏に2029年までの新契約を結んでいるが、残る契約年数の長さは、クラブがその気になれば移籍金を吊り上げる材料ともなる。加えて、来夏の女子ワールドカップ・ブラジル大会へと続くシーズンであることは言うまでもない。

 ミドルやロングは、以前からレパートリーとして持ってはいる。だが、システムに柔軟なソニア・ボンパストル監督の下、最前線の中央で起用されることもある攻撃の選手にとって、ゴールに勝る自信の源はない。浜野は、リーグ戦で今季初先発を果たした前節ウェストハム戦(3-0)で、珍しいヘディングによる今季の自身初得点。続く代表ウィーク中の「なでしこジャパン」でも、ハイチとの国際親善試合(5-1)で、クロス兼シュートを相手ゴールに放り込み、3週間で3得点目を、この日のリーグ戦で決めたことになる。

厚い選手層を誇るチームで自らの存在感を高めるために

 対戦相手のトッテナムは、昨季以来、試合の内容も成績も向上が著しい。チェルシーを相手に、1-1でハーフタイムを迎えてもいた。しかし、4点差の最終スコアが示すように、層の厚さを含む総合力では、まだ肩を並べられる域に達してはいない。不動のスタメンとなっている日本女子代表CBの古賀塔子は、昨季後半にクラブでも一緒になった浜野を、「守備の場面では2人分の働きをしてくれる。いて欲しいところにいてくれるから、うしろからパスも出しやすい」と評していた。だが、チェルシーの浜野が自らの重要性を高めるには、やはり得点に絡む働きが欠かせない。

 当人も「今季」を意識していることは、クラブでの公式戦1試合目で見せたプレーからも窺い知ることができた。8月26日の女子CL最終予選レアル・ソシエダ戦第1レグ(5-2)、終盤に3トップ左サイドに投入されると、折り返しにスライディングで合わせた惜しいシュートや、クレバーなラストパスなど、限られた時間の中にも浜野らしさが散りばめられていたのだ。

 試合後には、次のように話してもいた。

「今シーズンは、今まで以上にスタメンを獲りにいって、チームの中心の選手になるという気持ちでプレーしたい。W杯もあるので、そこを意識しながら。ボールを持った時には、得点につながるプレーを1つでも多く作りたい。前を向く回数を増やしたり、ラストパスであったり、自分が(ゴール前に)飛び込んだシーンもありましたけど、自分を得点できる場所に持っていく動きだったり。

 もう、若いけど若くないし(苦笑)。プレーする時には、いつでも100パーセント、120パーセントを出せるような準備をしたい。少しのチャンスであっても、20分間で良いプレーをすれば、それが45分、60分、90分と、だんだん増えていくと思うので」

 実際、トッテナム戦でダイヤモンド型の中盤右サイドに投入された後半15分というタイミングは、今季リーグ戦で途中出場した過去2試合より10分以上早い。そして数分後には、右サイドを上がってインサイドに通したパスで、チーム4点目の“アシストをアシスト”している。ネットを揺らしたドイツ女子代表MFショーカ・ニュスケンに走り寄って飛びついた浜野は、続いて自分がゴールを決めた時以上に喜んでいたかもしれない。

「数字として見える(自分の)得点はもちろんですけど、チームメイトの得点にも関わって勝利に貢献できるのが本当に嬉しい」と、浜野。

 然るべき姿勢だ。

 トッテナム戦のチェルシーでは、ついていた古賀もやれられた2ゴールのローレン・ジェームズが最大のスポットライトを浴びた。男子チームの主将リースを兄に持つ「背番号10」は、イングランド史上最高の女子選手とも言われ始めている。浜野に尋ねてみても、まず「スペシャルな選手」と一言。そして、続けた。

「ボールを持ったら1個、2個、3個と違いを生み出せる選手。でも、チェルシーは、(周りの)1人ひとりも個人として凄いので、“LJ(ジェームズ)”が空く。彼女だけに頼らず、相手も“LJ”だけに集中できないのがチェルシーの良いところだと思います」

 その「凄い個人」の1人として存在感を強めたい浜野。序盤戦でゴール付いてきた今季の活躍が楽しみだ。

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山中 忍

やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。

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