小林悠が盟友にこぼした本音「自分の身体じゃ無理」 切磋琢磨した7年…待ち望む引退後の約束「話をした」

川崎の小林悠【写真:柳瀬心祐】
川崎の小林悠【写真:柳瀬心祐】

小林悠が語った神戸GK新井章太との約束

 来年1月1日で現役を引退する異能の点取り屋、川崎フロンターレの小林悠が現在進行形で刻もうとしている最終章を誰もが楽しみにしている。居残り練習で小林のシュートを浴び続けた盟友で、現在はヴィッセル神戸でプレーする37歳のGK新井章太もその1人。かつてのホームに凱旋した10月21日のJ1リーグ第11節で、新井が古巣のファン・サポーターへ届けたかった感謝の思いと、小林と交わしたオフの約束とを追った。(取材・文=藤江直人)

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 どうしても直接伝えたい思いがあった。古巣となる川崎フロンターレのファン、サポーターから大きな声援と、割れんばかりの拍手を浴びながら、ヴィッセル神戸のGK新井章太は感謝の言葉を送り続けた。

 かつてのホームで、敵地となって久しいUvanceとどろきスタジアム by Fujitsuに乗り込んだ21日のJ1リーグ第11節。1-2で黒星を喫してからしばらくして、リザーブで試合を終えた新井が再びピッチに姿を現した。

 ワールドカップ代表に2度選出された権田修一、クラブ生え抜きの前川黛也と神戸のキーパー陣には実力者が揃う。新井がリーグ戦でベンチ入りを果たしたのは、敵地・日産スタジアムで横浜F・マリノスに0-1で敗れた8月22日の第3節以来、今シーズンで2度目。その一戦が川崎戦となった巡り合わせに新井は目を細めた。

「怪我をしている間もめちゃくちゃメッセージをくれたんですよ。届いたメッセージのなかで、川崎のファン、サポーターがかなりの割合を占めていた。なので、感謝の思いを伝えてきたところです」

 忘れもしない昨年9月3日。横浜FCとのYBCルヴァンカップ(現ヤマザキビスケット・ルヴァンカップ)準々決勝第1戦で先発した新井は、左膝を痛めて後半11分に途中交代を余儀なくされた。

 診断の結果は左膝前十字靱帯の損傷で、手術を必要とするほどの大怪我だった。長いリハビリを経て全体練習へ復帰したのは今年4月であり、天皇杯2回戦での公式戦出場を果たしたのは同8月だった。

 国士舘大学から加入した当時J2の東京ヴェルディを、公式戦で一度も出場機会を得られないまま在籍2年で退団。トライアウトを経て第4キーパーという立ち位置で新井が川崎に加入したのは2013シーズだった。

 川崎でも在籍7年でリーグ戦出場は41試合にとどまった。それでもセカンドキーパーとして「毎日毎日、サッカーだけを考えていれば、サッカーの神様は必ず見てくれる」と自らに言い聞かせながら準備を怠らず、ピッチ外では常にポジティブで明るく、率先してムードメーカーを務めた新井は記録よりも記憶に残る選手だった。

 周囲の誰からも愛される男。その証が2019シーズン限りで川崎を離れながらも、左膝前十字靱帯損傷からの復帰を目指してきた期間に古巣から届いたメッセージの数々だった。新井は改めて感謝する。

「やはり嬉しいですよね。もう7年ですからね。自分が川崎を出てから。こんなに時間が経っても自分の怪我を心配してくれるし、エールをくれるし、本当にめちゃくちゃ助けられました」

川崎時代に日課だった居残り“シュート練習”

 川崎時代は居残り練習で、ストライカー陣のシュート練習の相手を務めるのが日課だった。最初は2013シーズンから前人未到の3年連続で得点王を獲得した大久保嘉人であり、川崎生え抜きの小林悠も参戦した。

 鬼気迫る雰囲気を漂わせたシュートの雨あられが、新井のセービング技術を自然と向上させた。

「本当に素晴らしい選手ばかりだし、彼らの下でキーパーができてすごく自信になるし、学びも多い」

 大久保に続いて、2017シーズンには小林も23ゴールで得点王を獲得。最終節で成就させた奇跡的な大逆転劇でリーグ戦を制した川崎は悲願の初タイトルを獲得し、小林はリーグMVPにも輝いた。

 盟友でもある小林が来年1月1日での現役引退を表明したのは、39歳を迎えた9月23日だった。1つ年上の小林を、敬意を込めて「悠」と呼んできた新井は「(引退は)けっこう前から知っていた」と明かす。

「相談を受けたというか、そのように言っていたからね。悠自身の身体だし、僕たちがどうこう言えるあれじゃないけど、悠が決めたならもう……。でも悠が引退するのはマジできついです。気持ち的にきついですよ。タイミングにしてもあと半年で。もう1シーズンはできない、と。自分の身体じゃ無理だと悠本人が言っていたので」

 すべてはチームの勝利のために。怪我と背中合わせになりながらも、歯を食いしばって懸命にプレーしていた川崎時代の小林の姿は、新井の脳裏に今も鮮明に焼きついている。だから、とばかりに新井が続ける。

「そういう悠の背中をずっと見てきたし、そういう気持ちのところも見習いながら、自分も今までやってこられた。だから悠が抜けるのが一番きついかもしれないけど、今度は自分が逆にほかの選手の希望になっていかないといけないと思うし、だからまだまだやってやろうと思っている。いつかは終わりがくるから、という話を悠はしていたけど、本当にそうだよな……本当に最後、ゴールを決めてほしいと願っています」

 もちろん神戸戦でゴールを決めさせるわけにはいかない。リーグ戦では最後の対戦となった第11節。後半37分から途中投入された小林に対して、ベンチで黒星を見届けた新井はこんな言葉を残している。

「まだ(対戦の)可能性はありますよね。ルヴァンカップでも天皇杯でも。できたら対戦したいし、そのときは僕たちが勝つんですけどね。本当に悲しいけど、最後まで川崎と悠の試合はしっかりと見ます」

 古巣のファン、サポーターへ思いの丈を届けた新井は、小林との会話に花を咲かせた。セレッソ大阪との前節後には、同じく川崎で長くプレーした登里亨平とも言葉を交わしている小林も巡り合わせに感謝した。

「みんないつもエネルギッシュですよね。会うと本当に元気をもらえる。引退を決めてから会うと、彼らがいたから自分もここまでやれたというか、彼らにはまだまだ頑張ってほしいと思っています」

 新井の元気はつらつぶりにパワーをもらったと苦笑した小林は、会話の中身を一部だけ教えてくれた。

「章太とはオフに入ったらお酒を飲もうね、という話をしたので。それまでしっかり頑張りたいですね」

 オフとは秋春制のシーズン中に設けられているウインターブレーク。公式戦の残り試合が最大16試合となり、盃を酌み交わす約束まで加わった最終章を、新井をはじめ、小林に関わってきた誰もが楽しみにしている。

(藤江直人 / Naoto Fujie)



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藤江直人

ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。

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