松木玖生に人生相談「思った場所に行け」 J争奪戦の逸材…背中を押した2人の日本代表

明治大の多久島良紀【写真:安藤隆人】
明治大の多久島良紀【写真:安藤隆人】

明治大4年DF多久島良紀「自分と向き合い直して決断しました」

「自分が成長できると思った場所に行け」

【PR】日本人選手の活躍を毎節無料で!ABEMAでブンデスリーガ放送中!

 日本代表MF松木玖生(サウサンプトン)から贈られたこの言葉は、プロ入りという人生の大きな決断を前にした男の背中を押した。

 2027年から東京ヴェルディへの加入が内定している明治大学4年のDF多久島良紀。対人守備や空中戦の強さ、両足から繰り出す精度の高いキックを武器とする181センチのディフェンダーだ。

 10月21日に行われた関東大学サッカーリーグ1部・第17節、筑波大学との一戦。多久島はリーグ後期から採用された3バックの左CBとして先発出場した。相手の長身FW小林俊瑛に対し、コンビを組む小泉佳絃と小澤晴樹とともにスムーズな連係で抑え込み、タイミングを見た攻撃参加と両足のミドルキックで攻撃のリズムを作った。

 しかし、チームは1-0で迎えた後半41分に左からのクロスを交代出場の1年生FW大石脩斗にヘディングで決められて1-1のドロー。勝ち点3を逃した悔しさをにじませながらも、多久島は新たなシステムへの手応えと課題を口にした。

「ちょっとうしろに重たくなってしまう部分はあるので、そこの改善はしていかないといけないと思っています。ただ、4バックと違って攻撃に出られるし、ウイングバックとコミュニケーションを取りながらサイドを崩すなど、連係も取れるようになってきているので、もっと磨いていきたいと思っています」

 高校時代は左サイドバックを主戦場としながら、CBとしてもプレーしてきた。大学2年時にも3バックを経験しているが、その時は中央を担当しており、左CBに入るのは今季後期が初めてだという。そのうえで、プロの世界で勝負したいポジションについては明確な答えを持っている。

「対人や空中戦、両足のキックという元からのストロングな部分と、1個前の選手に対するコーチングなどプラスアルファを4年間で磨くことができたので、僕の中ではCBで勝負したいと思っています」

 大学で積み重ねてきたものを武器に、いよいよプロの世界へ飛び込む。その多久島にとって、今も大きな刺激となっている2人の先輩がいる。

 青森山田高の1学年上の先輩である松木と宇野禅斗だ。多久島が2年生だった2021年度、青森山田はインターハイ、高円宮杯JFA U-18サッカープレミアリーグ、全国高校サッカー選手権の三冠を達成した。

 松木と宇野がダブルボランチや縦関係のコンビを組んでチームの中心を担うなか、多久島も2年生ながらレギュラーとして活躍。特に左サイドバックとして攻守に存在感を放ち、強烈な個性を持つ先輩たちとともに全国の強豪に立ち向かった(選手権は怪我のため出場できず)。

 その後、松木はFC東京から海外へと羽ばたき、日本代表にまで登り詰めた。一方の宇野もFC町田ゼルビアを経て、ドイツ・ブンデスリーガのボルシア・メンヘングラートバッハへと活躍の場を移した。かつて同じピッチに立っていた2人が世界へと歩みを進める姿を、多久島はどのような思いで見つめているのか。まず話題に上がったのが、松木の日本代表でのプレーだった。

「もうかなり刺激になりましたね。高校時代に一緒にやっていた人がA代表でしっかりと活躍をして、結果も残しているのはシンプルに凄いなと思いましたし、僕もその年代なんだと思うと危機感というか、もっと頑張らないといけないと思いました」

 9月のキリンチャレンジカップ、松木はウルグアイ戦でA代表デビューを果たし、初ゴールも記録した。その姿を見た多久島は、かつての先輩がさらに進化していることを実感したという。

「技術的な凄みを感じました。上手くなっているという軽い表現ではなくて、1つ1つのボールタッチが高校の時よりも凄みが増している。質がすごいんです。それにウルグアイを相手にA代表デビュー、初ゴールを決めるなんて、大事なところで結果を出す勝負強さは相変わらずだなと思いました」

 高校時代から勝負どころで何度も違いを生み出してきた松木。その姿を知っているからこそ、A代表の舞台で結果を残す姿に驚きはない。ただ、世界を経験して身につけたプレーの質の高さには、強烈な刺激を受けた。

 そして、もう1人の先輩である宇野との間には、今も忘れられない日々がある。

「禅斗さんは高校の時にかなり気をかけてもらったんです。高校の時から禅斗さんは『ドイツでプレーしたい』と言っていたのですが、それを今、有言実行して、しかも大きなクラブでブンデスリーガのピッチに立って本当に凄いなと思っています」

 宇野は高校時代から、多久島にとって技術面でも精神面でも頼れる存在だった。

「自主練習のパートナーやパスコントロールのパートナーとして本当に一緒にボールを蹴ってくれましたし、僕が試合中に何か困ったときは、どうしたらいいかとか細かくアドバイスをくれたので、本当に大きかったです」

 筆者にも印象に残っている光景がある。青森山田の試合前のウォーミングアップで、ボランチの宇野がサイドに対角のロングボールやミドルボールを送り、左サイドで待つ多久島がボールを受けてクロスを上げる。その一連の動きを2人はまるで会話を交わしているかのように何度も繰り返していた。その話を向けると、多久島は懐かしそうに振り返った。

「やっていましたね。本当に何回もやりました。禅斗さんはボランチとして守備能力がずば抜けていて、大事なところをきちんとプレスバックやコース切りで潰してくれて、かつマイボールにすることができる。だからこそ、僕も奪ってからのことを考えてオーバーラップができていた。それをアップからイメージしてやっていました。それに禅斗さんのサイドチェンジやロングフィードを受けることで、『こう蹴ればいいんだ』とか、『ここに出せばいいんだ』と学ぶこともできたんです」

 自分の持つ技術を惜しみなく後輩に伝え、困っていれば手を差し伸べる。そんな宇野の存在が、多久島の成長を支えていた。高校3年時には怪我による離脱が続き、思うようにプレーできない苦しい時間も過ごした。それでも青森山田で培った経験を胸に明治大学へ進学し、厳しい競争のなかで自らを磨き続けてきた。そして迎えたプロ入りという大きな分岐点。

 多久島はJクラブが争奪戦を繰り広げるなかで、東京Vを選択した。その決断の裏には、松木からの助言があった。

「玖生さんは本当に進路についていろいろ相談に乗ってもらいました。一番は進路をどう考えているのか、何を大切にして決めるのかを教えてもらいました」

 その時に言われたのが、冒頭の「自分が成長できると思った場所に行け」だった。この言葉は、多久島自身がこれまでの人生で大切にしてきた考え方とも重なった。

 中学時代は大宮アルディージャU15に所属し、U18への昇格という道もあった。しかし、あえてその道を選ばず、青森山田への進学を決断した。そして大学進学も複数あるなかで明治大を選んだ。

「高校進学時は言い訳ができない厳しい環境でプレーしたくて青森山田を選んで、大学進学も人間性のところを重要視している明治に決めました」

 決して目先の条件や安定した環境だけで進路を決めてきたわけではない。自分に何が必要なのか。どの環境に身を置けば成長できるのか。その答えを自分自身で導き出してきた。だからこそ、プロ入りに際しても、その姿勢を貫いた。

「ヴェルディの練習に参加した時に、強度や1つ1つの質を全員が求め合っている、競争し合っている環境だと思ったので、『ここだ』と思って決めました。成長する場所は人それぞれだと思います。僕自身、大宮アルディージャU15から青森山田高校に行くことを決めたことも、明治大学進学を決めた時も、自分なりの確固たる軸がありました。それを大事にしろと玖生さんが言ってくれたので、もう一度自分で自分と向き合い直して決断しました」

 松木は日本代表へ、宇野は夢だったドイツの舞台へ。そして多久島も、自ら選んだ場所でプロサッカー選手としての第一歩を踏み出そうとしている。もちろん、2人の先輩との距離はまだある。だが、彼らの背中を追い続けることと、自分自身の道を切り拓くことは決して矛盾しない。むしろ、誰よりも身近で2人の凄さを知り、ともに汗を流してきたからこそ、多久島には自分もその場所へ近づきたいという強い思いがある。

 憧れの先輩たちから受け取った刺激を力に変えながら、最後に進む道を決めるのは自分自身。何度も選択を重ねてきた多久島良紀は、これからも自らの意志で未来を切り拓いていく。

(安藤隆人 / Takahito Ando)



page 1/1

安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』、新刊は『ともに歩き出す サッカーと家族と新しい日常』(ともに徳間書店)。講演家としても全国を回っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチ。

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング