W杯選外→所属クラブは降格「難しい状況」 24歳独日本人の胸中…代表復帰は「2部にいる間難しい」

ザンクト・パウリの藤田譲瑠チマ【写真:徳原隆元】
ザンクト・パウリの藤田譲瑠チマ【写真:徳原隆元】

藤田譲瑠チマが語った夏の移籍と今

 藤田譲瑠チマは今どんな思いでサッカーと向き合っているのだろう。

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 パリ五輪のU-23サッカー日本代表キャプテンを務め、2024-25シーズンにはベルギーリーグのシント=トロイデンでクラブのシーズンMVPに選出される程の活躍を見せた。25年夏にブンデスリーガ1部のザンクトパウリに完全移籍を果たし、さらなる飛躍が期待されたが、サッカーは時に残酷だ。藤田もクラブも最後まで粘りある戦いを見せたものの、18位で2部降格となってしまった。

 あれから5か月が経った。2部8節ハノーファー戦後に、今季のここまでを振り返ってくれた。順調な毎日だったわけではないことが分かる。少し言葉を探しながら、こう話した。

「そうですね。正直……自分の本調子というか、いい感じを取り戻せたのは直近3試合なので。それを継続しつつ、直さないといけないところも直すという感じかなと思います」

 その背景には、移籍を巡る状況もあった。地元メディアでは移籍の可能性が報じられていたが、結果としてザンクトパウリに残留。去就が定まったことで気持ちの整理がついた部分もあるのかと尋ねると、藤田は「はい、そうですね」と認めた。

 調子が上がらず先発を外れた時期には、こうしたさまざまな状況が少なからず影響していたという。藤田は当時の難しさを隠さずに振り返った。

「自分はそこまで器用じゃない人間なので、周りの人に支えてもらっていましたけど、難しい状況はありました」

 目の前のプレーに集中すると言葉にすることはできる。でも心の底から気持ちを切り替えるのは、簡単なことではない。それでも藤田は今また決意を新たにサッカーと向き合っている。ハノーファー戦ではフル出場。ボールが渡ると、ゲームが落ち着く。相手のプレッシャーを受けるなかでも、ボールを収め、味方が動く時間を作る。そこからパスがつながると、攻撃に流れが生まれ、変化が加わる。ザンクトパウリの中盤でプレーする姿からは、チームを動かす手応えが伝わってきた。フィジカル的にも、メンタル的にも、コンディションが良い印象を受ける。

「もうやるしかないという気持ちなので。今は本当にチームが勝つために自分のやるべきプレーをやるだけです」

 マルセル・ラップ監督も、その存在感を評価している。「選手たちには公平に接する」と明言する指揮官は、実際にピッチで何を示してくれるのかを選手すべてに要求している。一時期藤田について、次のように指摘をしていたことがある。

「実力面で試合に出られる水準にない選手を、名前が知られているという理由だけで起用したりはしない。そしてここまでの試合でのプレーを見る限り、『君は文句なしの先発だ』と言えるほどのパフォーマンスを示していたとは思えない。ただ、彼が良い選手であることも確か。全面的にサポートするし、分析していく」

 そんなラップ監督が調子を取り戻しつつある藤田について、10月に入ったころこんな風に称賛していた。

「ジョエルは、試合を支配できる選手だ。彼のプレーを振り返れば、それが表れている。存在感はどんどん増している」

 藤田も自分のプレーをさらに発揮するために、味方との連係についても積極的だ。

 試合を見ていると、藤田が良いポジションを取っていても、パスが入らない場面がある。そこにボールが届けば、攻撃を前進させられそうに見える。一方、出し手にはリスクのあるパスと映っているのかもしれない。

「そこは伝えながらやっているので、あとは味方が自分にパスを出してくれるかどうかだと思う。最後のところは自分ではコントロールできないので、そういう立ち位置に立つことを継続していくしかないです」

 自分の考えを常に伝えながら、ボールを受けられる場所に動いていく。パスが来なかった場面で動きをやめてしまえば、その先のチャンスも生まれない。藤田は、自分にできる働きかけを続けようとしている。

 今、意識しているのは、自ら相手を動かし、攻撃の道筋をつくること。

「そうですね。自分のところで1枚剥がすところと、どうやって前にボールをつなげるかというところを考えています」

 この日も右サイド、左サイドでボールを持ち、ドリブルで相手に仕掛けて外す場面があった。巧みなボールコントロールで相手をかわし、正確なクロスで味方のビックチャンスを生み出すシーンもあった。こうしたプレーがもっと増えてきたら、味方からボールが預けられる機会もさらに増えてくるだろう。

 そして日本代表への思いを尋ねた時も、まず目の前のチームでやるべきことに話が向かった。

「正直、自分的には、2部にいる間は難しいことだと思っています。本当にチームのことに集中して、できるだけ活躍して。もしステップアップすることができるなら、このチームでの昇格であれ、個人であれ、それは分からないですけど、その時はしっかりとそういったところを見ながらやっていきたいなと思います」

 9月の代表ウィークでは同クラブの安藤智哉が選ばれたように、2部所属だから代表への道が閉ざされるというわけではない。ただそれ以上に藤田は、クラブで自身のパフォーマンスレベルを高め、チームを勝利に導ける存在になるために、今の自分は何に集中すべきか、を大事にしている。

 自分に矢印を向け、さらに成長するために集中して取り組むべき時期。藤田は「はい、そうですね」とうなずいていた。取り戻した感覚を継続し、修正すべきところを修正していく。移籍を巡る難しい時間を乗り越えた藤田。チームの勝利と自身の成長のためにできることへ力を注ぐ毎日が、次のステージへの扉を開いてくれるはずだ。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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