欧州移籍が破談→帰還もベンチの日々「すごく学べる」 急成長の後輩、代表選外も「そういう場所」

先発に復帰した大迫敬介【写真:柳瀬心祐】
先発に復帰した大迫敬介【写真:柳瀬心祐】

大迫敬介は今夏の海外移籍が直前で破談になった

 ワールドカップ北中米大会メンバーの日本代表GK大迫敬介が気持ちも新たに再出発を期している。今夏の海外移籍が合意直前で破談になり、残留したサンフレッチェ広島でも開幕からポジションを失った大迫は9月中旬に先発復帰。広島でリザーブに回った影響で、9月・10月の国際Aマッチ4連戦で選外となった。広島から初招集されて成長して戻ってきたDF中野就斗を介して、日本代表復帰への思いを大きく膨らませている。(取材・文=藤江直人)

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 試合に出られない状況になって初めて、自分がポジションを守り続けてきた価値がわかる。北中米W杯の日本代表のGK大迫敬介は、所属するサンフレッチェ広島のゴールマウスに立てる状況に感謝している。

「何て言うんですかね。僕が出ている試合ではあまり僕がどうこうというか、チームを勝たせる(仕事)とかはしていないですけど、それでも試合に出られる喜びというものをいまはすごく感じています」

 広島のユースから2018シーズンにトップチームに昇格。広島のゴールマウスを守り、2024シーズンからは守護神の象徴でもある「1番」を託された大迫のキャリアは、今シーズンの開幕直前に激震に見舞われた。

 海外クラブへの移籍を前提とした手続きと準備のため、広島を離脱すると発表されたのが7月30日。新天地のとして有力視されたベルギー1部のロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズとは、個人合意に達したとも報じられた。

 しかし、クラブ間の交渉は突然破談となった。大迫と並行してリストアップしていたブルキナファソ代表のエルヴェ・コフィとの交渉を優先させたユニオンSGが8月1日、コフィを期限付き移籍で電撃獲得した。

 まさかの展開で大迫は広島へ残留し、同5日から練習に合流した。しかし、ホームのエディオンピースウイング広島にジェフ千葉を迎えた8日の開幕戦で、大迫はリザーブのまま、3-0の快勝を見届けることになった。

 大迫を欠いた陣容で新シーズンへの準備を進めてきた広島のバルトシュ・ガウル監督は、昨シーズン後にJ3の松本山雅FCから完全移籍で加入したイタリア生まれのキーパー、大内一生を高く評価。開幕戦で千葉を零封すると、その後も大内を先発させ、大迫をリザーブとしてきた。

「開幕直前にいなくなり、戻ってきた敬介自身にとっても、チームにとっても非常に難しい状況だった」

 転機が訪れたのはファジアーノ岡山に2-3で敗れ、初黒星を喫した9月6日の第6節だった。続く同12日のセレッソ大阪との第7節から先発に復帰した大迫は、アビスパ福岡との第8節、相馬直樹新監督のもとで臨んできた東京ヴェルディとの第9節、そしてホームのエディオンピースウイング広島に京都サンガF.C.を迎えた17日の第10節でも先発に名を連ね、広島の4連勝をチームの最後尾で支えてきた。

 シーズン序盤のキーパー交代に関して、ガウル監督は岡山に喫した黒星が理由ではないと説明している。

「敬介とは移籍市場が閉まるタイミングまでは(リザーブで)という話をしていた。実際に市場が閉まり、日本での戦いに集中できる状況になったなかで、(大内)一生とのフェアな競争の末に敬介を選んだ」

 成立目前だった海外移籍の夢を突然奪われ、広島では序列を下げても、大迫は決して下を向かなかった。

「ピッチ上でプレーするのが一番ですけど、外から見ても自分と違うスタイルの選手のプレーを見て勉強できる。一生にしかないものがあるなかで、そういったものはピッチの外から見てすごく学べると思っていました」

 大内にあって大迫にないもの。それはキックの精度の高さを含めた足元の確かな技術だった。

「足元の技術がある一生が、いいイメージをチームにもつけたと思っています。たとえばクリアするにしても捨てボールじゃなくて意図的にクリアするとか、そういったものはいろいろと吸収しています」

 対照的に日本代表においては、大迫はリザーブにすら名を連ねられない状況に直面した。

 北中米W杯後に半年契約で続投した森保一監督のもと、新たなスタートを切った9月・10月の国際親善試合4連戦の日本代表メンバーに大迫の名前は見当たらなかった。

 キーパー陣には守護神・鈴木彩艶(アストン・ビラ)と早川友基(鹿島アントラーズ)の北中米大会メンバーに加えて、大迫に代わってパリ五輪代表の小久保玲央ブライアン(シント=トロイデン)が復帰した。

 東京五輪世代を中心に臨んだ2019年6月の南米選手権のチリ戦で代表デビュー。第2次森保ジャパンが船出した2023年3月以降はコンスタントに招集されてきた大迫は、右手舟状骨を骨折して戦線離脱中だった2024年初頭のアジアカップや、天皇杯準決勝と日程が重複した昨年の11月シリーズは選外になっている。

 しかし、怪我やチーム事情以外で代表に呼ばれなかったのは27歳で迎える今回が初めてだった。

 代表メンバーが発表された9月17日の時点で、大迫はリーグ戦で復帰を果たしたばかりだった。自身が置かれた現実を真正面から受け止めた大迫は、チームメイトのDF中野就斗の初招集を喜んだ。広島からはDF荒木隼人が追加招集され、さらに昨シーズン途中までともに戦ったMF田中聡(シャルケ)も招集されていた。

 そして、代表戦で2試合に先発し、広島に戻ってきた中野の姿にいい意味で衝撃を受けた。

「運動量はもともと多いし、攻守両面で何でもできる選手ですけど、ひとつひとつのプレーの強度であるとか、ボールがないところでの立ち居振る舞いなどを見ていても、ものすごく自信をつけて帰ってきましたよね」

 後輩の成長ぶりにかつての自分を重ね合わせた。代表戦出場は11試合と、招集回数の多さと比べて少ない。それでも東京世代の谷晃生(FC町田ゼルビア)や彩艶、年上の前川黛也(ヴィッセル神戸)、同じ1999年生まれの早川らと切磋琢磨し、ひとつしかない先発ポジションを争ってきた時間は大迫の血肉と化してきた。

 北中米大会後に海外移籍を目指したのも、初めて経験した今夏のワールドカップで、全4試合で先発した彩艶のパフォーマンスを目の当たりにしたなかで、さらなるレベルアップが必要だと痛感させられたからだ。

 そして今回、中野を介して代表がもたしてくれる価値を再認識した。大迫がうれしそうに声を弾ませた。

「仲間が代表に呼ばれて、自信をつけてチームに帰ってくる。やはり代表とはそういう場所なんだな、と。中野を見ていてもそう思えたので、自分もまたそこ(代表)に行けるように頑張りたいと思っています」

 大迫が広島や代表に対する一連の言葉を残したのは、危なげなくクリーンシートを達成した11日のヴェルディ戦後だった。さらに「結果を出し続けるしか、自分にできるアピールはないと思っているので」と続けた大迫は、言葉通りに京都戦の試合開始早々にMF中野瑠馬が放ったシュートを左足一本でビッグセーブ。広島を3-0の快勝に導いた。成長への貪欲な思いをエネルギーに変えて前へ進んでいく。

(FOOTBALL ZONE編集部)



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