J復帰後の「一番苦しかった」時間 真逆の要求で萎縮→ライバル観察…辿り着いた答えは「俺しかいない」

新潟の若月大和【写真:アフロ】
新潟の若月大和【写真:アフロ】

苦悩を味わった若月大和の成長

「アルビレックスのFWでその両方をできるのは俺しかいないと思っているんです」

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 この言葉を聞いた時、若月大和がまた1つ、ストライカーとして大きな階段を上がろうとしているのだと感じた。

 10月11日、レモンガススタジアム平塚で行われた明治安田J2リーグ第10節、湘南ベルマーレvsアルビレックス新潟の一戦。

 0-0で迎えた後半5分、若月が持ち前のスピードを生かして最終ラインの背後へ飛び出した。MF古長谷千博から絶妙なアウトサイドのスルーパスが届くと、右足で放ったシュートはGK真田幸太に阻まれたが、足を止めることなくこぼれ球に反応。最後は右足で押し込み、今季2点目をマークした。

「相手の3番(袴田裕太郎)の手が顔に当たって、バランスを崩して倒れていたら、相手がちょっとマークを外してくれたんです。それで味方がボールを奪った瞬間、『これ来た!』と思って走り出しました」

 一瞬の隙も逃さない。そして裏のスペースができたらずば抜けたアジリティを武器に一気に加速していく。まさに若月らしいゴールだった。

 試合は後半29分に新潟のMF大西悠介が退場となり、数的不利となったチームは同44分に追いつかれ、1-1のドローに終わった。それでも、若月にとってこの一戦は大きな意味を持っていた。

「今シーズンで一番手応えのある試合でした」

 その言葉の裏には、新潟にやって来てから味わってきた苦悩と、ようやく掴みかけている確かな成長があった。

 桐生第一高時代から圧倒的なスピードと鋭い動き出しを武器にしてきた。高校卒業後は湘南からスイスのFCシオンへ期限付き移籍し、帰国後は湘南、レノファ山口FCを経て、2025年に新潟へ加入した。

 170センチと決して大柄ではないが、一瞬の加速で相手を置き去りにし、ゴールへ一直線に突き進む。その攻撃性こそが彼の最大の魅力だった。

「スイスでもベルマーレでもレノファでも、とにかく僕に求められたのは、どんどん仕掛けろ、背後を狙え、ひたすら走れ、だったんです」

 だが、新潟で求められたものは違った。足もとでボールを受けたり、相手を背負って収めたりして、周囲を使いながら攻撃を組み立てる。これまで自らの武器を最大限に生かすことを求められてきた若月にとって、それはまさに未知の領域だった。

「『受けろ』というタスクに苦しみました。特に新潟に来た初年度が一番苦しかった」

 どうやってボールを受ければいいのか。いつ動き出し、どこに立てばいいのか。考えれば考えるほど、かつての思い切りの良さが失われていった。

「周りから『大和ってもっとガツガツしてなかったっけ?』と思われるくらい縮こまっていた」

 それでも、若月はワンタッチプレーを磨き、相手DFとの駆け引きを学び、ボールを受けるタイミングを探り続けた。試合に出られない時期もあったが、自分に足りないものと向き合い続けた。

 そして2025年12月から船越優蔵監督が指揮を執るようになると、ポゼッション中心のサッカーから、縦への推進力を重視するサッカーへと変わった。ここで若月は再び自分の武器を全面に押し出せるようになった。

 J2・J3百年構想リーグでは全試合に出場し、3ゴール1アシストをマーク。J2リーグ2026-27シーズン開幕から1トップとして連続スタメンを果たした5試合は、「自信にみなぎっていた」と振り返るほど積極的にシュートを放った。だが、1ゴールと結果がなかなかついてこない。ボールロストも増え、やがてベンチスタートを経験するようになった。

 転機となったのが、第8節のブラウブリッツ秋田戦だった。ベンチスタートとなったこの試合で、今季3試合目となるスタメン出場を果たしたFW桑山侃士の1トップとしてのプレーをじっと見つめていた。

 184センチのサイズと屈強なフィジカルを誇り、前線でロングボールや縦パスをしっかりと収めて起点を作る桑山のプレーに対し、目の間の船越監督は何度も手を叩いて「ナイスだ!」と叫んでいた。

「侃士はどんなボールでも、どんな状況でも胸トラップで収めて起点を作って、周りの選手も前向きにプレーできて躍動感があった。それに対しての船越監督のリアクションを見ても、『やっぱり俺にもこれが必要なんだ』と改めて思った。『これができるようになったら再び使ってもらえるようになる』と思ったんです」

 そこからプレーに変化を加えた。ロングボールにも積極的に競り合い、どんなボールでもマイボールにして味方へつなぐ。前線で身体を張り、チームの攻撃を支える。さらに落ちてボールを受けて周りに散らしてリズムも作り出す。このプレーは2025年シーズンに試行錯誤していたこともあって、知らず知らずのうちに土台ができつつあったことで、思った以上にスムーズに対応することができた。

 秋田戦では途中出場から1アシストをマークすると、続く徳島ヴォルティス戦でスタメン復帰を果たした。1トップの位置で身体を張ってボールを収める。若月が前線で起点を作り出したことでチームは攻勢に出ることができ、試合も2-1の勝利を収めた。しかし、この試合のオフ明けに分析コーチから呼び出された。

「大和、最近シュートを打っていないよね?」

 その言葉にハッとした。確かにポストプレーや収めることに頭がいきすぎてしまって、普段の紅白戦でも徳島戦でも積極的に仕掛けてシュートというシーンが出せていなかった。

「僕はストライカーなのに、ボールを受けることに執着していたな、と。チームも勝てていたので、自分がいい影響を与えているという手応えもありましたが、同時にストライカーとしての物足りなさを生んでしまったんだと」

 そこで迎えた湘南戦だった。収めるべきところでは身体を張ってボールを収める。一方で、相手の背後にスペースがあれば迷わず飛び出し、強引にでも仕掛ける。かつての自分と、新潟で苦しみながら身につけた自分。その2つを融合させるようなプレーが、ようやくできた。それが1ゴールにもつながった。

「これまでは背後をガンガン狙っていきたい時は僕を使うけど、前線で起点を作りたいとなると選択肢は僕じゃなかった。でも、それを僕ができるようになれば、どんな時でも選択肢の上に来るはず。それが僕の武器だと思っています。この試合はその手応えを掴むことができた試合になったと思います」

 この言葉に、若月の現在地が凝縮されている。小柄だからポストプレーはできない。スピードが武器だから裏への飛び出しだけを磨けばいい。そんな固定観念を自ら壊そうとしている。

 変わったのはプレーだけではない。百年構想リーグで副キャプテンを任されたことも、自身の結婚も大きな転機だった。

「そこで他責思考は消えました。人のせいにしていられない。自分が態度で示さないと、見ている人は見ているので」

 芽生えてきた責任感も彼が前に進むエネルギーとなっている。最後に若月は「すべてに意味がありましたね」と一言つぶやいた。

 スイスでの挑戦も、湘南での経験も、山口で取り戻した自信も、新潟で味わった苦悩も。すべてが今の自分につながっている。そして、今、これまでとは違う景色が見え始めている。

 24歳の若月大和が目指すのは、アルビレックス新潟をJ1へ導くこと。そのためにゴールを奪い、身体を張り、仲間を生かし続けること。かつての自分を超えていく。その新たな挑戦が、今、確かに始まっている。

(安藤隆人 / Takahito Ando)



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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』、新刊は『ともに歩き出す サッカーと家族と新しい日常』(ともに徳間書店)。講演家としても全国を回っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチ。

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