追加点→FWがGKで緊急登板「お願いしたい」 失った先発の座…ポジティブさを支える野心

帝京高の山田知希【写真:安藤隆人】
帝京高の山田知希【写真:安藤隆人】

帝京高3年FW山田知希「チームのために走って、結果を出す」

「1ゴール、1クリーンシートなんてやった人、いるんですかね(笑)」

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 屈託のない笑顔でそう語る姿を見て、改めてこの男は面白いと思った。帝京高3年のFW山田知希。明るく、ポジティブで、どこまでもギラギラしている。自分に対する自信を隠さず、悔しいことは悔しいと口にする。それでいて、どんな状況でも前を向き、周囲を明るくする力を持っている。

 そんな彼にとって、プリンスリーグ関東1部第15節・桐生第一戦は、まさに一生忘れられない試合となった。

 1-0で迎えた後半31分にエースストライカーのFW東江心平に代わって投入されると、直後の35分。MF川邊晴一が右サイドから中央へドリブルで持ち運ぶと、山田は一度相手CBゼイダム小田孟武から離れるプルアウェイの動きでマークを釣り出し、その背後に生まれたスペースへ飛び込んだ。

 川邊からのスルーパスを受けると、右足でボールを止め、左に持ち出して左足を一閃。強烈なシュートをゴールに突き刺して貴重な追加点を奪った。

「本当は右足でトラップして、そのまま右足で打ちたかったんです。でも、ちょっとパスが弱くて足もとに入ってきたので、切り返して左足で振り抜きました。実はここ2、3週間、右足が痛くて左足のシュート練習ばかりやっていたんです。その成果が出ましたね」

 苦手だった左足で決めた会心の一撃。しかし、この日の山田の見せ場はこれだけでは終わらなかった。後半45分にGK荒川喜道が退場処分を受けるアクシデントが発生。すでに交代枠を使い切っていた帝京は、フィールドプレーヤーの誰かがGKを務めなければならなくなった。

 藤倉寛監督が最初に指名したのは川邊だった。ところが、緊迫した状況に川邊は「知希にお願いしたいです」と山田を推薦。ベンチからも賛同の声が上がり、まさかのGK山田が誕生した。

「僕は最初、交代カードを使い切っていたことを知らなかったんです。ユニフォーム姿の(控えGKの池田)勝宗がベンチ前まで出てきて、川邊もベンチに向かって走って行ったので、てっきりそのまま川邊と勝宗が交代すると思っていたんです。そうしたらいきなり僕が呼ばれて(笑)。びっくりはしましたが、状況を聞いて身体能力的にGKをやるなら川邊か僕だなと思ったので、『みんなが言うならいいか』と思って引き受けました」

 背番号9が刻まれた青いパンツはそのままに、緑の背番号1のGKユニフォームを身にまとった山田。つい先ほどまで相手ゴールを狙っていたストライカーが、今度は自陣のゴールを守ることになった。

 しかも退場のきっかけを作ったファールで、桐生第一は絶好の位置でのFKを獲得。いきなり失点のピンチという場面でゴールマウスに立ったが、彼は落ち着いていた。シュートは壁に当たり、こぼれ球のクロスからファーサイドでヘディングシュートを打たれるが、しっかりと反応して右手でセーブ(結果的にオフサイドの判定)。

 その後もゴールキックやパントキック、コーチングも冷静にこなし、2度のクロスキャッチなど堅実なプレーで見事に4分間のアディショナルタイムをしのぎ切って、無失点で試合を締めくくった。

 試合後、チームメイトから称賛と愛のあるいじりを受けながら山田は終始笑顔だった。だが、この底抜けの明るさの裏には、決して小さくない悔しさがある。

 昨年、2年生ながらプリンスリーグやインターハイ、選手権予選で出場機会を得ていた山田に対し、同学年のFW東江はBチームでプレーしていた。しかし、今年に入って立場が逆転。急成長した東江がスタメンの座を掴み、プリンス関東1部で得点を量産する一方、山田は途中出場が中心となった。

 しかも、チームは1トップを採用。FWの椅子はたった1つしかない。

「前期は『なんでだよ』と思っていた時期がありました。心平は僕と同じ裏抜けタイプのFWで、結果を出し続けているので現状は受け入れていますが、もちろん悔しさはあります」

 その言葉に嘘はない。決して現状に満足しているわけでも、レギュラー争いを諦めたわけでもない。ただ、夏を境に彼の中で1つの変化が生まれた。

「藤倉監督から途中交代で流れを変えるという役割をしっかりといただいているので、そこを実行することは常に大事にしています。それに下を向いていてもいいことはないし、それで自分のいいパフォーマンスが出せなくなるのが一番嫌なんです。だからこそ、どんな状況でも自分の力を出すためにはどうすればいいかを考えています」

 この言葉こそ、彼の本質を表しているように思う。悔しさを抱えたまま、今の自分にできることを全力でやる。スタメンを奪い返すためにも、まずは与えられた時間で結果を残す。その姿勢が、夏を越えて確かな形となって現れ始めた。

 前節の流通経済大柏B戦では、1-1で迎えた後半44分にMF渡辺莉太の絶妙なスルーパスに反応。角度のない位置から迷わず右足を振り抜き、劇的な決勝ゴールを奪った。そして、今回も途中出場からゴール。2試合連続で結果を残した。

「途中交代が多いことに納得はいっていません。でも、ここ2試合は自分の形で点を奪えたので自信になりました」

 この潔いまでの本音がいい。自分の立場に納得していないからこそ、結果で覆してやろうという野心がある。それでいて、チームのためならどんな役割でも引き受ける。その両方を持っているからこそ、彼の明るさには力がある。

 次に見据えるのは、最後の全国高校サッカー選手権予選だ。昨年は西が丘サッカー場で行われた準決勝・堀越戦に途中出場したが、チームは1-2で逆転負けを喫した。あっという間に過ぎ去った時間と、思うようなプレーができなかった悔しさが今も胸に残っている。

「この1年間は選手権の舞台のために頑張ってきました。スタメンだろうが途中出場だろうが、やることは1つです。チームのために走って、結果を出す。ベンチでも大きな声を出してポジティブにして、出る時はそのポジティブさをピッチに持ち込む。それが大事です」

 昨年の悔しさも、今年レギュラーを奪われた悔しさも、すべてを自分のエネルギーに変えていく。

 どこまでも明るく、どこまでも貪欲に。この男が最後の選手権予選でどんなドラマを生み出すのか。今から楽しみで仕方がない。

(安藤隆人 / Takahito Ando)



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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』、新刊は『ともに歩き出す サッカーと家族と新しい日常』(ともに徳間書店)。講演家としても全国を回っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチ。

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