横浜FMを苦しめた大学生 J1内定の技巧派…“代名詞”に満足しない姿勢「生き残っていけない」

京都産業大4年MF末谷誓梧「成功体験が大学サッカーで積み上がった」
「技術だけでは厳しいと思ったんです」
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この言葉に、京都産業大4年のMF末谷誓梧が大学4年間で遂げてきた進化の本質が詰まっている。
10月7日、日産スタジアムで行われた天皇杯3回戦、横浜F・マリノスvs京都産業大の一戦。試合は1-2で敗れたものの、末谷はJ1の強豪を相手に鮮烈なインパクトを残した。
168センチ・65キロのドリブラーは相手の逆を巧みに取る持ち前の鋭いドリブルで横浜FMの守備陣を翻弄。前半35分にはMF福永裕也のパスを左サイドで受けると、寄せてきたDF井上太聖に対して先に駆け引きを仕掛けた。
「相手の井上選手は1対1の能力が高いことは分かっていたので、重心をうまくずらせたら突破できると思ったんです」
末谷は縦とカットインの両方を匂わせながら、井上を自分の間合いに誘導すると、足がそろった瞬間に右へ仕掛ける素振りをして、井上の重心が左足に乗った瞬間を見逃さなかった。逆方向に生まれたスペースへ一気に飛び込み、スピードの緩急と懐の深い切り返しという技術を駆使して一気に置き去りにした。
そのままエンドラインを抉るようにドリブルを仕掛けると、シュートを匂わせながら相手DFとGKをピン留めしてからニアサイドのスペースに飛び込んできた福永へラストパス。これを福永が蹴り込んで、先制点を導き出した。
試合はその後、後半14分にCB小野成夢が1発レッドで退場し、そのファールで与えたFKを決められて同点に追いつかれ、同23分には逆転ゴールを浴びるなど苦しい展開となったが、10人になってからも末谷の切れ味の鋭いドリブルは相手の脅威となり続けた。
逆転弾を浴びる直前の後半22分には左サイドで再び福永からのパスを受けると、今度は寄せに来た井上に間合いを与えない加速力で一気に縦突破をし、クロスカットを試みた井上の「股の間を狙った」折り返しのクロスから中央でフリーの福永へ。井上の股を通ったボールはMF知念慶が伸ばした足に当たるも、福永の前にこぼれて決定機に。シュートは枠を逸れてしまったが、ビッグチャンスを生み出した。
その後も鋭いドリブル突破でカウンターの急先鋒となり、後半42分に交代するまで大きな存在感を放った。
「この試合は僕の人生の中で一番大きな舞台でした。こういう相手に自分がどれだけできるかは楽しみでしたし、本当に刺激的な時間でした」
試合後こう語ったように、覚悟を持って臨んだ大舞台でなぜ彼はここまで鋭いドリブルを存分に発揮することができたのか。それは大学入学時から徹底して取り組んできたフィジカル強化に絶対の自信を持っているからだった。
兵庫の技巧派クラブであるセンアーノ神戸ジュニアで「人もボールも動くサッカー」のなかで個人技術と戦術眼を養ってきた。セレッソ大阪U-15、U-18でも足もとの技術を磨き、ドリブル突破は彼の代名詞となった。しかし、それに対し彼は大きな危機感を抱いていた。
「サイドのドリブラーというタイプなので、何か1つ突出したものを持たないと、この先は生き残っていけないと感じたんです。高校までに技術は鍛えることができましたが、技術だけでは絶対に厳しくなる。身体能力のところをきちんと積み上げていかないと、より怖い選手になれないと思ったんです」
彼は自身の大学の4年間をプロになるためにフィジカルベースの向上とフィジカルの活用法を身につける時間と位置付けた。
「まずはシンプルに筋力をつけないといけないので、1年生からトレーナーの方にメニューを作ってもらって、主に下半身を中心にそのメニューをひたすら繰り返しました。途中である程度ベースができてきたので、そこから瞬発系のトレーニングを増やしてアジリティの強化を重ねてきました」
アジリティとは、素早く方向転換し、身体を自在に動かす能力のこと。末谷は自らのドリブルをより高いレベルで通用させるために、この能力の向上を最優先課題に据えた。技術を生かすアジリティ、アジリティで剥がした後に技術を生かす。これこそが自身の生きる道だと固く信じて毎日を積み重ねた。
3年生になると彼のドリブルは大学生ではなかなか止められなくなった。細かなステップを踏みながら一瞬で相手の逆を取る。小回りの利く動きに力強さが加わり、相手を置き去りにする突破の回数が増えた。
「仕掛ける回数というか、サイドをえぐれる回数は大学に入って飛躍的に増えました。シンプルにフィジカル能力が向上したことが要因ですし、そこを磨きながら実戦での成功体験がどんどん大学サッカーで積み上がっていったことで、今の僕があると思います」
さらに京産大ではウイングバックを経験したことで、守備面でも成長。サイドアタッカーとしての幅を広げてきた。そして10月5日、2027年1月から水戸ホーリーホックに加入することが発表された。
「水戸は6月に練習参加をしたっきりだったので、どこで起用されるかは分かりません。基本、左サイドだと思います」と口にする彼だが、すでに新天地でのプレーイメージも描いている。
「水戸の試合を見ていると、左サイドで優位性を作り出せているシーンが多いので、そこで自分が前向きに受けることができればチームとしてチャンスかなと思っています。右で作って左で勝負。GK西川幸之介選手からの一発のパスを受けて仕掛ける。後方から質の高いボールがどんどん来る印象なので、それを正確に受けて仕掛けるイメージはできています」
もちろん、ドリブルだけで満足するつもりはない。
「フィジカル面をさらに継続してやることはもちろんですが、あとはドリブルだけではなく、仲間を生かすプレーや周りを使ってからまた入っていくプレーなど、自分の引き出しを増やすことを継続してやっていきたいです」
技術だけでは生き残れない。そう考えた少年が、技術を生かすための身体を手に入れ、J1の強豪相手にも自らの武器を明確にプレーで示した。
だが、それは完成形ではない。個で局面を打開する力に、周囲を生かす判断と連係が加わった時、末谷誓梧というサイドアタッカーはさらに厄介な存在になるはずだ。
(安藤隆人 / Takahito Ando)
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』、新刊は『ともに歩き出す サッカーと家族と新しい日常』(ともに徳間書店)。講演家としても全国を回っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチ。






















