元代表FWが“社長”として挑むJFL昇格 投資に見合わぬ順位も…新興クラブの希望「確実に戦える」

IKOMA FC 奈良の社長を務める播戸竜二【写真:アフロスポーツ】
IKOMA FC 奈良の社長を務める播戸竜二【写真:アフロスポーツ】

初年度リーグ4位の“失敗” 後半の快進撃を支えた影の立役者

 元日本代表FW播戸竜二を社長に据え、天皇杯特別協賛SCOグループがオーナーを務める、タッグで今季からスタートしたクラブ「IKOMA FC 奈良」。サッカー界史上最大規模1500機ドローンショーのキックオフイベント、選手寮あり、栄養士付き。クラブバス、試合後インタビューのバックボードまで用意して、鳴り物入りで臨んだクラブ初のシーズンは、関西リーグ(J5相当)4位に終わった。

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 この順位のみ見れば、明らかに“失敗”だ。到底、その投資額に見合う結果とは言えない。ただ、初年度最大の功績は、この失敗を乗り越えるだけの「希望」を手にした点だ。(取材・文=守本和宏)

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 J通算123ゴールを誇るFW都倉賢、U-21日本代表にも名を連ねたDF柳貴博(第5週で海外移籍)など、錚々たるメンバーを揃えて始動したチームは、結成直後から大苦戦を強いられた。

 練習試合とはいえ、ガンバ大阪ユースに2-7で大敗。クラブ初公式戦・天皇杯奈良県予選は下部カテゴリーの相手に4得点で快勝したが、関西リーグ初戦は前年王者アルテリーヴォ和歌山に0-4で大敗。以降、第9週まで3勝2分4敗と、黒星先行の戦いとなる。

 全チームと戦っても、個人技で完全に負けた試合は1つもなかった。ただ、他チームより完成度が劣っていたのは当然で、特に攻撃の打開力が足りなかった。地域リーグには“堅いチーム(DF・中盤も含め)”が多い。例年の優勝チーム成績から考えれば、許される黒星は2つ前後。まず負けないことが大事な地域リーグでは、5バックで守られるケースもしばしばあった。

 IKOMA FC 奈良には、サイドバックのユ・イェチャンなど鋭いクロスを入れる選手もいる。だが、開始から数十分でビッグチャンスを数回作って決められなければ、相手が守りの態勢に入る。すると、アタッキングサードでアイデアがなく、ミドルもあまり打たないチームは攻めあぐねる。その後、試合終盤に何かしら守備の綻びが出て失点、1点差で敗戦。そんな試合展開が、リーグ前半は続いた。

 しかし、そこからチームはリーグ後半で怒涛の4連勝。最終週まで優勝の可能性を残す快進撃を見せる。その要因は、主に2点だと考えている。

 1つ目は、後半の連勝を支えた2人、MF前川大河とDF鈴木大誠の加入だ。

 前川大河は技術の高い選手で、攻撃寄りのボランチ、あるいはワントップ後ろの右側シャドーとして、攻撃の軸を担った。正確なボールタッチから余裕あるプレー、頻繁なポジションチェンジにより幅広いエリアでボールを受けて、攻撃に厚みを持たせた。このアクセントによって、決定力不足が改善したのは大きい。

 もう1人の鈴木大誠は守備の統率者として、3バック中央に入り、もともと良かった守備をより高いレベルに昇華させた。その統率力にはYouTube LIVEにゲストで参加した那須大亮氏も「すごくレベルの高いラインコントロールしていますね」と感心の声を寄せる。ピッチ上で90分間通じて声で指示を送り、チームに足りなかった“元気”を与えて、周りの選手を1つ上の次元に押し上げたのは、大きな連勝の要因だ。

 そして2つ目は、3-4-2-1システムへの変更である。

 8月1日、天皇杯奈良県代表決定戦決勝でJ3・奈良クラブ相手に初披露となった、ワントップのうしろに2シャドーを置くこのフォーメーション。それまで4-4-1-1だったが、システム変更により、強いセンターバックを3名使える。中央に鈴木大誠が入り、攻め込んだらラインを上げて相手にフィードを出させなくする、コンパクトな守備が可能になった。強豪Cento Cuori HARIMAに全くチャンスさえ与えなかった守備は、見事の一言だ。

 守備が安定すると、次第にサイドプレーヤーも輝くようになった。チームトップクラスのセンスを誇る“ダイヤの原石”、ブラジル移籍を経験した23歳の荒川永遠が、覚醒して3試合連続ゴール。身長190センチのナイジェリア人FWエメカ・バジルは3試合で4得点と火を噴いた。初めてこの布陣を採用した奈良クラブ戦は、前線と守備のつなぎが分断されていたが、翌週以降MF荒井秀賀をボランチの前に出し、リンクマンとして起用。修正に成功している。このあたりの堅い守備を生かしたスタイルは、DF出身で日本代表にも名を連ねた髙木和道監督らしい采配と言えるだろう。

影の立役者、播戸竜二社長の改革力

 それらに加えて、リーグ後半の快進撃の影の立役者は、もう1人いる。社長1年目の播戸竜二だ。

 上記のようにシーズン途中で行った積極補強は、絶え間なくチーム改革を行った末の成果。何よりDF鈴木大誠は、奈良クラブという同県最大のライバルチームからの移籍。地元出身選手とはいえ、その手腕は何より大きい。さらにピッチ外でも、リーグの折り返し以降、元ガンバ大阪の和田弘メディカルアドバイザー、データ戦略部にアナリスト佐々木竜治を招き入れるなど、テコ入れを素早く行った。

 それだけでなく、リーグ後半戦再開となったおこしやす京都AC戦(8月23日)の試合前には、ピッチにクラブスタッフ全員を緊急招集。「ここまで何一つ満足していない」と、苦言を伝え、チームに警鐘を鳴らした。MF芳賀海斗は「正直、試合前のこのタイミングで(言うの)? と思ったが事実でしかない」と悔しさを受け入れ、MF油野匠栄は「あの言葉で火が付いた」と、若手が多いチームに危機感と結果への強いこだわりをもたらした。

 本人に、リーグ後半の強化で意識したことは何だったか尋ねた。

「現場は和道(髙木監督)、強化は大介(青野GM)らに任せたところも多分にあるから、しっかりチームを作ってくれた結果でもある。ただ、常に彼らには『満足してないぞ』と言ってきた。成果が出なかったら補強するし、入る選手がいたら出ていく選手もいる。それがサッカークラブ。いろいろなチャレンジをして、応援してもらえるクラブとして成長しているので、来年以降も“バンバン”やっていきたい」

 その求心力は、クラブの未来を作る「希望」となる。多方面から多大なサポートを得て、地域リーグ4位フィニッシュは、明らかに望まれた結果ではない。しかし、10月後半に行われる全社で3位以内に入り、全国地域サッカーチャンピオンズリーグ(通称:地決)を勝ち抜けば、まだJFL昇格の可能性は残っている。その夢を追い続ける限り、失敗は1つの過程にしかならない。

「あの失敗があったからこそ、強豪クラブになれた」といつか胸を張って言えるように。失敗から学び続けた今シーズン。最終的に身に着けた「このチームなら確実に戦える」という確かな希望を胸に、決戦の大会「全社」へと10月24日、挑む。



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