森保Jに再招集の24歳は「ベッサーマッハー」 3部降格→1部昇格…生かしたチャンス「持っている」

田中聡はフォルトゥナ・デュッセルドルフで3部降格を経験
日本代表MF田中聡は、今季ブンデスリーガのシャルケに加入した。2節のバイエルン戦からレギュラーに定着し、評価を高めている。1年2か月ぶりに森保ジャパンに招集された24歳に“現在地”を聞いた。(取材・文=中野吉之伴)
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「目の前のことをしっかりやっていけば、こういうチャンスが巡ってくるんだなと思っています」
田中聡の言葉には、ここ半年間で経験した様々な浮き沈みへの思いが凝縮されている。取材に訪れたブンデスリーガ第4節のホーム、エルフェルスベルク戦。その試合後のミックスゾーンで、話を直接聞くことができた。
25-26シーズンの冬に2部フォルトゥナ・デュッセルドルフへ移籍した田中。16位で前半戦を折り返す苦しいチームを救うべく奮闘したが、最終的に17位で3部降格を経験。悔しさややるせなさを抱えながらも、1部昇格を果たしたシャルケから声がかかり、田中は心機一転1部クラブで新たな戦いをスタートさせている。
開幕戦ではボランチの位置にロン・シャレンベルクがスタメンで起用されたが、この試合でレッドカードで退場。田中は第2節ドイツの絶対王者バイエルン戦で先発起用されると、そこで得たチャンスを生かし、その後連続でスタメン出場を果たしている。
「バイエルン戦に出られたことが大きかったと思っています。開幕戦でボランチの選手がレッドカードをもらっていなかったら、多分、自分に出番は回ってこなかったと思いますし。ラッキーというか、『今、自分は持っているんだな』という感じで思っています」
0-0の引き分けに終わったエルフェルスベルク戦では、味方のサポートのために細かくポジションを変え続ける田中の姿があった。
ボールを持つ味方の近くに顔を出し、次のパスコースを作る。いつでもダイレクトパスで展開できるように準備をしている様子がうかがえる。一方で、前へ出た味方の背後を埋め、危険なスペースは空けない。セカンドボールへの出足が鋭く、相手への距離を一気につめてボールを狩りにいく姿には、シャルケのファンから拍手が送られていた。
ドイツ語で「ベッサーマッハー」という言葉がある。直訳すれば「より良くする人」。自分が目立つことだけを目的にするのではなく、周囲を生かし、周りの選手をうまくするような存在を指す言葉だ。田中のプレーには、そんな特徴が見えるような気がする。
後半20分にとても印象的なプレーがあった。ペナルティーエリア内でパスを受けて、フェイントから仕掛けようとしたものの、相手を完全にかわしきれず、ボールを奪われてしまう。だが、そこで足も、思考も止めない。一気にダッシュで戻ると、自陣ペナルティエリア付近まで走って相手の攻撃をカット。さらにそのまま再び前へ向かっていった。
試合後、あのプレーについて「ああいうプレーは、もう自然にできている感じなんですか」と尋ねると、田中は少し考えてから「やっぱり気持ちじゃないですかね」と笑顔とともに答えた。
「きついですけど、日頃から結構ハードな練習をしているので、やっぱり日頃の積み重ねが試合に出ると思います。しんどいですけど、歯を食いしばって走っているという感じです」
後半33分に途中交代するまで、田中は攻守にわたって走り続けた。いまシャルケで先発をつかんだことについて、日々の取り組みの積み重ねがあってこそだと考えている。
「デュッセルドルフで降格したのはすごく残念ですけど、自分はこういう舞台に来られました。シャルケに来て最初は全然試合にスタメンでは絡めなかったですけど、ちゃんとやることをやっていれば、こうやってチャンスが巡ってくる。だから、『先のことを見すぎずに』というのは、今は心がけています。周りともあまり比べないようにしています」
その言葉からは、謙遜というより競争の激しい環境を生き抜こうとする田中の覚悟が伝わってくる。そしてその姿勢は、よりよい自分になるために挑戦を続けている現在の田中にもつながっている。
エルフェルスベルク戦では攻撃面でボールを引っかける場面もあり、縦へのパスを出せる機会も多くなかった。本人も、まだ改善できる部分をはっきりと自覚している。
「個人的には、今日またスタメンで出られたことはすごくうれしかったです。でも、今日のようなパフォーマンスだったら、またスタメンも危ういと思う。しっかり代表でプレーして、いろいろプラスに成長して、またチームに帰ってきたらと。しっかりやっていきたいと思います」
特に自分自身に求めるのは攻撃面でのさらなる成長だ。
「攻撃のところで縦パスだったり、どんどんボールを受けて散らしたりというところは、もっとできると思っています。今日はちょっと引っかかるシーンが多かったですし、縦パスもあまりさせなかったので、そこはもっと出していきたいなと思います」
今回日本代表に招集されたこともまた、田中にとっては一つの「チャンス」だった。代表活動を新たな成長の機会として捉えている。
「また代表に行ったら、新たな刺激やプラスになるものを得られると思うので、すごくいいチャンスだと思っています。いろいろチャレンジしたいですね。攻守において、代表の中で、どれだけ自分が通用するのか。海外組がいる環境で代表チームでプレーするのも初めてなので、その中でどれだけ自分の力を出せるのかというのは、すごく楽しみです」
降格から始まった昨季の終わり。新天地でのベンチスタート。そして、巡ってきた出場機会をきっかけに、シャルケでつかみ始めた先発の座と日本代表。半年間で環境は大きく変わった。それでも田中が意識していることは、変わらない。目の前の結果や事象に一喜一憂せず、自分の成長に矢印を向けながら、毎日に全力で向き合い続けているのだ。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。


















