実家は牧場、視力2.0の「俯瞰眼」 中学で引退検討も…引き留めた「お前は続けるべきだ」

旭川実業2年・MF山腰崇真「本気でやるなら一番強いところでやりたかった」
7月25日から福島県で開催されているインターハイ。全国の予選を勝ち抜いた51校が一発勝負のトーナメントでしのぎを削っている。今回はこの大会で輝いた選手をピックアップしていきたい。7月28日の3回戦で矢板中央を2-1で下してベスト8進出を手にした旭川実業。快進撃を続けるチームの中で、2年生レギュラーとして左サイドからの攻撃を支えるMF山腰崇真を見た時、「しっかりと周りが見えている選手」という印象を受けた。
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ボールを受ける前から全体を見渡してポジションを取り、ボールを受けてからも顔が上がっている。そこから左足で精度の高いクロス、横パス、スルーパスを送り込む。キックの質もさることながら、見えている場所が面白い。そう感じて話を聞くと、山腰の視野は生まれ育った場所で育まれたものだったことが分かった。
「家が坂の上にあるのですが、周りが開けた牧場で、小さい頃から放牧されている馬を見ていました」
出身は北海道南部、日高山脈を背にする新ひだか町。「優駿・競走馬に会えるまち」として知られ、多くの日本を代表する名馬を輩出し、次世代を担う駿馬を育んでいる土地でもある。
周囲を牧場に囲まれた環境ゆえに、小さい頃から遠くを見ることが習慣化され、「サッカーをやっていても自然と逆サイドや遠い場所を見るようになった」という。雪の多い北海道とあって、冬場はフットサルにも打ち込み、地元のArearea FCでは足元の技術と左足を武器に、展開力のある選手として左サイドバック、センターバック、ボランチで力を磨いた。中学2年生の時には北海道コンサドーレのアカデミー所属選手も多く名を連ねる中で、北海道からナショナルトレセンU-14のメンバーにも選ばれた。
当然のように道内の強豪校から声がかかったが、中学3年生になると「サッカーは高校まで」と考えていた。
「正直、サッカーはもういいやと思ってしまっていて、高校も地元の道立高校に行こうと思っていたんです。でも、(Arearea FCの)コーチが何度も『お前はサッカーを続けるべきだ』と説得してくれた。本当に熱意を感じて心が揺さぶられて、『高校でも本気で打ち込もう』と覚悟が決まりました」
数ある誘いの中で、「中学の先輩もいるし、本気でやるなら一番強いところでやりたかった」と、足元の技術を生かしたサッカーと縦への速い展開を両立し、ハイレベルなサッカーを展開する旭川実業を選んだ。
高校に入ると左サイドハーフでのプレーが多くなり、「より対角を見るようになって、相手のウイングバックやサイドバックの裏、GKとCB、CBとボランチの間、DFラインの間は常に狙うようになりました」と、視野の広さはさらに研ぎ澄まされていった。
迎えた今大会、1回戦の大阪桐蔭戦では後半2分に鮮やかな左足クロスを送り込み、MF小山涼太のゴールをアシスト。2回戦の松本国際戦でも左から縦突破やカットインで1枚剥がしてからのアーリークロスやサイドチェンジ、さらにはクロスを上げると見せかけて中央のスペースに走り込んだボランチへ意表を突く横パスを通すなど、意外性と正確性にあふれるプレーを披露した。3回戦の矢板中央戦でも左サイドで起点を作り出し、ベスト8進出に貢献した。
「旭川実業も坂の上にあるので、開けた景色が見えるので好きです」と言って笑う2年生レフティーの視力は2.0だという。ただ単に目がいいというだけではない。幼い頃から牧場の向こうに広がる景色を眺め、ピッチに立てば逆サイドや相手の背後、そのさらに先へと視線を送ってきた。
新ひだか町から旭川市へ。生活する場所は変わっても、目の前にはいつも開けた景色があった。そして今、山腰はその視野を武器に、全国の舞台で誰よりも遠くを見ている。次にその左足が見つけ出すのは、旭川実業にとってまだ見ぬ景色かもしれない。
(安藤隆人 / Takahito Ando)
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』、新刊は『ともに歩き出す サッカーと家族と新しい日常』(ともに徳間書店)。講演家としても全国を回っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチ。




















