日本が負った”大きな代償” ローブロック局面60%…ブラジル戦は「決して惜しい試合ではなかった」
![[図表1]ブラジル対日本のxG・実得点と基本スタッツ。出典:FIFA WORLD CUP 2026「Post Match Summary Report」のデータをもとにAIで作成](https://www.football-zone.net/wp-content/uploads/2026/07/02164739/20260702_morimoto1.jpg)
連載「北中米ワールドカップData Lab.」第7回、ブラジルvs日本データ分析
北中米ワールドカップ(W杯)の激闘の裏側で、何が起きているのか――。史上初の3か国共催、出場48チームが全104試合を戦う世界最高峰の舞台を、FIFAが試合後に公開するデータを最新AIで読み込みながら、アナリストが分析していく連載「北中米ワールドカップData Lab.」。日本時間6月30日に行われたラウンド32で、日本代表はブラジルに先制しながらも終了間際に決勝点を奪われ、1-2で敗れた。この試合をFIFA公式データ「Post Match Summary Report」をもとに分析。僅差のスコアとは裏腹に、日本の苦しい戦いぶりが数値に表れていた。(文=森本美行)
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決勝トーナメント1回戦で、日本はブラジルに1-2で敗れた。“サッカー王国”を相手に先手を取る戦いを見せた日本だったが、スコア以上にこの試合のデータは、ある示唆を与えてくれた。森保一監督が率いたチームは何ができて、何が足りなかったのか。
前半29分、センターサークル内でインターセプトに成功した佐野海舟が自らボールを前進させ、対峙したカゼミーロを振り切って先制点を叩き込んだ。スコアボードに刻まれた1-0のスコアは、後半11分に1-1に変わるも、その後もチーム一丸となった守備で凌ぎ後半アディショナルタイムへ。だが後半45+5分、ガブリエル・マルティネッリに決勝点を決められ、ノックアウトステージでの初の1勝に、また一歩届かなかった。
しかし、この試合のFIFAの公式スタッツを見ると、ブラジル相手の勝利があと一歩ではなく、まだまだ遠い道のりであることを示すデータが並んでいた。ポゼッション率はブラジルの61.6%に対して30.3%、xG(ゴール期待値)はブラジル2.12、日本0.26。シュート数は19対5、枠内シュート数は7対2。「良い試合だが、決して惜しい試合ではなかった」。残念ながら、これがこの試合の実態だった。
これまで本連載で何度も紹介してきたが、xGとは過去の膨大なシュートデータから得点の確率を計ったものだ。日本のxG=0.26は、この試合で確率的に0.26点しか取れないことを示す。つまり、ほぼ決定機を作れていなかったということだ。1本あたりのxGはわずか0.052(ブラジルは0.112)。1点を取るために20本のシュートが必要だということだ。しかし、それでも日本は1点を奪い、「もしや」の期待を持たせてくれた。それは日本がブラジルに勝ち、今大会で優勝する可能性があったことを意味するのだろうか。
![[図表2]日本のローブロック局面とポゼッションの推移。出典:FIFA WORLD CUP 2026「Post Match Summary Report」のデータをもとにAIで作成](https://www.football-zone.net/wp-content/uploads/2026/07/02164833/20260702_morimoto2.jpg)
ポゼッションを手放した日本の戦い方
この試合、日本は自らの強みを最大限まで使い切ったと言える。その過程で生まれた日本の先制点は、ブラジルを別のチームに変えた。
日本のポゼッションはグループステージ3試合の平均45.7%から30.3%にまで減少し、ボールを保持しない、できない時間帯である「ローブロック」の局面が60%まで高まった(図表2参照)。この数字は、今大会の驚きの試合の一つになったカーボベルデのスペイン戦と、この日の日本が記録したのみだ。その代償として総走行距離は114.9kmと、これまでの4試合で最も長い距離を走らされ、一方、ファイナルサードで受けたボールはグループステージで平均111回だったものが81回にまで減少した。
ブラジルはカルロ・アンチェロッティ監督の下、グループステージでは47〜51%とそれほど高くないポゼッション率で、xG=2.06を叩き出していた。しかしこの試合、日本がボールを持つ時間が極端に少ないことから、ポゼッション率は61.6%へと押し上げられ、ファイナルサードへの進入数は250回(グループステージでは84~139回)に増えた。しかし得点機会となるトランジション局面は大幅に減り、わずか6%、カウンター局面も1%といずれもこの大会で最低の数字となった。日本の低い位置でのコンパクトで規律正しい守備ブロックを崩せなかったブラジルは、時間の経過とともにそのやり方を変えざるを得なかった。
![[図表3]出典:FIFA WORLD CUP 2026「Post Match Summary Report」のデータから著者が作成](https://www.football-zone.net/wp-content/uploads/2026/07/02164907/20260702_morimoto3.jpg)
ブラジルが後半から変えた戦い方
ブラジルは左サイドに、今大会のスーパースターの1人であるヴィニシウスを配置している。そのプレースタイルはスピードに乗ったドリブルで中に切れ込み、鋭いシュートやラストパスで決定的な仕事をするというもの。サイドから五分のボールを放り込み、勝負するのは彼らのスタイルではない。[図表3]は、ブラジルの今大会4試合でのクロス数だ。グループステージ3試合とは異なり、日本戦ではクロスの数、それもペナルティーエリア外から放り込むクロスが圧倒的に多かった。
FIFAのレポートでは、クロスの時間など詳細までは明記されていないため、これだけ変化のあったクロスについて改めて映像からデータを取得した(図表4参照)。FIFAのプレー定義及びシステム上での取得のため、数値に違いはあるが、概要をつかんでもらえればと思う。
![[図表4]ブラジルの日本戦でのクロスの内訳。出典:著者作成](https://www.football-zone.net/wp-content/uploads/2026/07/02164932/20260702_morimoto4.jpg)
後半のクロス数が激増
クロス数そのものが非常に多いことに加え、左からのクロス、アーリークロス、後半のクロス数が激増しているのが分かる。後半に入ってからクロス数が2倍以上に増えたのは間違いなく、ローブロックを敷き続ける日本の守備をこじ開けるための手段として、ロッカールームで出された指示だろう。
前半は中央でプレーすることの多かったヴィニシウスや、後半開始からルーカス・パケタと交代で入ったエンドリッキが外に張ってボールを受けることで、日本の最終ラインは横に引っ張られることになった。左サイドのヴィニシウスに前を向かれた時、1人で止めるのは簡単ではないため、堂安律+伊東純也、堂安+冨安健洋、時に堂安+伊東+冨安の3人で見ることさえある。
ブラジルの左サイドに人数が寄せられ、最終ラインのガブリエウやドグラス・サントスに十分なプレスがかからない状態で、長く正確なクロスを中央に放り込まれる。前半のガブリエウのクロスは0本、ドグラス・サントスは1本のみだったが、後半はそれぞれ4本ずつの計8本が左サイドの浅い位置から上げられ、そのうち1本がカゼミーロの同点ゴールに結びついた。
さらに長く放り込んだボールの行き先は、ペナルティーエリア内での競り合いに繋がる。そこで発生するセカンドボールへの対応は、規律とか組織的といった日本の強みが発揮しづらい状況だ。その状況が続けば続くほど選手は疲弊し、エラーが起こる確率が高まってしまうのも当然だ。アンチェロッティ監督が「後半我々は必ず逆転できる」と言い切り、後半アディショナルタイムに2点目が決まった際、ベンチでまったく感情を爆発させなかった振る舞いを見ると、この戦術に対して確固たる自信があったのだろう
![[図表5]出典:FIFA WORLD CUP 2026「Post Match Summary Report」のデータをもとにAIで作成](https://www.football-zone.net/wp-content/uploads/2026/07/02165013/20260702_morimoto5.jpg)
日本に「W杯で優勝する力」はあったのか
グループステージでの日本は、1試合あたりの被xG=0.40で、スペインの0.16の次に守備が安定したチームだった。相手を危険なエリアに進入させないために大事なことは、前線からの効果的なプレスと、こまめなラインコントロール、そして球際の厳しさであり、日本の組織力、規律、献身性が最も発揮される局面だ。
一方で攻撃のxGは平均0.97で、48チーム中29番目の数字。それでもグループステージでは7得点、1試合平均2.3得点をあげてきた。オランダ戦ではxG=0.34に対して2得点、チュニジア戦ではxG=1.36に対して4得点、スウェーデン戦ではxG=1.22に対して1得点。スウェーデン戦を除き、選手のシュート技術の高さと運による上振れが、1試合平均2.3得点の実態だ。
そして今大会で1試合平均xG=2.06、1試合平均2.3得点と実力どおりの力を発揮してきたブラジルから、日本が1点を守り切るプランを取るのは現実的ではなかった。日本は森保監督の卓越したチームマネジメント力とスタッフ全員の驚くべき献身性で、「負けにくい」守備組織を作り上げることができた。しかし、W杯を“勝ち抜いていく”ために必要な再現性の高い攻撃の設計と、状況に応じて戦い方を変えるカメレオンのような生存本能を持つことはできなかった。
これが今大会で日本が直面し、それをデータが示した現実だ。日本にあったのは「番狂わせを引き寄せる力」であり、「優勝に突き進むための力」ではなかった。違う景色を見るために何が必要なのか、しっかり検証する必要がある。
(森本美行/Miyuki Morimoto)
森本美行
森本美行
もりもと・みゆき/1961年生まれ。92年米ボストン大学経営大学院でMBAを取得。2002年にスポーツデータ配信や分析を行うデータスタジアム株式会社の代表取締役に就任。16年には日本初の野球独立リーグ四国アイランドリーグplusを運営する株式会社IBLJの代表取締役及び一般社団法人日本独立リーグ野球機構の常務理事を務めた。またJリーグのヴィッセル神戸や東京ヴェルディ1969、京都サンガF.C.などでトップチームのアナリストを歴任。鈴鹿ポイントゲッターズや慶応義塾大学体育会ソッカー部などでは、コーチとして選手を指導した。現在は横浜FCでデータ戦略アドバイザー、ヴィアティン三重のデータアナリストを務めている。














