J名門チームが掴んだ米国のハート 「本当に障害って何」…“一皮も二皮も剥けた”選手の大変身

日本の代表として米国で開催された「GENUINE WORLD CUP 2025」に出場したフトゥーロ【写真提供:横浜F・マリノス】
日本の代表として米国で開催された「GENUINE WORLD CUP 2025」に出場したフトゥーロ【写真提供:横浜F・マリノス】

Jリーグ初の知的障がい者サッカーチームが米国の国際大会に出場

 Jリーグ初の知的障がい者サッカーチーム「横浜F・マリノス フトゥーロ」は今年の夏、米国で開催された国際大会に出場し、1つのトロフィーを日本へと持ち帰った。関係者が「選手たちの振る舞いが多くの人に良い印象を与えた証」と語る栄誉。その言葉の意味とは。日本を代表し海外で戦ったチームの挑戦に迫った。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治/全3回の3回目)

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「本当に障害って何なんでしょうね」

 Jリーグ初の知的障がい者サッカーチーム「横浜F・マリノス フトゥーロ」(以下、フトゥーロ)で代表を務める水上大輔氏は、今夏出場した国際大会で獲得したトロフィーを前にそうつぶやいた。7月27日から8月3日まで米ヒューストンで開催され、世界22か国から38クラブが集結した「GENUINE WORLD CUP 2025」。17歳から29歳まで13名のメンバーで参加したフトゥーロは、「2ND ENERGY/SYMPATHY of the2025」という栄誉を手にした。

「大会は当初、レバークーゼン(ドイツ)との第1試合しか決まっていませんでした。その勝敗で第2試合以降が決まるという仕組みで、大会期間中は試合直前まで開始時間や相手が分からない状態だったんです。最終的には38クラブを2つに分けた予選リーグが行われた後、5グループに分かれ順位決定トーナメントが実施されました。

 ただ、それぞれのトーナメントで優勝したチームが優れたチームというわけではなく、参加した全チームがそれに値するという考えだったんです。フトゥーロが獲得した『ENERGY/SYMPATHY』という賞は大会に活気をもたらしたチームに贈られるもので、参加した各クラブの投票によって1位から3位が決まり、そのうちの2位にフトゥーロが選ばれたわけです。すごく嬉しい賞で、大会期間中の選手たちの振る舞いが多くの人に良い印象を与えた証だと実感しました」(水上氏)

 とはいえ、選手の多くは親元を離れ慣れない環境の中で送る海外生活。障害特性としてコミュニケーション面での困難に加え、言葉の壁もある。

「もちろん、全員が慣れない海外遠征にうまく順応できたわけではありません。中にはメンタル的に不安定になる選手もいましたから、スタッフが一丸となってフォローし、最終的には全員笑顔で米国をあとにすることができました」

 大会期間中、選手に一体何が起きたのか。

フトゥーロ代表で米国遠征に団長として同行した水上大輔氏【写真:FOOTBALL ZONE編集部】
フトゥーロ代表で米国遠征に団長として同行した水上大輔氏【写真:FOOTBALL ZONE編集部】

選手の活気に巻き込まれ大会を通して増えたフトゥーロのファン

「アメリカに着いた当初、選手たちは大人しかったんです」と水上氏。しかし、38ものクラブが世界中から集った環境下、初日の移動中に選手のスイッチが入る出来事が起きる。

「バスで他の海外クラブと乗り合わせることになり、そのクラブが自チームのチャント(応援歌やコール)を歌い出すと『君たち(フトゥーロ)にはないのか?』という流れになったんです。結局はその場で“チャントバトル”が繰り広げられ盛り上がりました。これが良いきっかけとなり、次の日からは自分たちから積極的に他チームの選手たちとコミュニケーションを取る姿が見られました」

 大会期間中、水上氏を団長とするスタッフは、200羽の折り鶴など用意した“日本の文化”で他クラブとの交流を促した。ただ、選手の自発性は水上氏らの想像を大きく上回った。

「選手の活気が本当にすごかったんです。試合中もベンチメンバーがずっとチャントを歌いながら応援していて、知らない間に大会ボランティアまで巻き込んで。日を追うごとにフトゥーロを応援するボランティアの数が増えていきました。そして、最終日には表彰式で選手たちが横浜F・マリノスの代表的なチャントの1つである『We are marinos』を歌っていたら、ボランティアの方々も一緒に歌ってくれるまでの間柄になりました。

 また、現地ではヒューストン日米協会の方々や相手チームの応援に来ていた家族とも仲良くなり、そうした方々もフトゥーロのファンになっていったんです。『いつの間に』と驚くと同時に『すごいな』と感心しっ放しでした。きっと選手たちの純粋な姿が色んな人たちを巻き込んでいったんでしょうね。横浜F・マリノスとフトゥーロの価値を選手自らが高めてくれました」

 選手は大会を通して間違いなく大きく成長した。帰国後の報告会では保護者から「表情が大会前後で全く違う」「一皮も二皮も剥けて自信にあふれた姿で日本に帰ってきた」といった感想が水上氏の元に寄せられたという。しかし、成長よりもむしろ選手がもともと持っていたポテンシャルがさまざまな要因によって引き出されたと言う方が正しいのかもしれない。選手への接し方とともに大会の雰囲気を水上氏はこう振り返る。

「先日、ある研修で今大会について話す機会があり、選手たちに特別な配慮はあったかとの質問を受けました。考えてみましたが、思いつかなかったんですよ。“特別な配慮がないことが特別”だったのかなと。ある意味、それこそが多様性が保たれた状況と呼べるかもしれません。

 変な壁を作らず、障害があるからという先入観を持たない。大会自体にも障害に対するマイナスな考えが入り込む余地がそもそもありませんでした。すべてを受け入れるフラットな雰囲気が特徴でした。みんな違って、みんないい――そんな空気感に包まれた大会だったと思います」

フトゥーロに贈られた「2ND ENERGY/SYMPATHY of the2025」のトロフィー【写真:FOOTBALL ZONE編集部】
フトゥーロに贈られた「2ND ENERGY/SYMPATHY of the2025」のトロフィー【写真:FOOTBALL ZONE編集部】

「世界ではプロサッカークラブが知的障がい者のチームを持つことがスタンダード」

 大会に出場したことで、選手の中にも新たな夢や目標が芽生えた。メンバーの1人である髙橋侍助(18)は「将来は日本代表に選ばれたいです。また、もっと練習してチームを支えられる存在として試合に貢献できるようになりたいと思いました」と語る。

「GENUINE WORLD CUP」は今年でまだ2回目という新しい大会。「来年もこの大会に出たい」と語る水上氏は、海外でのプレー機会に対する将来的な構想を次のように教えてくれた。

「大会を通して驚いたのは選手たちの姿勢だけではなく、出場チームにはレバークーゼンに加え、ASローマ、マンチェスター・シティ、マンチェスター・ユナイテッド、パリ・サンジェルマン、アヤックス、インテルといった世界的ビッグクラブが名を連ねていたことです。そんな状況を目の当たりにして、世界ではプロサッカークラブが知的障がい者のチームを持つことがスタンダードなのだと実感しましたし、大きな発見でした。海外の大会に出るにはさまざまな条件がありますが、それでもサッカーは世界的なスポーツですから、海外と関わる機会を今後も作っていけたらと思います」

 フトゥーロにはこれからも、Jリーグクラブの知的障がい者サッカーチームにおける先駆けとして世界でのプレゼンスを高めていくことを期待したい。と同時に、日本でもプロクラブが知的障がい者のチームを持っていることが当たり前、そんな未来の実現が望まれる。

(FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治 / Ryoji Yamauchi)



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