スペイン6年半で「考え覆された」 オファー白紙で帰国決意も…逆輸入の悩み「苦労した」

山本摩也が振り返る柴崎ファミリーとの出会い【写真:増田美咲】
山本摩也が振り返る柴崎ファミリーとの出会い【写真:増田美咲】

INAC神戸の山本摩也はスペインで複数チームプレー

 女子サッカーの未来を考える――。5年目を迎えたWEリーグと、FOOTBALL ZONEは共同企画「WE×ZONE ~わたしたちがサッカーを続ける理由~」で、日々奮闘する選手たちの半生に迫る。第3回はINAC神戸レオネッサのMF山本摩也。早稲田大学を卒業後、即スペインに渡って6年半プレーし、INAC神戸では4年目を迎える。明るくクレバーな32歳MFの連載第4回は、スペインと日本、文化の違いについて。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小杉舞/全5回の4回目)

【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!

   ◇   ◇   ◇

 スペインで過ごした6年半、山本にとっては代え難い時間だった。早稲田大学を卒業後、即渡欧してバレンシアに加入。22歳でスタートしたスペイン生活では日本との違いを痛感する毎日だった。

「日常では結構ガサツで適当なところもあるけど、みんな幸せそうなんですよ。レジの途中で『私帰る時間だから』と言って帰っていく店員さんとかいました(笑)。でもそういう人たちに惹かれていって。自分にないものを持っている。考えも覆された」

 衝撃を受けたのはサッカー面でも。日本では試合の日、キックオフの約2時間前にスタジアム入りするのが一般的だが、スペインでは1時間20分前ぐらいだったという。「パパっと支度してアップも15分ぐらいやって『さあ行こう!』みたいな感じだった」。日々を過ごすなかで、だんだんと「考えすぎなくていいのかな」と心が軽くなっていったのが分かった。自分の感情に素直に、正解はない。だからこそ、チーム選びも自らの気持ちに正直だった。

「バレンシアから一旦環境を変えようと思っていた頃、ちょうどオファーが来た。2チーム目のサラゴサへ移籍して、めちゃくちゃ調子良かったんですけど、前十字靭帯の怪我をしてしまって。日本で手術とリハビリを終わらせたら、その時、リハビリの状態でもいいよと声をかけてくれたチームがあったんです」

 3チーム目に選んだのは元日本代表MF柴崎岳が所属していたデポルティーボ。山本が2018-19シーズンに所属し、翌シーズンから柴崎が男子チームに加入した。同い年でスペインで初めて出会った日本人の仲間。積極的に話しかけ、友情関係を築き上げた。

INAC移籍の経緯を回想【写真:増田美咲】
INAC移籍の経緯を回想【写真:増田美咲】

新たな親友…柴崎岳ファミリーとの出会い

「奥さんの真野恵里菜さんと仲良くなって、ご飯に行くようになりました。ゲームをしたり、友達みたいに3人で過ごしていましたね。日本人が同じチームにいる状況はあまりないし、刺激ももらった。出会いがあって良かったなと思いますね」

 順調なキャリアを重ねた6年半。だが、山本は再び「変化」を求めた。「いい意味でも悪い意味でも慣れちゃっていた。自分の中で。これはチームを変えて変わるものじゃないなと思ったので、国ごと変えたいと思って、イタリアやフランスで探しました」。ただ、コロナ禍の影響でオファーが白紙に。その時、国内に誕生したばかりだったWEリーグの存在が頭をよぎった。

「1回この状態で日本に帰ったらどんなもんなんだろう……と、パッと思ったんです。そしたら、ちょっとワクワクしてきた。無理だったらスペインに帰ってこようと思っていたので。WEリーグの何チームかと連絡を取って、運良くINAC神戸が興味あると言ってくれた」。当時の安本卓史社長との面談を経て、帰国が決まった。

 しかし、6年半過ごして“スペイン化”した山本にとって、日本の環境は戸惑いをもたらした。

「案の定、1年目はちょっと苦労した。サッカー面もそうだし、それ以外の面でも。スペインとは感覚も違う。自分がちょっと外国人選手みたいな感じになっていて、このチームでスペインの感覚を出せばメリットになるのか、日本人の感覚に合わせればメリットになるのかを考えていました」

 特に、オフ・ザ・ピッチの雰囲気はスペインと違った。だからこそ、現地で学んだ“個性”を失わず心に正直進むことに立ち返った。「ベースは日本に合わせるんですけど、スペインっぽい明るさは出すようにした」。日本の戦術に合わせつつ、ハイブリッドなスタイルを確立。その試行錯誤が、現在のINAC神戸で、そしてWEリーグで、独自の存在感を放つ彼女の礎となったのだった。

page1 page2

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング