15歳で言われた「家を出ろ」 父から究極の“二択”…中2でデビューも号泣で決めた名門進学

INAC神戸のMF山本摩也【写真:増田美咲】
INAC神戸のMF山本摩也【写真:増田美咲】

INAC神戸MF山本摩也はスフィーダ世田谷で才能を開花

 女子サッカーの未来を考える――。5年目を迎えたWEリーグと、FOOTBALL ZONEは共同企画「WE×ZONE ~わたしたちがサッカーを続ける理由~」で、日々奮闘する選手たちの半生に迫る。第3回はINAC神戸レオネッサのMF山本摩也。早稲田大学を卒業後、即スペインに渡って6年半プレーし、INAC神戸では4年目を迎える。明るくクレバーな32歳MFの連載第1回は、強靭な精神力の土台となった人生最大の選択について。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小杉舞/全5回の1回目)

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 まさか15歳で人生最大の決断を迫られるとは思わなかった。中学1年でスフィーダ世田谷(現なでしこリーグ1部)へ加入。小学校から男子に混じってサッカーを始め、女子チームのスフィーダでは中学2年からトップチームで活動し、都リーグにも出場するなど、早々から才能を開花させた。

 同世代だけでなく、幅広い年齢層と高め合う日々。「本当に運が良くて、私は中学生だったけど周囲がピッチ内外で『自由にやりな』という空気を作ってくれた。伸び伸びできて楽しかった。だからそのままスフィーダで高校もプレーしたかった」。思い描いていた進路。だが、山本が見ていた現実はまだ甘かった。

「ダメでした。両親が許しませんでした」

 小学校入学とともにサッカーを始めた。両親はシャイな性格だった山本の背中をそっと押してくれ、支えてくれる存在だった。週3回のサッカーに加え、習い事はアトリエ(絵画・工作)とヒップホップダンス。「最初はダンスの発表会もみんなの前で踊るとか恥ずかしくて、母の前だけしか踊らないような子でした。徐々に慣れて度胸もついて。ダンスのリズム感はサッカーにもつながっている気もしましたし、コミュニケーションを取ることもできていきました」。6年間習ったダンスを辞め、中学からはサッカー一筋。一方で、私生活は「大荒れしていた」という。

「反抗期もあったと思う。サッカーはかろうじてちゃんとやっていたんですけど、そのサッカーさえもサボっていた時期もあった。クラブチームだったので夜11時ごろの帰宅になったりもする。トップチームで出ていたので年齢の離れた周囲の人と関わることもあって、悪いことはしていないけど……。恐らく両親はこのまま行ったら道を外れるなと思ったんじゃないかと思うんです」

15歳で下した人生最大の決断を回顧【写真:増田美咲】
15歳で下した人生最大の決断を回顧【写真:増田美咲】

家を出るか、十文字高校か……“反抗期”山本へ両親の思い

 中学3年、紅葉も色付いてきたある日、両親にリビングへ呼ばれた。「ちょっと来い」。神妙な顔つきの2人が並んで座っており、向かいへ腰を下ろした。父の言葉に受けた衝撃は今でもはっきりと思い出せる。

「十文字高校に進学するなら今まで通り俺たちが助ける。お金も生活も全部。もう1つの選択肢は、自分で仕事を探してもう家を出ろ」

 15歳の摩也少女にとっては驚きを隠せなかった。

「もう全部自分でやれ、お金も出さないし、スフィーダでやりたかったら自分で全部やれという究極の二択を出されて。でも、やっぱり全部自分でやるのは無理だし、今から家を出ますという覚悟もなかった。まさかそんなことを言われると思っていなかったので、泣きながら『十文字に行く』と言いました」

 十文字高校は文武両道の名門。女子サッカーも全国大会で優勝経験がある常連だ。中卒で自活か、自らを鍛え直す進学か――。選択の余地はなかった。

「しばらく引きずりましたね、自分の意思じゃなかったので。厳しいという話を聞いていたし、本当に行きたくなかった」

 ただ現実は迫り来る。十文字高校の入学式。年頃の女子にはよくある、制服を着崩してピアスをつけ、門をくぐった。「山本さん、ちょっと来て」。そのまま連れて行かれたのは職員室。しかも声をかけられたのは担任だった。号泣して選択した進学先だったが、スタートも思い通りにいかなかった。

「初日で怒られちゃって、大変でした。ただ、実際に行ってみて、今となっては本当に行って良かったと思います。サッカーも強かったし、いろいろな経験ができた。学校もサッカー部も厳しかったけど、身についたことがたくさんあるし、自分自身がしっかりしたと思う」

 15歳のあの日下した決断に当時は縛られていた。敷かれたレールだと感じていた。だが違う。与えられた環境で自身に何ができるか、何をやろうとするか。自分次第で未来は変えられる。のちに一浪して早稲田大学へ進み、スペインへ渡る山本。簡単には決断できない行動力の土台は、中高時代に作られた。きっかけは何であれ、無駄にはしない。だからこそ、今もボールと向き合っている。

(FOOTBALL ZONE編集部・小杉 舞 / Mai Kosugi)



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