中村憲剛も驚きの技術力…体得した「蹴り方」 局面を打開する”俯瞰的視野”…上から届ける「意外性」

川崎の山本悠樹が体得した一つのパス
サッカーを観ていて楽しい瞬間がある。それは、ボールを持った次の瞬間、こちらの予想を裏切るプレーを見れたときだ。もちろん、いい意味で、である。
【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!
川崎フロンターレの山本悠樹は、今年そんな選手になりつつある。昨季、ガンバ大阪からやってきたクラッキは、今季はチーム不動のボランチとして中盤に君臨している。ピッチの盤面全体を把握するような俯瞰的視野によるゲームメークに磨きがかかり、局面の技術でも違いを発揮し続けている。
例えば第34節の清水エスパルス戦。前半だけで4得点を記録した試合だが(最終スコアは5-3)、彼は2度に渡って見事な浮き球をゴール前に届けている。ボールを擦り上げるような蹴り方で味方に届ける、いわゆる「フライングパス」で、2点目のコーナーキックに繋がったマルシーニョに出した絶妙な1本と、エリソンのダイレクトボレーを演出した1本が、それだ。地面を使って低く速く届けるのではなく、空を使って滞空時間を長くして味方に届ける。惜しくもゴールには結び付かなかったものの、見ていてワクワクする意外性のある配給だった。
今季の山本悠樹はこのパスを駆使して決定機を演出するようになっているのだが、振り返ってみると、クラブOBである中村憲剛FROが時おり使っていた光景が思い出される。
現役時代の中村は、強くて速いスルーパスの名手として知られていたが、空間を使った浮き球のパスも自在に使いこなしていたからだ。例えば、2009年の南アフリカワールドカップ出場を決めたアジア最終予選のウズベキスタン代表戦で、背後に抜け出した岡崎慎司に向けて届けた中村の浮き球パスは、サッカーファンには有名なシーンだろう。
地上がどんなに相手選手で密集していても、空中ではカットされることがない。守っている相手の意表を突くだけではなく、あえて浮かせたボールを届けることで後方から走り込んでいた受け手が間に合うように時間が調節できる。そんな狙いがあるのだと本人が明かしてくれたことがある。
そして山本がフライングパスを使い始めた背景には、中村FROの存在があるという。
7月のホーム鹿島アントラーズ戦でマルシーニョの決勝弾の起点を山本は担っている。アシストした家長昭博に届けた浮き球があまりに絶妙だったので、試合後に尋ねてみると、全体練習後に中村FROと練習していたキックだったと明かしてくれた。そう、中村憲剛直伝だったのである。
「あの出し方を憲剛さんと練習していて…。とても細かい話なんですが、蹴り方、ボールの当て方、練習したものがそのまま出ました。点で合わせるというか、スペースに置いてあげる。滞空時間を長くする感じですかね。憲剛さんも(試合後に)喜んでいました。細かい蹴り方を教えてくれる方がなかなかいないので、助かってます」
山本本人はそう言って微笑んでいた。もちろん、時間を調整する発想や感覚を持っていても、それを体現できる技術力がなければ試合では武器にならない。しかし、山本は教わった直後に試合で表現してみせた。指導した中村FROも驚いていたようだった。
あれから3か月が過ぎ、今ではあのフライングパスを完全に体得しつつある。清水戦後、「すっかりコツは掴んだのでは?」と山本に尋ねてみると、現在は自分なりにアレンジしている最中なのだと明かし始めた。
「あの辺は憲剛さんのやり方と自分のやり方をすり合わせてます。この歳になっても、そういう技術的なところで成長できるんだなっていうのは感じましたし、その辺を細かく言ってくれる存在がいるというのはありがたいですね。あとはケンタロウさんもちょこちょこ言ってくれるんで」
山本が触れた「ケンタロウさん」とは、今季から強化部に加わった森谷賢太郎である。彼もパスの名手であり、独特の蹴り方で無回転のミドルシュートを得意としていたプレイヤーだった。山本はルヴァンカップ準決勝でミドルシュートを記録しているが、ああいう選択にも好影響を与えているのかもしれない。
山本は現在27歳。三笘薫(ブライトン)とは同世代であり、ユニバシアード(大学選抜)でもチームメートだった。サッカー選手としてはここから脂がのってくる時期だ。技術的にも戦術的にもまだまだ伸び代しかないだろう。
偉大なクラブOBからのアドバイスを受けながら、どこまで成長していけるのか。今季のリーグ戦は残り3試合だが、楽しみでならない。

いしかわごう
いしかわ・ごう/北海道出身。大学卒業後、スカパー!の番組スタッフを経て、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の担当記者として活動。現在はフリーランスとして川崎フロンターレを取材し、専門誌を中心に寄稿。著書に『将棋でサッカーが面白くなる本』(朝日新聞出版)、『川崎フロンターレあるある』(TOブックス)など。将棋はアマ三段(日本将棋連盟三段免状所有)。





















