上昇曲線の英クラブ中心にいる日本人 移籍後に失点激減…欧州最高峰へ「チャレンジしている」

トッテナム・ウィメンで英1年目を戦う古賀塔子
トッテナム・ウィメンが、変わりつつある。すでに、昨季とは違うと言っても良い。その変化の要因として、新センターバックの古賀塔子がいる。
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10月12日、ウィメンズ・スーパーリーグ(WSL)第6節は、敵地でのチェルシー・ウィメン戦に敗れた(0-1)。2019年のWSL初昇格以来、11度目のリーグ対決で11敗目。カップ戦を含めれば、過去8年間で、通算16試合を計46失点の全敗という対戦成績ではある。
スコアは、12チーム中11位に終わった、昨季終盤のリーグ対決時と変わらない。だが前回は、チェルシーにすれば、WSL6連覇を決めた4日後の消化試合。シーズン序盤のリーグ戦では、今回と同じ敵地での対戦に大量5失点で敗れていた。その点、リーグ3位として首位のホームに乗り込んだ今季初対決は、最小得点差での惜敗。内容的にも見るべきものがあった。
両軍無得点で終えた前半、トッテナムは、格上に15本のシュートを打たれてはいても、絶好機は与えずにいた。枠内シュートの本数では、2対1で逆に相手を上回った。ピッチ上には、堅い守備組織が見られた。マーティン・ホウ新監督が、後方からつないで攻めるチームの基盤として最も重視する要素だ。
昨季、2試合に限られたリーグ戦での無失点が、今季は開幕6戦で3試合。後半戦は1勝しかできなかったチームが、すでに4勝を上げている。守備陣で唯一の新戦力でもある古賀は、全試合に先発フル出場中だ。
この日のチェルシー戦は、チームと自身の双方にとって、今季の実力テスト第2弾と目された強豪戦でもある。初回の第3節マンチェスター・シティ・ウィメン戦(1-5)とは違い、先制を許したあと、前半だけで3点差とされてしまったような守備の崩壊はなかった。試合後、古賀は言っている。
「守備に置かれる時間が長いなかで、前半はしっかり守ることができていました。最後はロングシュートだったので、自分が何かできたかと言われたら、何もできなかったんですけど、そういうところは、やっぱり1つ、チェルシーの方が上だなと感じました」
実際、勝敗を分けた後半16分のゴールは左下隅に飛んだ、相手MFキーラ・ウォルシュのシュートを褒めるしかない。それまでの1時間、無失点でしのいでいたトッテナムの最終ライン中央で、古賀自身も、やるべき仕事をこなしていた。
後ろからつなぐチームで掴む信頼
特別に目立っていたわけでない。とはいえ、WSL初挑戦の19歳である点を考慮すれば、黙々と任務を遂行しているだけでも評価に値する。身長173センチの日本女子代表DFは、フィジカルも機動力も申し分なし。的確なポジショニングが可能にする落ち着いた守りは、CBコンビを組む移籍2年目のオーストラリア女子代表で、7歳上のクレア・ハントに勝るとも劣らない。
敵の前線からは、左ウイングで先発した20歳のアメリカ女子代表FWアリッサ・トンプソンが、立ち上がりから繰り返し攻め込んできた。右CBの古賀が、スルーパスに反応したトンプソンを逃がさず、自軍ゴールキックへと無難に対処したのは、前半32分。その数分後、トンプソンが中央へと流れながら右足シュートを狙った場面でも、きっちりと付いてブロックしている。その間には、攻め上がってきた相手センターハーフ、エリン・カスバートの足元からボールを蹴り出して危険の芽を摘んでもいた。
「守備の時にコンパクトに保って、後ろが1対1になってもアグレッシブにいくことを求められているので、最後、『個』の部分でも負けないというところは必要だなと意識しています」
そう語る新CBは、後方ビルドアップの起点としても信頼を得ているようだ。開始早々の4分から持って上がる姿が見られたが、GKやSBからボールを託される場面はハントよりも多かった。前半12分、右ウイングに届けようとしたパスはカットされてしまったのだが、その流れから、トッテナムは自軍初のコーナーキックを得ている。
「トッテナム(として)も、後ろからしっかりつなぐサッカーがやりたいなかで、そこにチャレンジしている途中でもありますし、そこの部分で、自分人身も成長できたらいいなと思ってこのチームに入った部分もあるので、そこはポジティブかなと思います」

活躍の背景にあるオランダでの1年半
もちろん、WSL最強とも言うべきチームとの対戦であっただけに、試合の大半は守勢を強いられる展開となった。チェルシーは、交代でクオリティを上げることが可能な選手層でも、リーグ最高。後半33分のCF交代が、その一例だ。
敵の1トップで先発したアギー・ビーバー=ジョーンズは、前節までに4得点と乗っていた、22歳のイングランド女子代表。比較的静かだった78分間の背景には、対峙した古賀をはじめ、パス供給を最小限に抑えたトッテナムの守備があった。
あくまでも追加点を狙うチェルシーが、代わりに投入したストライカーは、オーストラリア女子代表のサム・カー。膝の大怪我からほぼ2年ぶりの復帰が叶って間もないが、32歳のベテランが、ワールドクラスの点取り屋であることに変わりはない。後半アディショナルタイム3分、カーがトッテナムの右サイドでボールを持って前を向いた場面で、素早く、かつ力強く身体を入れてボールを奪い、GKへのバックパスでリスタートにつなげたのは、古賀だった。
ほどなくして試合終了の笛が鳴ると、当人は両手を頭に当て、悔しそうな素振りを見せていた。だが、ピッチサイドへと足を進めて、チェルシーの浜野まいか(この日はベンチのまま)と話す表情は、若者らしい笑顔そのもの。その手前で取材に応じてくれた際の言動からしても、今季2敗目を喫しはしたが、移籍先のチームと同様、19歳の即戦力も順調と言えるスタートを切っている。
「1年半、オランダ(フェイエノールト)にいた経験がデカいなと自分では思っていて、そこで英語もしっかり学ぶことができましたし、チームメイトとコミュニケーションも取れてサッカーができているので、問題なくやれているかなと思います」と古賀。
4位へとリーグ順位を下げたものの、昨季の第6節終了時点では、首位チェルシーと11ポイント差の7位だったチームが、女子CL出場権(トップ3)争いもあり得る滑り出しを見せている。
「まいかと仲がいいんで」と微笑みながら、年齢も近い(21歳)「なでしこジャパン」の仲間の元へと向かう前に、移籍1年目の目標を尋ねると、こう答えてくれた。
「チャンピオンズリーグに出られればいいですけど、チームとしては、昨シーズンより勝ち点(20ポイント)を積み上げて、『30』以上を目指してやっていますので、それをしっかり達成できるように自分も頑張りたい」
まだまだ伸びしろも大きな新DFとともに、トッテナムも変化を遂げる。
(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)
山中 忍
やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。




















