目立たない日本人監督の顕著な成功例 個性を曲げない外国人指揮官…痛感する“色”を貫く難しさ

鹿島を指揮する鬼木監督、古巣の川崎戦で見せた“色”の違い
E-1選手権中断前の等々力スタジアムでは、鹿島アントラーズサポーターからの大きなブーイングが響き渡った。前半戦をしばらく首位で走ってきた鹿島にとっては、3連敗という結果以上に試合内容の不甲斐なさが際立つ一戦だった。
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鹿島を指揮するのは、川崎フロンターレで黄金期を築き上げた鬼木達監督である。率いるチームが変わると、これほど色も変わってしまうのかと驚かされる試合でもあった。
鹿島は序盤から川崎の背後狙いを徹底。それが功を奏して前半25分に均衡を破った。しかしその後も一貫して背後へのロングフィード一辺倒の流れが変わらない。GK早川友基も含めて最終ラインがボールを持てば、川崎の背後へばかり蹴り込む単調な攻撃が続く。
そのなかでも鈴木優磨という突出した個がアクセントをつけることでチャンスを広げることもあったが、なんとかボールをつないで試合を構築しようとする姿勢を見せたのは、後半23分に3枚替えをした直後の短い時間のみ。昨年川崎で1試合平均55.3%の支配率を記録し、リーグ2位のゴール数を叩き出した鬼木監督とは、真逆のスタンスに映った。
「相手(川崎)はボールを握りたいチーム。だから自分たちがボールを握ったほうが嫌がるはず。長いボールだけではなく、短いボールも織り交ぜて使い分けるべきなのに、それが浸透し切れていない」(鬼木監督)
結局ホームの川崎が、終始鹿島陣内に押し込みチャンスを連ねていく。前半終了間際に伊藤達哉のゴールで追い付くと、後半にはその好調だった伊藤を故障で失う痛手を負いながらも逆転に成功。比較的余裕を持って勝利で飾った。川崎が59%支配し、鹿島の336本に対し511本のパスをつなぎ、決定機の数でも圧倒した。
鹿島は5月に国立競技場で行ったホームゲームでは川崎に競り勝っているが、アウェー戦は明らかに質の差が浮き彫りになり完敗だった。試合後の鬼木監督は、こう総括した。
「よく知っているチームだからこそ劣勢になった時の難しさを感じた。時間の使い方、ゲームの組み立て方などに差があった」
自分の哲学を前面に押し出す外国人監督、微修正を施していく日本人監督
川崎に劇的な変革をもたらしたのは、風間八宏元監督だった。丹念に個々の選手たちの質を向上させて、独特の美学を貫いた。そして鬼木監督は、他に類を見ない良質な選手層という大きな財産を引き継ぎ、チームを常勝へと導く。それはかつてのサンフレッチェ広島の改革に似ていた。ミハイロ・ペトロビッチ監督が攻撃的で娯楽度の高いコンセプトを浸透させ、後継者の森保一監督は現実的に守備組織を整え結果に結びつけた。
ここまでのJリーグの歴史を振り返ると、概して新しい哲学を持ち込むのは外国人監督だった。アーセン・ベンゲルやイビチャ・オシムは言うに及ばず、最近ではアンジェ・ポステコグルーもアマチュア末期のオスカー時代から継承されてきた横浜F・マリノス(前身・日産自動車サッカー部)の守備的スタイルの歴史を一変させた。今年のJ1でも、最も劇的な変化を見せたのはリカルド・ロドリゲス監督を招聘した柏レイソルで、ここまでポゼッションのみならずパス本数や走行距離の指標でも首位に立ち優勝戦線に加わっている。リカルド・ロドリゲスは、来日以来3つのクラブを指揮してきたが、どこで采配を振るっても独自の哲学、スタイルを曲げずに表現し続けている。
一方で今年のJ1では、前クラブで実績を残した日本人監督に新しく変革のタクトを託すチームが目立ったが、顕著な成功例は生まれていない。概ね外国人監督は、前任者の色を打ち消してでも自分の哲学を前面に押し出そうとするが、日本人監督はそれまでの経緯を尊重しながら微修正を施していく傾向が強いようだ。
世界に目を転じれば、ペップ・グアルディオラやマルセロ・ビエルサが指揮棒を握れば、どんなサッカーが出てくるか想像がつくし、ズデネク・ゼーマンのようにどんな時代でも4-3-3を貫く監督もいる。反面日本には、前述の風間(現・南葛SC監督)や大木武(ロアッソ熊本監督)のように、勝敗を超越した部分で期待に応え続ける個性が少ない。プレーヤーたちを十分に観客として取り込めていないJリーグには、こうして曲げない個性を発散する監督が、もう少し必要かもしれない。
(加部 究 / Kiwamu Kabe)

加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。





















