日本人DFも脱帽したチェルシーの攻撃力「やっぱプレミア」 国内外5連勝…点が取れるチームへの変貌【現地発コラム】
ECLリーグフェーズ初戦でも好調ぶりを示したチェルシー
9月末の第6節を終えて、プレミアリーグで最も得点数の多いチームは? 第7節を前に、計17得点で国内外5連勝中のチームは?
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答えは、エンツォ・マレスカ率いるチェルシー。昨季は、前監督のマウリシオ・ポチェッティーノ(現アメリカ代表監督)を「点が取れなければ試合には勝てない」と嘆かせたチームが、ゴールを重ねるようになってきた。
先日のコラムで触れたように、後方ビルドアップへのこだわりが、失点の危険性を高めてはいる。しかし、得点への貪欲さという前向きな特徴が見られることも事実だ。
その最新例として、10月3日に行われた、UEFAヨーロッパカンファレンスリーグリーグ(ECL)でのリーグフェーズ第1節ヘント戦(4-2)がある。チェルシーの戦いぶりは、相手CB(センターバック)として先発フル出場の渡辺剛に、「あれだけ守備に徹して負けるっていうのは基本的にはあってはならないことだし、しっかり反省しないとカンファレンスリーグを勝ち上がれない」と、敗戦における教訓を語らせることになった。
渡辺自身のパフォーマンスは悪くなかった。ヘントが地元クラブでもあるというベルギー人の番記者は、「出色の出来」と評していた。筆者も、チェルシーの左SB(サイドバック)を務めたレナト・ベイガとともに、両軍守備陣で最高の評価を与えられると思っていた。両DFは、ノーマークだったとはいえ、ファーサイドに狙いを定めたヘディングで、それぞれのチームに1点目をもたらしてもいる。
渡辺は、後半5分に1点差に詰め寄った自らのゴールを次のように振り返ってくれた。
「めちゃくちゃフリーだったので、逆にちょっと時間がありすぎて難しかった部分はあったんですけど、しっかりファーに流し込むことができました。このピッチで、この相手に得点できるっていうのは誰しもが経験できることじゃない。ひたむきに頑張ってきたことが得点につながってきたと思うので、素直に嬉しく思います」
試合開始から1時間ほどは、結果がどちらに転んでもおかしくはないとも思えた一戦のなかで、「個人的にはやれるなっていう感じはしましたね」とも言っていた。そう語るだけの資格はあると理解させるパフォーマンスだった。
ヘントのゲームプランを上回ったクオリティー
この日のチェルシーが、5日前のリーグ戦からスタメンを総入れ替えした「Bチーム」だったとの指摘はあるかもしれない。だが現在のチェルシーには、ECLはメンバー登録外で完全休養を与えられている攻撃的MFコール・パルマー以外に絶対的レギュラーなどいない。
前述のベイガのほか、後半1分にチャンスを逃さなかった右ウインガーのペドロ・ネト、同18分のチーム3点目でフィニッシュの正確さを改めて示した1トップのクリストファー・エンクンク、その7分後にボックス内でのこぼれ球に走り込んでシュートを決めたセンターハーフのキアナン・デューズバリー=ホールと、そのきっかけとなるパスを出したトップ下のジョアン・フェリックスらが、3日後のリーグ戦で先発起用されたとしても驚く者はいないだろう。
立ち上がり30分間は、「攻撃対守備」と表現できるほど一方的だった。ヘントの3-4-3システムは、5-4-1となったまま。最終ライン中央の渡辺は、「ブロックを作って失点しないようにしながら、自分たちのペースを掴んで攻撃に転じるという狙いどおりの形ではありました」と話しているが、劣勢でのピンチ脱出には限界があった。
「勝負を決める部分のところで、相手のほうがクオリティーは高かった。フィジカル面ではベルギー(のリーグ)も負けていないという感じはしますけど、あのスピードとクオリティーは、やっぱりプレミアリーグ」と渡辺。
例えば、対峙する機会の多かったフェリックスが挙げられる。ポルトガル代表FWのクロスをクリアした前半9分にはじまり、同45分には彼へのパスを読んでカットするなど、なかなか仕事をさせずにいたヘントの日本人CBだったが、相手の印象をこう語っている。
「嫌な選手でしたね。常に自分たちが出にくいポジションにいながら、隙があればターンしてくる。ああいう選手がトップの選手かなと感じます」
後半25分のチェルシー4点目が、そのパターン。フェリックスは、1.5列目で後方からフィードを受けて前を向くと、定石どおり「ディレイ」の意識で対処する渡辺を前に、細かな3タッチ目でスルーパスを放っている。
ボールはエンクンクの目前でカットされかけたが、そのこぼれ球がデューズバリー=ホールの進行方向に出る格好となった。フィリックスは、先制点が生まれた場面でも、相手選手2名の注意を引く動きで影のアシストをこなしていた。
交代策にも表れた攻勢を意識し続ける姿勢
こうした得点への意識が、チームの全員に見て取れる。ハーフタイム明けの追加点は、右SBとして起用されたアクセル・ディサシがライン越しのパスで演出したものだ。落下地点へとボールを追うことになった渡辺は、「カバーできると思ったし、シュートも防げると思っていた」と言う。しかし、ダイレクトシュートでネットを揺らしたネトの初動が、自身よりも、そしてマーク役だったチームメイトよりもわずかに早かった。
チェルシーは、左ウイングのミハイロ・ムドリクが再三再四ボックス内へと侵入してもいた。その背景には、この日の「偽SB」担当だったベイガの働きがある。最終ラインから絞って上がる左SBは、アタッキングサード内へと、チーム最多となる14本のパスを放っている。マイボール時の上りは1列以上で、相手ボックス内でのボールタッチも5回を数えた。
ヘントの中盤中央で先発した伊藤敦樹は、チェルシーに8割近くボールを支配された序盤、前から落ちてくるフェリックスとうしろから上がってくるベイガの2人を相手に、苦しい立ち上がりを強いられることになった。それでも、前半30分過ぎには、自らのパスで2度のチャンスを生んでいたが、攻勢を意識し続ける敵の優位は変わらないままだった。
その姿勢をチームに植え付けんとするチェルシー新監督は、3点リードでのラスト10分間を前に、無難なゲームマネジメントを意図した選手交代策を講じようとはしなかった。若手にチャンスを与える目的もあっただろうが、攻撃陣をリフレッシュする二枚替えを行なっている。試合は、後半アディショナルタイム2分にムドリクがシュートを放ち、その2分後、中央突破を図ったデューズバリー=ホールが、アタッキングサード手前でFK(フリーキック)を奪ったところで終了の笛が鳴った。
試合後のマレスカは、後半45分に許した敵の2点目を「集中力を欠いた結果」だと認めてはいた。守備面での抜かりといえば、CK(コーナーキック)の流れから喫した1失点目などは、ファーサイドをカバーしていたディサシ1人に対し、クロスを待つヘントの選手が4人。その1人で、実際にゴールを決めた渡辺の発言ではないが、「基本的にあってはならない」状況だった。
とはいえ、そこには、リーグ戦とはメンバーが大幅に変わった欧州戦でも、ひたすら相手ゴールを目指す戦い方は変わらないチームの姿があった。相手よりも多く点を取って勝てばいい。チェルシーは、21世紀のプレミア強豪と化して以来の過去とは一線を画す姿勢で、3年目に入ったオーナー交代後の過渡期通過を目指す。
山中 忍
やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。