22億円をJFAに寄付の実績 日本サッカー後援会発足の原点は「代表選手にステーキを食べさせたい」【コラム】

JFAを支え続けてきた日本サッカー後援会とは?(写真はイメージです)【写真:徳原隆元】
JFAを支え続けてきた日本サッカー後援会とは?(写真はイメージです)【写真:徳原隆元】

6月に広島で開催されるW杯アジア2次予選シリア戦はチケット争奪戦!?

 かつては日本代表の試合のチケットは“プラチナペーパー”だった。発売と同時に売り切れ、闇マーケットでは高額で取引されていた。

 1993年5月15日にJリーグが始まった頃は、まだそこまでの熱狂はなかった。4月18日に行われた1994年のアメリカ・ワールドカップ(W杯)アジア1次予選の山場、国立競技場で開催されたUAE(アラブ首長国連邦)戦こそ公式入場者数5万5000人(当時の記録はこれくらい大雑把だった)を記録したが、そのほかの4月のホームゲームは4万人、4万8000人、5万3000人と満員ではなかった。

「ドーハの悲劇」を経験したあともなかなか超満員ということにはならなかったが、1995年5月28日、国立競技場で行われたエクアドル戦が5万3438人、その後は1998年フランスW杯アジア予選が始まると次第に観客が増えていく。そしてチケットは入手困難になっていく。

 当時は電話でのチケット予約が一般的だったため、販売開始時間になるとずっとコールするのだが、一向につながらない。そのうちソールドアウトになってしまい、運良く何枚か購入できた友人から譲ってもらうというのが普通だった。そして、もし自分の電話がつながったらほかの人の分まで買うというのも暗黙の了解だった。

 もしかすると、6月はそんなチケット争奪の熱狂が戻ってくるかもしれない。6月11日にエディオンピースウイング広島で行われる2026年北中米W杯アジア2次予選最終戦、シリア戦にはその可能性がある。

 今年2月10日にこけら落としが終わったばかりの新しいスタジアムであること、広島での久しぶりの日本代表戦であること、収容人数が約2万8500人と少ないことなどが理由だ。5月3日のチケット一般販売開始日はブラウザを何度もリロードするハメになることだろう。しかも価格はダイナミックプライシングで、ニーズの多さによって上下する。なんともやきもきしなければいけない。

日本サッカー後援会は「日本代表選手たちにステーキを食べさせたい」とスタート

 ただ、多少心穏やかにチケットを手に入れることも可能だ。それは「日本サッカー後援会」に入ること。すると、チケットの優先販売が行われる。

 この「日本サッカー後援会」は、決してチケットを売るために始まった組織ではない。成り立ちは日本サッカー界が非常に貧しかった頃に遡る。

 まだ日本サッカー界がアマチュアだった頃、日本代表でも裕福ではなかった。ユース世代はスタジアム内の部屋に寝泊まりしたという話もあるし、日本代表の合宿では食事の量が足りず、みんなで外に補食しに行っていた。

 そんななか、サッカー好きの有志が「日本代表選手たちにステーキを食べさせたい」とスタートさせたのが日本サッカー後援会。会費は合宿の時の食費に回され、その代わりに国内の試合が無料で観られるというものだった。

 1980年当時の年会費は1万円で、国内の試合すべてを招待券で見ることができた。日本代表、日本サッカーリーグ、天皇杯、しかも開始から数年はトヨタカップまで見ることができたのだ。

 1985年10月26日、1986年メキシコW杯アジア最終予選で韓国と戦った時は、後援会会員証1枚で2枚のチケットと交換することができた。そうやって国立を満員にしようとしたのだ。その甲斐もあって、国立競技場は公式入場者数6万2000人で膨れ上がった。

 その後、Jリーグが始まったが、日本サッカー協会(JFA)管轄外の試合ということで後援会会員証は使えない。年会費は上がり、昔のように無料で観られるのではなく優先販売になった。だが日本代表の人気が上がり、それにともなって日本代表のチケットが優先で買える日本サッカー後援会がファンの間で次第に知られていく。当時は専用の申込用紙でないと入会できなかったため、その申込用紙が高値で取り引きされることにまでなった。

事務局以外は全員無報酬で「日本サッカーの役に立とうとやっている」

 日本代表への熱狂が収まるにつれて後援会も入りやすくなった。現在は会費が1万5000円(2年目からは会報なしの1万3000円も選べる)でウェブから入会できる。入会すると土日祝日を除いて約2日でコードが送られてきて、そのコードを使って先行販売でチケットが買えるようになっている(ただし席は先着順で、席数は用意されているものの希望の席種が選べない可能性はある。なお、6月11日の試合の先行販売は4月26日にスタートしている)。

 ここで気になるのは、今の後援会費はこのチケット販売の経費以外にどう使われているかということだ。

 現在、日本サッカー後援会の理事長は、1968年メキシコ五輪で3位に輝いたメンバーの1人で、川崎フロンターレやサガン鳥栖の監督としても活躍し、2009年日本サッカー殿堂入りした松本育夫氏。松本氏は現在の活動をこう説明した。

「自分たちの前の世代から『合宿ではせめて肉を食べさせてあげたい』と始まった日本サッカー後援会は今年で48年になります。これまでに約22億円を日本サッカー協会(JFA)に寄付という形で渡してきました。現在は、フットサル、女子などいくつかのカテゴリーに分けて寄付するのとともに、その残った部分を日本サッカー協会に渡しています。事務局以外は全員無報酬で日本サッカーの役に立とうとやっています。今回のきっかけで、こういう活動もあると知ってもらえれば幸いです」

 48年前に比べると日本サッカー協会の規模は格段に大きくなった。今の選手たちは「肉が食べたい」と思うようなこともないだろう。だがそれでも、日本サッカーの一部はこういう寄付で支えられている部分が残っている。

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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