ロッカー室で号泣謝罪、取材時に振り絞った「俺のせい」 PK“2度失敗”に隠された舞台裏【コラム】

2016年のACL水原戦でPKを蹴った宇佐美貴史【写真:Getty Images】
2016年のACL水原戦でPKを蹴った宇佐美貴史【写真:Getty Images】

2016年のACL水原戦でG大阪FW宇佐美貴史が蹴り直しを含むPKを2度失敗

“新スタジアム”の取材エリア、うつむいたまま現れたガンバ大阪FW宇佐美貴史の目は腫れあがっていた。溢れ出る涙を止められないまま声を振り絞った。

「俺のせい」

 2016年、現在は日本が世界に誇れるスタジアムの1つであるパナソニックスタジアム吹田に本拠地が移った1年目。AFCチャンピオンズリーグ(ACL)に出場していたG大阪は苦戦していた。万博ラストイヤーの前年はアジア4強。だが、この年はグループステージ4試合で2分2敗と勝利を掴めず。崖っぷちで迎えた4月19日、第5節ホームの水原三星ブルーウィングス戦。0-0の前半37分にPKを獲得した。宇佐美は右手にボールを持ったまま離さなかった。

 当時は“コロコロPK”が代名詞の絶対的なキッカーMF遠藤保仁がいた。だが、自らが「蹴りたい」と主張。先制のチャンス、エースの宇佐美はこの流れを絶対に逃したくなかった。静まるスタジアム。宇佐美の肩には重圧がのしかかる。覚悟を決めて蹴ったコースはゴール左。これは相手GKに弾かれた。

 PK失敗――。だが、神様は見捨てなかった。反則があり、蹴り直しに。次は右。宇佐美が振り抜いたシュート、今度はGKにキャッチされてしまった。

 まさかの“2度”失敗。結局1-2で敗れたチームは1試合を残してグループステージ敗退が決定し、8年ぶりアジア王者の夢はついえた。試合終了のホイッスルが鳴ると、宇佐美は泣き崩れた。ロッカールームへ引き揚げても涙は止まらず、号泣しながら何度も何度も謝罪した。自らを責めて、責めて、それしかできないほど追い詰められた。

 取材エリアに現れた宇佐美は目を真っ赤にして声を震わせながらポツリと話し出した。

「俺のせい。みんなの頑張り、粘り強さが、ワンプレー、一選手のミスで敗戦となるサッカーの恐ろしさを知った。終わった瞬間に自分が終わらせてしまったと思った」

 宇佐美にとって経験のないほどの悔しさ、不甲斐なさ、情けなさ……。試合後、帰宅した宇佐美はリビングの明かりもつけず、ソファに座って自らに問いかけた。

「サッカーに対して、一体どう向き合っていた?」

 考え込むこと7時間。気付けば日の光が差し込んだ。「落ち込んでいる暇はない」なんてそんなきれいごとは言っていられない。とことん落ち込んだ。どん底を味わうべきだと、自分を責めた。そして辿り着いたのが「身を削るぐらい、自分が壊れてしまうぐらいサッカーのことを考える。それが自信になる」ということだった。

 中4日で迎えたJ1リーグ第1ステージ第8節アビスパ福岡戦。宇佐美は先発を外れた。試合前のアップ時間、敵地に駆け付けたG大阪サポーターが集まるスタンドからはベンチスタートとなった宇佐美のチャントが一番に聞こえてきた。アカデミー育ちのエースに対する期待と、一緒に戦う“仲間”としての覚悟が伝わってくるチャントだった。もちろん宇佐美にも届いていた。

「勝たせてやるしかない」

 途中出場から12分後、0-0の後半34分に決めた。決勝弾だった。自身も、チームも、サポーターも……G大阪に関わる人すべてを救った一発となった。

 今でも脳裏に焼き付いている、“2度失敗”した時のスタジアムの張りつめた空気。そして、ベスト電器スタジアム(当時レベルファイブスタジアム)で弧を描いたシュートがゴールに吸い込まれた瞬間。そしてこの年の夏に宇佐美は2度目となるドイツ挑戦を果たす。その2年後にはロシア・ワールドカップ(W杯)へ。当時23歳の宇佐美を強くした夜の7時間。あの時間は宇佐美自身の歴史の一部になっていることだろう。

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