「ボトムアップ型」継続? 森保ジャパン、指揮官の証言から紐解くW杯予選へ目指すべき姿【コラム】

森保ジャパンは発展途上の「融合型」で進んできた【写真:ロイター】
森保ジャパンは発展途上の「融合型」で進んできた【写真:ロイター】

イランに敗れてまさかのベスト8で大会終了

 森保一監督率いる日本代表は、カタール・ドーハで行われているアジアカップの準々決勝でイラン代表に1-2で敗れてベスト8で大会を去った。「FOOTBALL ZONE」では現地で起こっていたことを考察する「アジア杯検証シリーズ」を実施。5度目の優勝が潰えた森保ジャパンの現在と未来を分析する。今回は「ボトムアップ型」について。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小杉舞)

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 5戦で3勝2敗、「史上最強」を引っ提げた森保ジャパンにとってはあっけない最後となった。イラン戦では後半に攻撃が停滞。完全に受けに回ってしまい“何もできなかった”。決められるべくして決められた同点弾、勝ち越し弾……。森保監督が交代のカードを切ったのが後半21分。MF前田大然とMF三笘薫、MF久保建英とMF南野拓実を代えた。ここまで前線からのプレスで明らかに効いていた前田を下げての投入。前線からボールを奪うことができなくなり、攻撃のパターンがなくなった。日本代表には手詰まり感が漂った。

 この敗戦で取り沙汰されたのがなぜ3バックへ変更しなかったのか。森保監督はこれらをもちろん考えたうえで、「できるだけ前線の交代カードを切りたかった」と説明した。相手のサイド攻撃が圧力になっていたものの、前日に行われた韓国対オーストラリアでリードしていたオーストラリアが5バックに変更。韓国に押し込まれて延長戦での逆転負けを喫した。これに「3バックにしたからといって守備的なだけではないけど、今までは守備的に逃げ切る局面で使っていたので、攻撃の部分でシステムなどを代えたいと思った」と、していた。

 そのなかで“限界”とも言われるのが、今大会のキーワードにもなった「ボトムアップ型」。多くは選手主体でチームを作り上げていくという意味で取り沙汰され、対語は「トップダウン型」。森保ジャパンは「ボトムアップ型」とされてきたが、実質内部は選手がすべて決めているかと言えばそうではない。

 例えば「JFATV」の「Team Cam」でハーフタイムの様子が映し出され、選手が活発に意見を出し合っている実際のやり取りが見られる。だが、もちろん監督がなんの決定もしていないわけではない。指揮官は「(ボトムアップもトップダウンも)結局どちらも同じなんですよね。最終的に決断していますし、決まったことに対してやるか、やらないかで、チームにいるか、いられないかというのは、選手にとって厳しいこと、冷徹なことはやっている」と、メンバー決めや選手からの意見を吸い上げた最後の判断は行っている。

 イラン戦後、選手から指揮官やコーチ陣へ「もっといろいろ提示してほしい」とコメントがあったことが注目されたが、この発言が1人歩きしているのも現状。選手側も取材の中で「まだまだ先は長いなという印象」と話しており、これからを見越しての発言だったということがうかがえる。

 この発言も特に「ボトムアップ型」から「トップダウン型」へ方向転換の推奨を意味するのではない。第2次政権以降、リードする形が多かった森保ジャパンにとって、劣勢で「誰」が「どのタイミング」で意見を集約するかが明確になったことは大きな収穫。結局、森保ジャパンは指揮官も話した通り「ボトムアップ型」でも、「トップダウン型」でもなく、発展途上ながらの「融合型」をずっと推し進めてきた。

 この“いい塩梅”を調整できるのも日本人監督ならではだろう。第2次政権では、これまでベテランとして牽引してきたDF吉田麻也やDF長友佑都ら選手の意見をまとめて監督とやり取りする“中間管理職”がいない。リバプールやアーセナルでプレーするMF遠藤航やDF冨安健洋が架け橋となるのか。それもまたW杯に向けて露呈した課題の1つと言える。

 現時点で急な方向転換を図る必要はない。幸いにも今年まだ続くのはアジアとの戦い。今回のアジア杯のように劣勢に陥る場面は少ないかもしれないが、9月から始まる最終予選では今回出た課題をクリアにしてもらいたい。

(FOOTBALL ZONE編集部・小杉 舞 / Mai Kosugi)



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