「日本人は卑怯なのか」 アジア杯でイラン記者が詰問…2019年大会の因縁は継続中?【コラム】

日本代表がイラン代表と対戦【写真:ロイター】
日本代表がイラン代表と対戦【写真:ロイター】

2019年大会の“一件”について…イラン人記者を直撃

 2月3日、アジアカップの準々決勝で対戦するイランは、近年日本とアジアのトップを争ってきた。

 過去のFIFAランクでは熾烈な争いが繰り広げられている。2019年11月28日の同ランクで日本がアジアトップの座に着くと、21年9月16日にイランが首位に返り咲く。しかし22年12月22日、日本がアジア1位を奪還し、23年中はその座を守り抜いた。過去17戦して6勝5分6敗、21得点19失点と成績はほぼ互角。今回も当然のように激闘となるだろう。

 前回、2019年UAEアジアカップの際も準決勝で対戦しており、森保ジャパンが3-0と完勝している。ただし、その試合のあとでイラン人記者から詰問された。「日本人は卑怯なのか」というものだった。負けたことでイライラが募っていたのだろう。彼らは日本人選手が「こすからい」手を使ったと思ったのだ。

 後半11分、左サイドを抜け出した南野拓実はイランの選手と接触して倒れる。ペナルティーエリアの中のこのプレーに、イラン人選手たち5人はシミュレーションだと一斉に主審を見てアピールした。

 ところが南野は立ち上がるとボールに向かって猛ダッシュ。ゴールラインぎりぎりでボールに追いつくと、コー前に戻るが落下地点には間に合わず、大迫勇也が貴重な先制点を挙げた。

 実は2019年にはこのゴール以外に、対戦相手からは物議を醸したゴールがあった。グループリーグ第3戦、ウズベキスタン戦の逆転ゴールは、日本人選手と接触したウズベキスタンの選手がゴール前で倒れており、塩谷司がミドルシュートを突き刺す前にウズベキスタンDFが手を挙げてアピールしていたのだ。主審はゲームを止めていなかったので塩谷のプレーは当然だったが、得点が決まったあと、ウズベキスタンの選手は猛抗議していた。

 2019年には、この2つの例を挙げて日本を揶揄しようとする記者がいた。残念ながらその人物は名乗らなかったし、顔も覚えていない。そのため同じ人物を探すことは出来なかったが、現在、どのように捉えられ、そして次の対戦に向けてどんな気持ちなのか、今回来ているイラン人記者に聞いてみた。

「VARZESH3」のカイヴァン・ナサブ記者【写真:森 雅史】
「VARZESH3」のカイヴァン・ナサブ記者【写真:森 雅史】

2019年の大会も取材したイラン記者、日本に対する印象は?

 イランで月間500万ビューがあるという「VARZESH3」のカイヴァン・ナサブ記者は、2019年の大会も取材していたという。そして目の前で見た南野のアシストを覚えていた。

「私は南野がダイブしてレフェリーを欺こうとしていたとは思いませんでした。それに判定についてはテクニカルなことなのでレフェリーに任せるべきだと思います。あの場面は我々のミスです。どんな時もボールを追わなければなりません。少なくとも私はそう思います。それにあの試合での私たちのプレーはよくありませんでした。カルロス・ケイロスが率いていたのに」

 そう振り返ると、次の試合について語り始めた。

「今回も日本はチャンピオンになりそうな国のリストのトップにいます。日本チームはとてもいい。ヨーロッパで活躍しているプロ選手もたくさんいます。そして森保一監督という素晴らしい人物が率いています。最もいいチームだと言えるでしょう。この試合に勝ったほうが優勝に近くなると思います。ところが残念ながら私たちはメフディ・タレミが出場停止でいません。私はイランに勝ってほしいと思いますが、日本チームと日本という国に対する深い尊敬の念を持っています」

 とても紳士的なナサブ記者は冷静に、日本への悪印象はないと語っていた。だがナサブ記者のように客観的に振り返らない記者もきっといることだろう。前回大会の試合後に煽られたように、今回は前回対戦を引き合いにして挑発とも思える言動があるかもしれない。今大会でも、イラクの記者からは辛辣な質問があったのだ。

 また、大会を取材に来ているイラン人の記者の数は多い。ということは、イランを応援する観客も多数詰めかけてくるはずだ。スタジアムはイラン色に染め上げられるのは間違いない。アウェー状態になっているスタンドをどう思うのか、聞かれた上田綺世はこう答えた。

「プレミアリーグでやっている選手は6万人、7万人の観客で毎回埋まります。それに対してアジアカップは、別に決まった応援があるわけでもなく、ちょっとしたプレーで湧いたりする程度じゃないですか」。上田はむしろ観客にもっと来てほしいのかもしれない。そう思えるほど、意に介さない様子だった。

 ただし、気をつけなければいけないことが2つ残っている。1つ目は中近東の人たちの情熱だ。全身から溢れる熱がしばし激しいプレーに直結する。2019年も試合終了間際に乱闘騒ぎになりそうだった場面があった。肉弾戦は当然覚悟しなければならないだろう。

 そしてもう1つはノイズだ。バーレーン戦直前に伊東純也に関する報道が出て以来、伊東の離脱が発表されたり取り消されたりと、試合に向けた準備は難しかったに違いない。試合当日も国内外のメディアから写真を撮られるなどストレスは溜まるだろう。そのことに気を散らさずにプレーできるか。

 2019年、イランが南野のプレーに思い込みから気を散らし、先制点を献上してしまったように、ボールのことに集中できるかどうか。それが大きなポイントになりそうだ。

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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