“緊急時”にこそ発揮されるキャプテンの底力 遠藤航へ…宮本恒靖ら歴代リーダーに学べ【コラム】

日本代表のキャプテンの遠藤航【写真:ロイター】
日本代表のキャプテンの遠藤航【写真:ロイター】

勝負の論点は過密日程も予想されるなかの選手選定か

 アジアカップはオーストラリアやカタールなど強豪国が順当にベスト8に進出するなか、“優勝候補筆頭”と言われる日本代表も1月31日のラウンド16・バーレーン戦で勝利し、準々決勝に駒を進めなければならない。

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 次のステージでイランと中2日での対戦が有力視されるため、森保一監督はスタメンの人選、配置などを含め、難しいマネージメントを強いられることになる。ファイナルで敗れた2019年の前回UAE(アラブ首長国連邦)大会の悔しさ晴らすためにも、ここで歩みを止めるわけにはいかない。まずは確実に一歩前進することが肝要だ。

 その重要マッチだが、攻撃陣は目下、3ゴールの上田綺世(フェイエノールト)が連続で先発し、2列目も久保建英(レアル・ソシエダ)を軸とした陣容になると見られる。

 気になるのは中盤。キャプテン遠藤航(リバプール)がインドネシア戦でイエローカードを1枚もらっていることもあり、リスクを冒して先発させるべきか否か判断が分かれるところ。勝負のイラン戦を視野に入れ、守田英正(スポルティング)と旗手怜央(セルティック)のボランチで行くという考え方もあるが、指揮官はどうするのか。そこが1つの注目点と言っていい。

 ただ、敵将のフアン・アントニオ・ピッツィ監督が「日本の警戒人物? あえて1人挙げるならエンドウだ」と語ったように、遠藤が非常に重要な存在なのは誰もが認める点。その彼がここからやるべきなのは、キャプテンとしてチームを力強く牽引すること。決勝トーナメントになれば、延長やPK戦があるのはもちろん、何らかのアクシデントがないとも限らないからだ。

 日本からグループリーグで金星を挙げたイラクも、1月29日のヨルダン戦でエースFWアイメン・フセインが得点後のパフォーマンスで2枚目の警告を受け、まさかの退場。そこから流れが激変し、敗戦に至った。そういった想定外の出来事が起きるのが、アジアカップの難しさなのである。

「(ここから中東勢の対戦が続くと)雰囲気もアウェー感は強くなると思いますし、彼らは周りの雰囲気にすごく乗りやすいというか、普段の倍近い力を出してくるようなことができると思います。ましてや、相手が日本となると、普段以上の力やモチベーションが出てくると思う。本当に油断ができない」とカタール通の谷口彰悟(アル・ラーヤン)も言っていたほどだ。

日本代表の歴代キャプテンたちの功績

 さまざまな困難が続くなか、日本代表の歴代キャプテンたちもそれぞれ奮闘してきた。最たる存在が、2004年中国大会の宮本恒靖(JFA専務理事)氏だ。

 日本の国歌斉唱がかき消されるほどのブーイングを浴びせられるなか、重慶で行われたヨルダン戦が特に印象的だ。試合は120分戦っても決着がつかず、試合はPK戦へともつれこんだ。が、1番手と中村俊輔(横浜FCコーチ)と2番手の三都主アレサンドロという名手2人がまさかの失敗。そこで立ち上がったのが、キャプテン・宮本だった。

「ディス・ピッチ・イズ・ラフ(このピッチは荒れている)」と切り出した彼は、ユーロ2004でイングランドのデビッド・ベッカムが足場の悪いピッチでPKを2度失敗した前例を引用し、主審と交渉。ピッチ交代を引き出し、一気に流れを引き寄せた。あの働きがなければ日本のタイトルはなかっただろう。

 宮本氏だけではない。一進一退の続いた2011年カタール大会では、キャプテン・長谷部誠(フランクフルト)が周囲を力強く鼓舞。ボランチとして安定感をもたらし、日本を王者へと押し上げている。前回の吉田麻也(LAギャラクシー)にしても、ファイナル・カタール戦のVARによるPK献上以外は鬼気迫る闘争心を押し出して守備を統率。絶対的リーダーとして君臨した。

 こうした先人たちの行動を遠藤も脳裏に刻み込んで、ここからの4試合に向かうべきだ。

「自然体でやれればいい」との発言も…主将に求められる緊急時のアクション

「個人的には何も変える必要はないし、キャプテンとしての仕事は正直、そんなに多くないかなと。何か背伸びしてやろうとは思っていないし、自然体でやれればいいかな」と本人は肩に力を入れることなく、普段通りの力を決勝トーナメントで発揮するつもりだ。

 ただ、万が一、チームが危機に瀕した時にはいち早く、アクションを起こすべき。実際、今大会突入後も、イラクに敗れた2日後の21日に行われた約40分間のミーティングで率先して意見をぶつけ合っている。

「今までやったらそこまで意見が出なかったし、コーチ陣が話していることを聞いて、それでミーティングが終わるみたいな感じでしたけど、今回はディスカッション。自分も含めて選手もいろいろな話をしながらミーティングをした。後ろから重くなったとか、攻撃になった時に後ろが押し上げられればいいといった意見を言いました」と遠藤は白熱した話し合いの一端を明かしている。そういう前向きなムードを彼主体に作ったことは、やはり大きな意味があったに違いない。

 36年ぶりのグループリーグ敗戦を糧に一体感や結束力を取り戻した日本。サッカーに関しても前から行ける時は躊躇せずにプレスに行くといった約束事を再徹底したことで、インドネシア戦では内容的な改善が見られた。それは今後に向けての大きなプラス。バーレーンは4-4-2か4-1-4-1システムでかなり自陣に引いて守ってくると見られるが、その分、点を取ることが難しくなるかもしれない。そこでゴールをこじ開け、前回あと一歩で逃した頂点への布石を打つべく、遠藤には的確な指示とポジショニング、周りを動かすアクションを起こしてほしい。

 彼自身はインドネシア戦後にユルゲン・クロップ監督が今季限りの退任を発表したことに衝撃を受けているはずだ。

「もちろん驚きましたけど、彼は長くリバプールを支えてきている人なので。その決断を尊重するしかない。それに冬にいなくなるわけではないので、帰ったらクロップはいるので。夏以降のことはまたその時に考えればいいし、とにかく今はアジアカップで優勝することだけを考えています」と本人はいったんクラブのことは横に置き、今大会のタイトルだけに全力を注ぐ覚悟だ。

 その第一段階として、イラクと同タイプのバーレーンのカウンターサッカーを確実に封じ、早い段階で勝負をつけること。日本として理想的な戦いができるように、遠藤の高度な戦術眼を最大限、生かすべきだ。

“史上最高のリーダー”が、決勝トーナメントで背番号6がまばゆいばかりの輝きを放つ姿を我々は心待ちにしている。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)



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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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