Jリーグがオフに話題を欠きがちな理由 ファンにも不可欠…「選手の契約年数」は可視化すべき【コラム】
翌シーズンへ向けた選手の動向を派手に報じる欧州、ファンも共有している“大前提”
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各クラブの移籍の動向を整理していると、海外進出も含めて例年以上に出入りが活発だ。ヴィッセル神戸は2年目のジンクスを乗り越えようと積極的な補強に乗り出し、ここ最近低迷気味だった浦和レッズやFC東京からは切迫感も伝わってくる。
また早々と昇格を決めたFC町田ゼルビアの大胆な強化策が目立つ一方で、次々に主力が出て行った鹿島アントラーズやアルビレックス新潟には「本当にこれで大丈夫なのか」と懸念が残った。しかし残念ながら、こうした国内の移籍の動きが大きなニュースとして扱われることはなかった。今、ファンの興味は、日本代表が参戦しているアジアカップ1点に注がれているように見える。
欧州と比べて大きな違和感を覚えるのは、こうしたシーズンオフ中の報道だ。欧州でも大陸選手権はシーズンを終えたあとに開催されるので、そこは今回の日本と変わらない。だがEURO(欧州選手権)が開催され自国チームが戦っていても、むしろメディアは噂も含めて翌シーズンへ向けての動向を派手に報じる。昨年のシーズンオフにはパリ・サンジェルマン(PSG)が来日したが、現地のニュースの主役は日本遠征には参加をせず移籍が濃厚と見られたキリアン・ムバッペだった。
もちろんJリーグにも、ムバッペ級のスターがいれば動向が注目されるに違いない。ただし反面、Jリーグがファンに必要な情報を提供していないために、話題になり難い側面も否定できない。
シーズンオフにムバッペに注目が集まる背景には、昨シーズン終了の段階でPSGとの契約が1年間残っているという情報を、ファンも共有しているという大前提がある。欧州では、クラブが選手を獲得した場合、必ず何年契約なのかも合わせて発表している。従って選手名鑑を見れば、どの選手がいつまでの契約で在籍しているのかが一目瞭然だ。
ところがJリーグ(クラブ)は、選手の契約年数を明かしていない。発表されるのは移籍したという事実だけなので、当該選手がクラブに違約金を残したのか、フリーで出て行ったのかもファンは知ることができない。
誰が契約満了になるのか、海外移籍する選手の違約金を取れたのか
欧州では、シーズン終了後に誰の契約が切れるのかが開示されているので、まず更新されるのかどうかに注目が集まる。
日本のプロ野球でストーブリーグと呼ばれるシーズンオフの話題は、そこから始まり、契約が更新されるのか、移籍していくのか、という興味へと流れていく。中心選手が契約更新を渋るようなら、その時点で一大事になるし、その先には彼が次にどこへ移籍していくのかが焦点となっていく。
ところがJリーグでは、シーズン終了後に誰が契約満了になるのかも明らかにしていないので、オフになると話題が途切れがちだ。海外へ移籍する選手が出ても、クラブが違約金を取れたのかどうかも藪の中なので、移籍そのものの成否も窺い知ることができない。
だが個々の選手と、どんな違約金設定で何年契約を結ぶのか。それはクラブの重要な戦略である。またどの選手がいつまで贔屓のクラブでプレーしてくれるのか。それはファンにとって必要不可欠な情報だ。
プロスポーツの競争は、現場の力だけでは勝ち抜けない。だからこそ同じプロとして、強化部がどんな仕事をしているのか。そのバロメーターとなる情報は、極力可視化していくべきである。
(加部 究 / Kiwamu Kabe)
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。