リバプール遠藤航はなぜ完全な主軸に? カップ戦要員から状況一変…好調支える“5メートル”高いアンカー像【現地発】

リバプールで活躍する遠藤航【写真:Getty Images】
リバプールで活躍する遠藤航【写真:Getty Images】

遠藤航が示したリバプールの主軸となった自覚と自信

 2024年元日にホームで行われたプレミアリーグ第20節ニューカッスル戦。試合直後の遠藤航の表情は、晴々として自信に満ちあふれていた。

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 プレミアリーグ特有の過密日程が続く年末年始、公式戦8試合連続の先発出場となった試合を遠藤は、輝く笑顔とともに「前半から入りも含めてすごく良かったと思います」と振り返った。さらに、こう続ける。

「怪我人も多かったし、12月に入ってから今日の試合まで、自分の出来で結果が変わるくらいの気持ちでやっていました。今日も勝って、しっかり首位にいるということで、アジア杯前の自分の役目はしっかり果たせたと思っています」

 常勝が期待されるリバプールの主軸となった自覚と自信をしっかりと示していた。

 筆者が初めて遠藤を取材したのは、8月27日のプレミアリーグ第3節ニューカッスル戦。奇しくも今回ホームで対戦した相手との一戦だった。加入翌週というタイミングの極めて困難なアウェー戦に、日本代表主将がリバプールの選手として初先発したのだ。ところが前半28分にDFフィルジル・ファン・ダイクが退場となり、遠藤は10人の戦いに対応するだけで精一杯に。見せ場もなく後半13分にMFハーヴェイ・エリオットと交代。リバプールは試合終盤の同36分、そしてアディショナルタイム3分にFWダルウィン・ヌニェスの2点得点で逆転勝利を飾ったが、遠藤はこの試合で明確なインパクトを残すことはできなかった。

 この試合でユルゲン・クロップ監督は、遠藤を先発に据えるには時期尚早と判断したのだろう。30歳のMFはリーグ戦の先発から外されカップ戦要員に。しかし、リーグカップとUEFAヨーロッパリーグの戦いで地道に出場を積み重ねるとリバプールのプレースタイルに適応。12月6日にアウェーで行われたシェフィールド・ユナイテッド戦(プレミアリーグ第15節/2-0)に先発すると、そこを皮切りに8試合連続で公式戦に先発して監督のファースト・チョイスになった。

 確かにそれまで中盤のアンカー、いわゆる“ナンバー6”の位置でプレーしていたアレクシス・マック・アリスターが膝の故障で戦線離脱したことで遠藤の先発が続いたという指摘もある。それでも、地元紙「リバプール・エコー」でリバプール番を務めるポール・ゴッスト記者はこう反論する。

「遠藤が連続先発出場を開始したシェフィールド戦、マック・アリスターも8番の位置で同時出場している。あの試合の先発は、その前のフルハム戦で途中出場した遠藤が3-3に追いつく素晴らしいミドルを決めたことで勝ち取ったものだ」

 その通り。12月3日に本拠地で行われたフルハムとのリーグ戦に遠藤は2-3と1点リードされた後半38分に投入された。そしてその4分後、ペナルティーエリア内に侵入しながら相手DFに囲まれ行き場をなくしたFWモハメド・サラーからのバックパスをボックス外で受け取ると、狙いすましたシュートをゴールの右隅に突き刺した。

 この美しい同点弾はその1分後にDFトレント・アレクサンダー=アーノルドの決勝弾を呼び込み、リバプールが最終スコアを4-3として劇的な大逆転勝利を飾った。

 30歳で移籍したビッグクラブでカップ戦要員となりながらも、目に見えるスピードで進化しリバプールのスタイルに順応した遠藤。途中出場したフルハム戦で自らをチームの勝利に貢献できる選手だと監督に認知させた。

試合ごとの課題を分析し、試行錯誤の末に掴んだ先発の座

 ゴッスト記者は、遠藤が見せるプレーの進化をこう分析する。

「リバプールのナンバー6は、ほかのチームよりも攻撃参加を求められ高い位置でプレーする。そのため、加入当初はボールをもらって戸惑う場面もあったが、今ではプレースピードが格段に上がり、チームのリズムにすっかり溶け込んでいる」

 遠藤本人もリバプールの前に出るサッカーを「独特」と認めつつ、「慣れてきた部分もある」と順応への手応えを明かす。そして、現在の好調ぶりを語るうえで欠かせないキーワードが“5メートル前方の新たな景色”だ。

「(チームが)常に前向きのサッカーを展開するため、前進する時に自分もしっかり前に出なければなりません。そこで5メートル前に出ることで、セカンドボールが拾えるか拾えないかという場面が生まれる。それが今日の試合(ニューカッスル戦)の前半でも、僕のところでボールが拾えていた要因だと思います。ああいうところにいるのが大事。分かりづらい部分でもありますが、それが自分の仕事。愚直にやるしかないと思います」

 とはいえ、“ヘビーメタル・フットボール”を提唱し、過激なカウンタープレスのサッカーを展開するクロップ監督のチームでレギュラーを勝ち取ることは容易なことではない。そんななか、遠藤本人はどのような心境で定位置争いに臨んでいるのだろう。

「結局やり続ける、試合に出続けることが一番だったと個人的に思います。それでもフィットできない選手もいますが、自分は毎試合出るごとに課題というか、どうしたらいいのかということを考えながらやってるつもり。そして、チャンスをもらえているなかで結果がついてきたことが重要だったと思います」

 初先発したリーグ戦で10人の戦いを強いられ、激しいプレミアリーグの試合に適応できずカップ戦に回った。それでも腐ることなくチームに溶け込み、1試合ごとに課題を見つけ、それを解決しながら前に進んだ。そんな姿勢があったからこそ、加入3か月余りで巡ってきた先発のチャンスをしっかりと掴み、レギュラーの地位を確立できたのである。

 ちなみにゴッスト記者は、9月27日に行われたレスター・シティとのリーグ杯戦(3-1)でしっかりと存在感を表した遠藤のパフォーマンスを「中盤で相手選手の壁となり、ボールを奪う高い技術があるところも見せて、守備的MFとして“使える”という印象を与えた」と高評価。さらに、「ワタルは“one of only No.6”(チームで唯一の守備的MF)」と続けて、必ず今季中にリバプールで頭角を表すと予言していた。

 そして、「(ジョーダン・)ヘンダーソン、ファビーニョ、(ジョルジニオ・)ワイナルドゥムも、リバプールの中盤で守備の負担を背負った選手がレギュラーに定着するまでには多少の時間がかかった事実がある。高速のテンポでプレーするチームでアグレッシブにやりながら、守備に特化するというのは困難なことだ」と語り、遠藤が先発に定着するには多少の時間がかかることも見通していた。

「コンディションがいい状態でアジア杯に行けるのは代表にとってプラス」

 けれども惜しむべきは、遠藤がここで日本をアジア王者に日本を導くべくイングランド北西部の港湾都市を離れなければならないことだ。

 しかし30歳のMFは、「それはもうしょうがない。決まっていること。今回に関してはやるしかない。切り替えてやるしかないというところです」ときっぱり。経験値の高いベテランらしく素早くリバプール選手から日本代表主将に変貌すると、力強い言葉でアジア杯制覇を誓った。

「これ(リバプールでの好調)を代表に還元するじゃないけど、このコンディションがいい状態でアジア杯に行けるのは、個人的にも代表チームにとってもプラス。みんな多分、自分がリバプールで8試合連続して試合に出ているというのは、なんとなく知ってはいると思います。見られているとは思うので、そういう意味では刺激にもなっているとは思うし、その辺はいい刺激をみんなに与えて、優勝に向けてやっていければいいと思います」

 またプレミアリーグでともに戦う冨安健洋が故障明け、三笘薫がまだ全治していない状態で日本代表は大会に臨む。これについて遠藤は「選ばれたということは戦えるということだと思う。今のベストメンバーを選んだと思うので、向こう(カタール)に行って一緒にやるのが楽しみです」と語り、召集を歓迎した。

 さらにこう続け、今大会の日本代表が持つチーム力に胸を張る。

「みんな、所属クラブで活躍している選手ばかりです。怪我で苦しんだ選手もいますが、ヨーロッパで活躍している選手が増えてきているというのはすごくポジティブ。その中でも調子のいいメンバーが選ばれるという、いい流れもできてきている。お互いそれは分かっていますが、ヨーロッパにいるだけではなく、活躍しないと代表に選ばれないという状況になっていて、それがすごくいいことだと思っています」

 もちろん、優勝の期待が大きいことで「勝って当然」というプレッシャーも強くなるはずだが、このチームは特別である。プレミア1年目の逆境を乗り越えてリバプールでレギュラーを掴み、自信にみなぎる絶好調の遠藤が主将を務めるのだから。まさに鬼に金棒。日本が3大会ぶり5度目となるアジア王者となり、続く2026年の北中米ワールドカップ(W杯)でもさらなる飛躍を見せてくれるはずだという期待は膨らむばかりである。

(森 昌利 / Masatoshi Mori)



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森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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