堂安所属フライブルク、ミス頻発でも重視する“若手育成”の信念 「サッカーとはそういうものだ」のぶれない精神【現地発】

2年連続でELを戦うフライブルク【写真:ロイター】
2年連続でELを戦うフライブルク【写真:ロイター】

必要最低限の補強のみだったフライブルク「我々の道を進む」「優れた育成がある」

 2年連続UEFAヨーロッパリーグ(EL)にチャレンジしているドイツ1部フライブルクは、ブンデスリーガでなかなか勝ち点を挙げられずに苦しんでいた時期があった。

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 今季第11節終了時で勝ち点14の8位。一昨年シーズンは同時期に勝ち点22、昨シーズンは勝ち点21でそれぞれ3位につけていただけに、調子に陰りが出てきたのではないか、という見方の記事が書かれることもある。

 クリスティアン・シュトライヒ監督はそんな記者の質問にいつも丁寧に答える。

「この2年間いつも右肩上がりだった。上手くいかない試合でも勝ち点を拾ったりすることが続いていた。それは素晴らしいことだ。だが、いつまでも上手くいき続けることなどない。今季は難しいシーズンになると私は分かっていたよ」

 どんなチームでも欠かすことのできない選手がいる。フライブルクにとってはキャプテンのDFクリスティアン・ギュンター、そしてボランチのMFニコラス・へフラーの離脱が大きな影響を及ぼした。ピッチ内外でポジティブなエネルギーをもたらすギュンターがいないことでチームからダイナミックさが、攻守のバランスとリズムを作り出すへフラーがいないことで安定感が一時期失われていた。

 リーグとカップ戦だけではなく、ELとの過密日程を考えたら戦力補強は必須。だがフライブルクは必要最低限の補強しかしていない。スポーツディレクターのクレメンス・ハルテンバッハは「我々はフライブルクの道を進む」と語り、シュトライヒ監督も「我々には優れた育成がある」と主張する。

フライブルクを率いるクリスティアン・シュトライヒ監督【写真:ロイター】
フライブルクを率いるクリスティアン・シュトライヒ監督【写真:ロイター】

GK交代の可能性を問われた指揮官「話をして、ビデオを見て、次につなげる」

 昨季まで正GKだったオランダ代表GKマルク・フレッケンが移籍し、後継者にはU-23チームからU-21ドイツ代表GKノア・アトゥボルを据えた。潜在能力はとても高く、将来ドイツ代表正GKになれるほどのものがあるという専門家も少なくない。

 ただシーズン開幕直後、不安定なプレーが続いていた。相手に打たれたシュートがどんどん決まってしまうかのような感じさえあり、フレッケンとの差を感じざるを得なかった。

 セカンドGKには経験豊富なフロリアン・ミュラーがいることで、記者会見ではフライブルクの地元記者からGK交代の可能性について問われることもあった。だが、シュトライヒ監督はアトゥボルへの信頼を全く崩さずに、落ち着いた口調で話をしていた。

「私は17年間、育成指導者をしていた人間だ。そしてトップチームでも若い選手たちを見てきた。普通のプロセスだ。我々はフライブルクだ。GKがミスすることもある。経験豊富なGKでもミスをする。選手と話をして、ビデオを見て、次につなげていく。ミスが起こるのは腹立たしいが、サッカーとはそういうものだ」

 アトゥボルは試合を重ねるごとにプレー判断のスピードと精度がアップ。いや、ドイツ1部リーグのスピードに順応してきたと言ったほうがいいだろう。ここ最近は鋭いセービングでチームを何度も救う活躍を見せている。第13節マインツ戦(12月2日、○1-0)でも大活躍でマン・オブ・ザ・マッチに選ばれている。

「いつでも応援してくれる」ファンが生み出す若手育成の好環境

 ほかの若手選手もそうだ。U-21ドイツ代表MFノア・バイスハウプトは左ウイングバックで起用されると、ギュンターが担っていた役割を見事に補った。第11節ライプツィヒ戦ではU-23から昇格組の21歳MFマーリン・ロールが独走ドリブルからセンセーショナルなゴールを決め、オリンピアコスとのEL戦では、同じくU-23から昇格の22歳DFヨルディ・マケンゴが素晴らしいデビューを飾った。

 外からの安易な補強に頼ることなく、クラブにいる若手選手の成長を信じてサポートし続ける。言葉で言うのは容易い。このクラブはその信念を何より大事にし、そして結果も残していく。その姿勢をファンが最大限に後押しをする。

 元イタリア代表MFビンツェンツォ・グリフォ(※2015~17年/19年~フライブルク在籍)が話していたことがある。

「フライブルクのファンは上手くいかないことがあっても、いつでも応援してくれる。いつだって背中を押し続けてくれる」

 ミスが続く試合でも選手の力になろうとする声がスタジアムに響く。ミスの分を取り返そうとするプレーをシュトライヒは称賛するし、ファンも拍手を送る。

 序盤調子がいいとは言えない状態だった日本代表MF堂安律にも復調の兆しが見られているのはプラス材料だろう。10月の代表中断期に親知らずの抜歯を行ったこともあり、最近はまた躍動感のあるプレーが途切れることなく連続で展開され、堂安らしさが戻ってきている。

 ドイツカップでは2部パーダーボルンに敗れてしまったが、ELでは決勝トーナメント進出を決め、首位突破の可能性も残している。ブンデスリーガでも上位への足掛かりを作り出すことができた。チームとしての戦績アップと同時に、若手の成長にも貪欲に向き合う。これからもフライブルクらしく突き進んでほしい。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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