日本代表の「GK交代批判」は的外れ? “粋な采配”をOB称賛「神戸ファンだけでなく、サッカー界全体で素直に喜ぶべき」【見解】

GK交代に代表OBに持論【写真:徳原隆元】
GK交代に代表OBに持論【写真:徳原隆元】

【専門家の目|金田喜稔】GK親子が日本代表史上初の偉業「驚くべきことだ」

 森保一監督率いる日本代表(FIFAランキング18位)は、11月16日にパナソニックスタジアム吹田で行われた2026年北中米ワールドカップ(W杯)アジア2次予選初戦でミャンマー代表(同158位)と対戦し、5-0と勝利した。「天才ドリブラー」として1970年代から80年代にかけて活躍し、解説者として長年にわたって日本代表を追い続ける金田喜稔氏が、日本のGK交代策について持論を展開。「GK交代批判はどれも的外れだと僕は思っている」と語り、「神戸ファンだけでなく、サッカー界全体で素直に喜ぶべき出来事だと思っている」と強調した。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部)

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 ミャンマー戦ではFW上田綺世(フェイエノールト)が3ゴール、MF鎌田大地(ラツィオ)とMF堂安律(フライブルク)がそれぞれ1ゴールを挙げて5-0と完勝。日本が4-0とリードして迎えた後半36分にGK大迫敬介(サンフレッチェ広島)からGK前川黛也(ヴィッセル神戸)に交代し、5枠最後の交代カードを切った。

 A代表デビューを飾った前川は、かつて守護神として活躍した父・和也氏に続いて親子2代で代表のピッチに立った。金田氏は、史上初となったGK親子の偉業を称えている。

「僕はJリーグが始まる前から代表戦の解説を行い、日本代表が初めてアジアカップ優勝を飾った1992年広島大会でGKを務めていた前川和也(黛也の父)も現場で見ている。今回、ミャンマー戦で息子がA代表デビューを果たし、ましてや神戸で優勝争いを繰り広げている守護神として評価されてピッチに立っただけに、感慨深いものがある。親子2代のJリーガーはこれまでもいるし、親子2代でのA代表出場は水沼親子(父・貴史、息子・宏太)が初だが、GK親子では今回が史上初。1枠しかないGKというポジションでの偉業は驚くべきことだ」

 今回のGK交代を巡ってさまざまな声が上がるなか、金田氏は「一部では、GK交代は相手に失礼という声や、ほかの選手を起用すべきだったという声もあるようだが、そうしたGK交代批判はどれも的外れだと僕は思っている。何かしら批判したい部分を探しているだけの印象を受ける」と語り、それぞれの声について持論を展開している。

日本サッカー界にとっても「非常に意味のあるGK交代だった」

 金田氏は、ミャンマー戦のGK交代について「相手に失礼という意見については、そもそも日本がどう交代するかは自由であり、失礼でもなんでもない」という明確な立場を取り、次のように続けた。

「ミャンマー相手にシュートを0本に抑え込むような一方的な展開だからこそという意味なのだろうが、大量リードで日本の攻撃陣を次々代えるのは問題なく、GKの交代だけ失礼というのは不思議な話だ。もっと言えば、日本にとっては大きな選択でもあった。GKを代表デビューさせて、前川自身のさらなる成長やGK陣の競争を促すという意味では貴重な交代カードを切った形であり、さまざまな選択肢があるなかで『GK交代』を選択した。前川だけでなく、今後の日本サッカー界にとっても非常に意味のある交代だったし、その意義を理解していないから、相手に失礼という論調も出てくるのだろう」

 また、ほかの選手を起用すべきという意見についても、金田氏は「大量リードしている時、フィールドプレーヤーの交代が良くて、GKの交代はけしからんという論理的な理由などないはずだ。感情論や好みの問題でそうした意見が出てくるのは理解できるが、その論法で言えば同じ理由でGKを交代させてもいいということになる」と指摘し、GK交代の価値を強調する。

「経験を積ませ、成長を促すという意味では、フィールドプレーヤーもGKも変わらない。むしろGKは限られた枠であり、交代の自由度が高い親善試合ではなく、こうした本番の舞台で経験を積ませられる機会は極めて貴重だ。今回、日本が大量リードしたからこそできた交代であり、逆に言えばこうした機会でなければ切れない交代カードだったとも言える。今後のW杯アジア予選で接戦が続けば、ひょっとしたらGKを途中交代させる機会は訪れず、誰か1人を固定で使い続けるかもしれない。そうなれば大抜擢でもしない限り、親善試合除き、経験の浅いGKに本番で経験を積ませる機会は訪れないことになる」

森保監督の粋な采配「日本サッカー界全体でGK陣の競争を促す」

 前川は、神戸でここまで今季リーグ戦32試合に出場。チームで唯一フル出場を続けており、首位に立つチームを最後尾から支えている。リーグ戦は残り2試合と佳境を迎えて優勝争いも繰り広げるなか、躍進の原動力となっている1人だ。金田氏は所属クラブでの働きを高く評価したうえで、今回のGK交代を「粋な采配」と評した。

「前川は神戸であれだけ頑張り、ハイパフォーマンスを見せて結果も残している。本人も好調をキープして自信を持っているだろうし、今回のデビューは神戸ファンも嬉しかっただろう。Jリーグでトップを走るチームの守護神が代表に選ばれてデビューを飾ったわけで、日本サッカー界全体でGK陣の競争を促すという意味もあっただろう。そうしたものをすべて踏まえてうえで森保監督の粋な采配だった」

 11月シリーズでは大迫、前川に加えて、鈴木彩艶(シント=トロイデン)と3人のGKが招集されている。今後も熾烈なポジション争いが予想されるなか、「GKの育成はどの代表チームにとっても難しい課題であり、むしろ前川を今回デビューさせて、経験を積ませることができたのは喜ばしいことだ。神戸ファンだけでなく、サッカー界全体で素直に喜ぶべき出来事だと思っている」と金田氏は総括していた。

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金田喜稔

かねだ・のぶとし/1958年生まれ、広島県出身。現役時代は天才ドリブラーとして知られ、中央大学在籍時の77年6月の韓国戦で日本代表にデビューし初ゴールも記録。「19歳119日」で決めたこのゴールは、今も国際Aマッチでの歴代最年少得点として破られていない。日産自動車(現・横浜FM)の黄金期を支え、91年に現役を引退。Jリーグ開幕以降は解説者として活躍。玄人好みの技術論に定評がある。

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