オランダで実現した日本人同士のマッチアップ ファインダー越しに見た菅原の堅実性&上田の試練【現地発】
【カメラマンの目】オランダで菅原と上田が直接対決
灰色の重たげな空がデ・カイプに垂れ込めていた。
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それにしてもサッカーの取材を30年もしていると、さまざまな経験や変化を見ることになる。現代は実に多くの日本人選手がヨーロッパ大陸へと進出し、当たり前のように世界のサッカーシーンをリードするリーグでプレーしている。今回も撮影した4試合のうち3試合で日本人選手がピッチに立っていた。そうした状況は嬉しい限りだ。
カメラのファインダーに捉えた試合前の練習風景での精悍な日本人選手たちの表情を見ると、我が国のサッカーレベルもここまで到達したのかと感慨深い。ヨーロッパでの撮影の最後となったエールディビジ(オランダ1部リーグ)第12節フェイエノールト対AZアルクマール戦の空はあくまでも暗かったが、取材する自分の心はどこか晴れやかだった。
日本人選手が所属するチーム同士の対戦となった試合は、熱狂的な両チームサポーターの声援が絶え間なく送られるなか1-0でホームチームの勝利に終わった。
試合はAZの菅原がフル出場を果たし、フェイエノールト所属の上田は後半21分から本拠地のピッチに立った。2人を評価するなら菅原は堂々のレギュラーとして安定感のあるプレーを見せ、上田は限られたプレー時間で持ち味は出せたというところか。
菅原はDFとしての本分を第一に考えてプレーしていたように見えた。まずは自分が守る右サイドでしっかりと守備を行う。そしてセンターバック(CB)や中盤の味方がマークを受けても苦しい状況にならないように、パスの逃げどころとしてサポートする。ボールのタッチもしなやかで、プレーによどみがない。
ひとたびボールを持ては的確に味方へとつなぎ、“パス&ゴー”の動きを繰り返す。パスを出して前線へと進出してもボールを貰えないことも当然あるが、そうした空振りにもめげず基本プレーを忠実にこなしていた。指揮官にしてみれば計算のできる先発メンバーとして使いたい選手であることが、その堅実なプレーから分かる。
ただ、相手が強敵フェイエノールトということで守備を重視していたのかもしれないが、欲を言えば劣勢の状況を打開し、ゴールへとつながる、敗北を勝利に変えるようなダイナミックなプレーも見てみたかった。
後半21分にピッチに立った上田には厳しいマーク
試合は後半に入り、サイドラインでアップを行っていた上田にチームスタッフが駆け寄り指示を出し始めた。その様子に気付きカメラのシャッターを切る。そして、上田は満を持し後半21分にピッチに立った。
何よりフェイエノールトの背番号9は、空中戦で相手に競り勝つパワフルさが目に付いた。相手との激しい接触プレーにも動じない逞しい姿にサポーターも沸く。チームとしても大量リード時や敗戦処理での場面に投入するのではなく、戦力として考えられ上田に結果を出してほしいという雰囲気を感じた。
ただ、上田の秘めたパワーを対決する相手もサッカー選手として本能的に感じ取ったのか、最前線だけでなく随所で激しいコンタクトプレーで対応してきた。菅原も自陣ゴール前で上田を激しくマークする場面が見られた。
そうした状況もあって、上田は上手くトラップやボールキープができずノーゴールに終わる。FWとして短い出場時間で内容だけでなく、記録的にも結果を出すというのは簡単なことではなく、上田は試練を迎えている。
上田のフィジカル面での充実は疑いようがない。それだけにオランダサッカーにさらに慣れて、つば競り合いの場面でもフィジカル勝負だけでなく、しなかやかなボールタッチができれば、より局面で勝利できゴールへとつながるのではないかと感じた。
試合終了のホイッスルが響き渡ると上田と菅原はお互いに歩み寄り、握手を交わしてユニフォームも交換した。2人はこの試合を終えて2026年ワールドカップ(W杯)北中米大会のアジア2次予選に日本代表メンバーとして参加する。日本でも彼らの活躍が期待される、その2人の姿を最後に撮影して、今回のヨーロッパ取材を終えた。
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。