世界基準に見る日本選手の晩成傾向 Jリーガーの成長速度を上げるには「小さな改革」では不十分だ【コラム】

30周年を迎えたJリーグ【写真:徳原隆元】
30周年を迎えたJリーグ【写真:徳原隆元】

晩成傾向の要因として浮かぶのは、学校単位の部活が軸を成してきた構造的な背景

 ルヴァンカップ決勝は、現国立競技場での新記録となる6万1683人の観衆を集め、アビスパ福岡が新しい王者として歴史に名を刻んだ。

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 この大会では21歳以下の選手1名のスタメン出場を義務づけ、対象者の中からニューヒーロー賞を選定するなど、フレッシュな有望株の台頭を促すことでリーグや天皇杯との差別化を図ろうとする主催者側の狙いも見える。

 だが現実的にカップを懸けて雌雄を決したのは、ベテラン主体のチーム同士だった。優勝した福岡がスタメン、ベンチ入り18人ともに平均27.8歳で、準優勝の浦和レッズはスタメンが28・5歳でベンチ入りを含めれば27.9歳。ベンチを含めても21歳以下の選手は、どちらも規約に則りスタメン出場をした1名のみで、残念ながらニューヒーロー賞を獲得した浦和の早川隼平(17歳)も、福岡側では同クラブ生え抜きで最年少だった森山公弥(21歳)も前半45分間のみでピッチを退いた。

 それに対しスペインでは、その1週間前にFCバルセロナ対レアル・マドリードのクラシコが行われ、世界中が注目する究極の大舞台にホームチームは20歳以下の選手を3人も送り出し、それ以外にベンチ(12人)には16歳を2人、17歳も1人入れている。

 もちろん常に欧州の頂点を目指すクラブなので、要所には30歳代のロベルト・レバンドフスキ、イルカイ・ギュンドアン、守護神のマルク=アンドレ・テア・シュテーゲンらを擁すが、一方で次々とトップシーンに10代のタレントを輩出している。すでに20歳のペドリや19歳のガビはスペイン代表でも主力として活躍しており、日本では高校1年生に相当する16歳のラミン・ヤマルも完全な戦力として定着している。

 結局クラシコを戦ったバルセロナのスタメン平均は25.5歳、ベンチ入りは24.4歳だった。またこの試合で2ゴールを挙げてレアルを勝利に導いたジュード・べリンガムも20歳なので、ルヴァンカップなら21歳以下の枠を満たす存在だった。

 日本選手たちの晩成傾向の要因として真っ先に浮かぶのは、やはり長く学校単位の部活が軸を成してきた構造的な背景だ。

 例えば日本では、松木玖生が青森山田高校1年時からレギュラーとして全国高校選手権を戦いクローズアップされたが、同年代でベリンガム、ヤマル、ペドリ、ガビらは欧州の最前線で活躍している。逆にそれを常識的に捉えているからこそスペイン人のアルベル監督(当時FC東京監督)は、なんの躊躇もなく高卒1年目の松木のスタメンに抜擢したのかもしれないが、Jリーグでは多くの指揮官たちが、21歳以下の選手をたった1人引き上げてくるのにも頭を悩ませているのが実情だ。

日本の国内市場でフレッシュな活力が損なわれれば未来の成長度合いにも影響

 Jクラブにアカデミーの保有を義務づけたのは、高体連主体の育成に風穴を開け、プロへの道を短縮するためだった。しかし現実にJユースに所属する選手でも大人に混じった真剣勝負の場は限られ、大半が同年代の試合に終始しているので、どうしても結果を求められるトップチームの監督は大胆な投資に踏み切れない。

 現在オーストリア2部のザンクト・ぺルテンでテクニカル・ダイレクターを務めるモラス雅輝氏は、数年前に同国リーグのザルツブルグがU-19の欧州制覇をした例を挙げて解説してくれた。

「オーストリアでは17~21歳くらいの選手たちが、レンタル先のクラブで大人と真剣勝負を繰り返す。それが大切なんです」

 依然としてJアカデミーは、プロ育成のスピード化の役割を十分に果たせず、逆に最終的な仕上げは大学が請け負いつつある。もちろんトータルな人間形成等を考えれば、大学を経由して熟成していくのも悪くはないが、とりわけ輸出国としての宿命を背負う日本の国内市場でフレッシュな活力が損なわれれば、未来の成長度合いにも影響してくる。

 確かにたった1人でも、21歳以下のスタメン起用の規定は、やらないよりは良い。しかし世界基準を踏まえて総体的にJリーガーの成長速度を上げていくには、この「小さな改革」ではあまりに不十分だ。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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