三笘薫が疲労困憊「疲れ取れているか分からない」 開幕3か月目の苦難…「二足の草鞋」ブライトンが直面する現実【現地発】

三笘薫とブライトンが過密日程の難しさに直面している【写真:Getty Images】
三笘薫とブライトンが過密日程の難しさに直面している【写真:Getty Images】

「休養と食事だけで本当に疲れが取れているのか分からない」

 話は今季リーグカップ3回戦が行われた9月27日に遡る。ブライトンが、6割を超すボール支配率をはじめとする内容で敵を上回っていながら、この試合で唯一の得点をチェルシーに決められて敗れた一戦。三笘薫は珍しく、しかも後半19分と早めのタイミングでベンチに下がっていた。試合後、疲れとの関連性を尋ねてみると、「それはないです」との返答だった。

 だが、その肉体には本人が思っている以上に疲労が蓄積していた。

 1週間で3試合目だったチェルシー戦の11日後、さらに2試合で計180分間をこなしていた三笘は、10月8日のプレミアリーグ第8節リバプール戦(2-2)で見た目に疲れていた。後半アディショナルタイム中にプレーが中断されると、タッチライン沿いには両手を膝につく左ウインガーの姿があった。

 試合後には、「(今までどおりの)休養と食事だけで本当に疲れが取れているのか分からないぐらいの状態。なかなか100パーセントに持っていくのは難しいなと思っています」と、自ら認めてもいる。その3日前に戦ったUEFAヨーロッパリーグ(EL)でのマルセイユ戦(2-2)は、フル出場だったうえにリバプール戦と同じく終盤に追いついた熱闘。週に2試合の真剣勝負は精神面でも堪えるのではないかとの質問が出ると、当人も否定はしなかった。

世界最高峰リーグも「EL常連」がいないプレミア

 よく言われる、欧州との「二足の草鞋を履く」難しさ。最も重要視されるべき国内リーグが、奇しくも当日の敵将で5年前のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)優勝監督でもあるユルゲン・クロップをして、「優勝はCLより難しい」と言わしめるプレミアとなればなおさらのことだ。同じ意見の持ち主には、監督として通算3度のCL優勝歴を誇る、マンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラもいる。

 言うまでもなく、ブライトンはプレミア優勝を期待されるまでのチームではない。欧州戦の舞台も、2番手の大会と位置付けられるEL。だがそれだけに、国内外で優勝を求められるビッグクラブとは違い、選手層を含む戦力に限りがある。加えてELは、CLよりもリーグ戦が行われる週末に近い木曜日開催。122年のクラブ史で初めて欧州カップ戦に参戦しているブライトンにとっては、未知の世界と言って差し支えのないシーズン序盤戦からの過密日程だ。

 またプレミアには、CLの常連はいても「EL常連」と呼ばれるようなクラブはいない。国内トップ4から漏れてCL出場権を逃したビッグクラブ以外のEL参戦組は、選手層と経験値の問題から、欧州でも戦うシーズンにプレミアで前シーズンと同レベルの成績を残すことが困難である場合が多いためだ。

 欧州第2の大会がELとして初開催された2009-10シーズン、決勝進出を果たしたフルハムは、プレミアでの順位を前シーズンの7位から12位へと下げることになった。国内で7位から15位に順位を下げる結果となったのは、2018-19シーズンのバーンリー。ELでは予選プレーオフで姿を消すのだが、51年ぶりの欧州参戦が控え組中心のメンバーで予選敗退に終わった事実への幻滅が、その3季後に訪れるショーン・ダイチ(現エバートン監督)による長期政権終焉への序曲となった感は否めない。

 両立の難易度を示す最たる例は、過去2年間のウェストハムかもしれない。通算3度目のEL出場で初めて予選を突破した一昨季、デイビッド・モイーズ率いるチームはベスト4まで勝ち上がった。プレミア最終順位も、前年から1つ下げただけの7位。だが実際には、国内ではトップ4入り、欧州では優勝という巨大な2つの夢が終盤戦で消滅した結果だった。チームに国内外でシーズンを戦い抜くだけの“体力”があれば、ラスト3か月での計18試合を5勝3分10敗という大失速は避けられただろう。

 続く昨季には、ELに次ぐ3番手の大会であるヨーロッパ・カンファレンスリーグ(ECL)優勝で1965年以来の欧州主要タイトル獲得が実現するのだが、プレミアでは残留争いに巻き込まれた末の14位。ECL決勝直前まで、優勝を逃せばモイーズ解任との噂が絶えなかった。

ローテーション採用のブライトン、GK起用を巡ってはファンの間で意見が二分

 最終的な結果はともあれ、戦力も経験も限られるチームが国内外両立を試みるのであれば、大規模なローテーション採用が唯一の方法だ。昨季途中からロベルト・デ・ゼルビが指揮を執るブライトンも例外ではない。今季プレミア第6節でのボーンマス戦(3-1)では9人、翌々週のリバプール戦では6人の変更が、対戦3日前に行われたEL戦での先発メンバーに加えられていた。フィジカル面ではフィールド選手と同等の消耗が心配されるわけではないGKも、その一部。リバプール戦までの合計11試合では、ジェイソン・スティールが6試合、新GKのバルト・フェルブルッヘンが5試合と、スタメンの座を分け合っている。

 正直、リバプール戦でのフェルブルッヘン起用は意外だった。スティールはというと、直前のマルセイユ戦での2失点のうち1点は防いでいるべきではあった。だが同時に、敗戦回避の好セーブを披露してもいた。何より、デ・ゼルビ体制下での前提とも言うべき後方からのつなぎの面で適任者だと思える。敵のプレッシングを誘って罠にかけるビルドアップの始点となる能力こそ、スティールが昨季後半戦でロベルト・サンチェス(現チェルシー)から正GKの地位を奪ったと理解された理由でもあった。

 一方のフェルブルッヘンは、リスキーなフィードの焦らしが実際にリスクとなってしまう場面が目につく。ベンチでの休養がハーフタイムで終わった三笘の2得点レスキューを必要としたボーンマス戦、前半に許した敵の先制ゴールは、タイミングが遅すぎたGKのスローに端を発している。リバプール戦では、一時的な相手の逆転に絡んでしまった。PKを取られたのはパスカル・グロスだが、フェルブルッヘンのフィードが受け手となったMFを窮地に追い込んだ。

 最終的に今季リーグ戦3敗目は免れたが、実際にはブライトンが勝てたはずの一戦で負けなかった敵の強さは、三笘の言葉を借りれば「ワンチャンスで(点を)取られる」怖さにあった。そのリバプールに貴重なチャンスを提供した格好のフェルブルッヘンがゴールマウスに立っていた理由は、杓子定規なローテンション採用のほかには考えられない。

 だからと言って、GKも対象とするローテンションが裏目に出る試合が今後も見られた場合でも、デ・ゼルビの首が危ぶまれる事態までは想像できない。しかしながら、現欧州サッカー界での「インパクトは最大級」と言われる指揮官が采配を振るうチームであっても、「二足の草鞋」はそう簡単に履きこなせるものではないのだ。三笘のように外せないキーマンには、開幕3か月目にして疲れが見られる。そして、疲れを考慮したローテーションに関しても、GKの人選にはファンの間でも意見が分かれ始めている……。

(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)



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山中 忍

やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。

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