新天地挑戦の鎌田、中村の評価は? ラ・リーガ&リーグ・アン&セリエA所属の日本人・序盤戦査定【コラム】
久保はスペインで最高のシーズンを送り、新天地に渡った中村、鎌田の奮闘にも期待
欧州に挑戦する日本人は年々増加傾向にある。なかでも“鬼門”とされていたスペインでは、レアル・ソシエダの久保建英が躍動。フランスでは挑戦2年目のASモナコ南野拓実が復活の狼煙を上げている。イタリアのラツィオに移籍した鎌田大地にも注目が集まるなか、「FOOTBALL ZONE」では欧州でプレーする侍たちに焦点を当て、「欧州日本人・序盤戦通信簿」と題し特集を展開。ラ・リーガ、リーグ・アン、セリエA の3か国に所属する日本人選手を、「飛躍の条件」をベースに独自評価していく。(文=河治良幸)
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【評価指標】
S=抜群の出来
A=上出来
B=まずまずの出来
C=可もなく不可もなく
D=期待外れ
■久保建英(レアル・ソシエダ)
評価:S
飛躍の条件:調子を持続させる
欧州で挑戦している日本人選手のうち、今回はラ・リーガ、セリエA、リーグ・アンをまとめる形で現状を査定する。スペイン1部では唯一の日本人選手として奮闘する久保だが、ここまで欧州のキャリアで最高のシーズンを過ごしているのは間違いない。9月27日のバレンシア戦こそ欠場したが、4-3-3の右ウイングあるいは4-4-2のFWとして躍動しており、4得点1アシストを記録。そのほかにも多くのチャンスに絡んでいる。
今非常に調子が良く、周りが見えているという主張は、日本代表の欧州シリーズでも証明された。一番感じるのはプレーの余裕で、足元のタッチに不安がないせいか、状況を見ながら効果的なプレーを繰り出せている。そして久保自身はあまり強調しないが、守備のタスクも当たり前のように、タイトにやれていることも見逃せない。イマノル・アルグアシル監督が率いる“ラ・レアル”は久保の成長にとっても素晴らしい環境だが、事実上の買い戻しオプションである50%の保有権を持つ古巣レアル・マドリードをはじめ、ビッグクラブがいつまでも放ってはおかないかもしれない。
好調の南野はマークが厳しくなることが予想されるなかでどこまで数字を伸ばせるか
■南野拓実(ASモナコ)
評価:S
飛躍の条件:相手のマークを上回る
活躍という意味では欧州の日本人選手で今最高の1人に挙げられるのが、モナコの南野だ。周知の通り、昨シーズンの夏にリバプールからモナコ移籍を決断するも、コンディション的にも戦術的にも新天地にフィットできず、大きな目標に掲げていたカタール・ワールドカップ(W杯)も“森保ジャパン”の健闘とは裏腹に、消化不良に終わってしまい、後半戦も難しいシーズンを過ごした。しかし、今シーズンは明らかに身体がシャープで切れていることに加えて、ザルツブルク時代の南野をよく知るアドルフ・ヒュッター監督が就任したことが、南野の運命を好転させた。
3-4-3の右ワイドあるいは3-4-2-1の右シャドーを根城に、幅広くチャンスに絡んでいる南野。前線で組むウィサム・ベン・イェデルやアレクサンドル・ゴロビンとのコンビも良好だ。ただし、開幕3試合で3得点2アシストを記録した出だしに比べて、相手のマークが厳しくなっているように見受けられる。第4節のRCランス戦では1アシストで3-0の勝利に貢献したが、翌節のロリアン戦では今季初のシュート0本に終わるなど、そのまま勢いで押し通せるほど、リーグ・アンは甘くない。今季から1部リーグは18クラブに減り、しかもモナコは欧州カップ戦がないので、日程的には比較的緩やかであるだけに、1つ1つの試合で結果を残して、指揮官の信頼を高く維持して行くことが大事になる。
■伊東純也(スタッド・ランス)
評価:A
飛躍の条件:“大人のプレー”に数字を付ける
伊東純也はスタッド・ランスの右の主翼として、良い意味で安定飛行にある。前節のリール戦は6試合目にして初めて、後半43分に途中交代したが、ウィリアム・スティル監督の信頼は揺るぎないものを感じさせる。結果を見ると1得点1アシストと物足りなさはあるが、個人の突破だけでなく、相手のディフェンスを引き付けて仲間にスペースを提供したり、時間を使った意図的なキープなど、縦に切り裂くだけではない“大人のプレー”と言うべき、深みが出てきているのは見逃せない。現在リーグ4位という成績とも無関係ではないだろう。そこに個人のゴールやアシストをどう付けて行けるか。
■中村敬斗(スタッド・ランス)
評価:B
飛躍の条件:周りを生かした打開力を高める
一方の中村敬斗は新加入の選手らしく、フレッシュに自分の特長を発揮することにフォーカスしており、6試合で4試合スタメン、2試合が途中出場で、ここまで得意の左サイドで、全ての試合に出番を得ているのは上々と言える。ただ、ボールを持って仕掛ける場面でスピードはあるが、伊東のように単独で縦に突き破っていけるタイプではない。
フィジカル的にも強い相手が多いなかで、いかにサイドバックやインサイドの選手と連係しながら、決定的なクロスやシュートに繋げられるかが、ここからゴールやアシストを増やす鍵になる。また日本代表のトルコ戦で見せたような、オフでボックスに入って合わせるシーンはもっと増やしていきたい。伊東のクロスから中村がゴール、逆に中村のアシストか伊東が得点するシーンが増えてくると、日本代表の2人の活躍が相乗効果となって、“古豪”を上位争いに導くことができるかもしれない。
イタリアの名門で戦術の慣れ、タスクの違いに苦戦のなか1ゴールをマーク
■鎌田大地(ラツィオ)
評価:C
飛躍の条件:タスクと向き合いながら持ち味を発揮
鎌田大地はドイツ1部のフランクフルトからセリエAの名門ラツィオに移籍したが、シンプルにステージが上がったというよりも、独特なカルチョの世界で、ドイツとのサッカーの違いに苦労しているようだ。しかもイタリアきっての戦術家として知られるマウリツィオ・サッリ監督だけに、中盤のタスクだけでもフランクフルトのそれとは大きく違うだろう。
それでも開幕から4試合にスタメンで起用されており、第3節のナポリ戦で初ゴール、翌節のユベントス戦では3-1で敗れたものの、MFルイス・アルベルトによる唯一のゴールをアシストしており、さすがは一昨シーズンのUEFAヨーロッパリーグ(EL)を制したチームの主力というところは見せている。
ここ2試合はベンチ入りも出番がなかったことに関して、サッリ監督は膝を痛めた影響と明かしているが、マテオ・ゲンドゥージ、ルイス・アルベルト、マティアス・ベシーノなど中盤に実力者が多く、しばらく1試合1試合が存在価値を示す戦いになっていきそうだ。そうは言ってもUEFAチャンピオンズリーグ(CL)との過密日程が続いて行くなかで、多かれ少なかれ出場機会は与えられるはず。
一瞬のスピードや守備の強度など、フィジカル的な要素でライバルに差を付けるのは難しいが、鎌田には起点を作りながら、タイミングよく前に出てフィニッシュに絡むというスペシャリティがある。サッリ監督の戦術的なタスクに向き合いながら、いかにそうしたスペシャルなものを発揮して、ライバルとの違いを見せていけるかが主力定着を左右しそうだ。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。