レアル復帰説再燃の久保建英、世界的名将も絶賛「危険な存在」 絶好調の日本人レフティーにソシエダ監督が苦悩の理由【現地発】

ソシエダでプレーする久保建英【写真:Getty Images】
ソシエダでプレーする久保建英【写真:Getty Images】

久保のレアル戦を前に大盛り上がり「久保のベルナベウ行き最終列車」「超新星対決」

 レアル・ソシエダの久保建英にとって、現地時間9月17日にサンティアゴ・ベルナベウで行われた古巣レアル・マドリード戦(1-2)は、キャリア通算9度目の対戦となった。

 これまでの戦績は8試合出場(先発5試合)、2勝2分4敗、1得点。ベンチ入りしながらも出番がなかったのはヘタフェ時代の1試合のみ。前回の対戦で、スペインでのキャリア4年目にして初得点を記録したあのシーンはいまだに記憶に新しい。大きな自信を得ている今の久保からは、どんな強豪相手にも肩の力を抜いてプレーできる余裕を感じることができる。

 久保はマドリードとの対戦で、日本のみならずスペインでも大きな注目を集めてきたが、今回はその傾向がより強いものとなっていた。今夏のスペインの移籍市場最高額で加入し、得点ランキングトップに立つ若干20歳のイングランド代表MFジュード・ベリンガムと並列で試合前の紙面を賑わせた。

 試合当日のスペイン紙「マルカ」は記事の見出しに「ラ・レアルのスター」とつけ、「前回のサンティアゴ・ベルナベウでの対戦後、23試合に出場して9ゴールをマークし、ダビド・シルバ引退後、チュリウルディン(※レアル・ソシエダの愛称)の中心となっている」と久保を紹介。またスペイン紙「AS」も、「ベリンガムと久保、チャマルティン(※サンティアゴ・ベルナベウの別称)での超新星の対決」という特集を組むなど、その注目度は今まで以上に高かった。

 しかしそれには大きな理由がある。なぜなら今季開幕から久保の類稀なパフォーマンスにより、マドリード復帰話が再燃しているためだ。

 試合当日の「マルカ」紙は、「久保のベルナベウ行き最終列車」と題した記事を掲載し、マドリードが先買権(ソシエダが将来的に他クラブから久保へのオファーを受けた場合、マドリードがその提示額と同じ金額で優先的に買い戻せるというもの)を保有していること、そして絶好調の今季が復帰に向けてアピールできる絶好の機会であることを強調し、「レアル・マドリードの強化部門は常に、久保がトップチームで居場所を作ることができる選手と考えている」と伝えていた。

 またマドリードのカルロ・アンチェロッティ監督は試合前日、ソシエダで最も警戒すべき選手として久保を挙げ、「とてもいいプレーをしているし、大きく成長している。ゴールも決めているので、もちろん警戒する必要がある」とその実力を認めていた。

存在感を放った久保、スペイン各紙が高評価

 そうした喧騒の中にいながらも、マドリード戦で久保からはなんの焦りや力みも感じられなかった。4-3-3の右ウイングで開幕から5戦連続の先発出場を果たすと、今年4月以降、公式戦12試合連続無敗を誇る難攻不落のスタジアムで臆することなく、ピッチ上の誰よりも早くトップギアに入れた。

 前半5分、久保はいきなり左足のピンポイントパスをゴール前に送り、アンデル・バレネチェアの先制点を演出して見せた。これ以降、選手紹介では起こらなかった久保へのブーイングが幾度となく響き渡る。

 対戦相手に恐れられるサンティアゴ・ベルナベウで、このように得点につながるような素晴らしいプレーを一度でもすれば、大半の選手は満足できるもの。しかし久保はそれだけでは飽き足らないことをすぐさま証明する。

 同11分、右サイドからカットインしてペナルティーエリア正面から左足で放ったミドルシューが見事にゴール左下隅に突き刺さったのだ。2点目を決め喜びを爆発させる久保、そして対照的に静まり返るベルナベウ……。しかしゴールネットを揺らす直前、オフサイドポジションにいたミケル・オヤルサバルの背中をかすめてしまい、不運にもゴールは幻となった。

 わずか10分程度のプレーで、久保はスタジアム中に最も危険な存在であることを知らしめた。しかしこの日の久保はまだ終わらない。同29分、この試合最高のプレーの1つが生まれることとなる。自陣右サイドでの巧みなトラップでまずはクロースをかわすと、そのままトップスピードに乗って相手ペナルティーエリアまでボールを運び、緩急をつけたドリブルでフラン・ガルシアとクロースの間を突破して低空の強烈なショットを放つが、惜しくもケパ・アリサバラガにファインセーブされてしまった。

 さらに同31分、ペナルティーエリア内でフラン・ガルシアとマッチアップしながら2列目から走り込んだミケル・メリーノのヘディングシュートをお膳立て。これは味方と相手の動きを冷静に読んだ素晴らしいプレーだった。またこの直後にオーレリアン・チュアメニのイエローカードを誘発した。

 ハーフタイム後、気持ちを引き締めたマドリードが調子を上げ、ソシエダは一気に劣勢の状況に陥り、わずか15分間で逆転を許してしまう。そんななかでも久保は突破口を切り開こうと努め、フラン・ガルシアのイエローカードを引き出すなどしたものの、チームは最後まで追加点を奪えず、1-2の逆転負けで今季初黒星を喫する結果となった。

ソシエダが6連戦の過密日程、絶好調の久保をいつ休ませるのか

 敵将のアンチェロッティは試合後に、「あの失点は想定したプレーによるもの。ラ・レアルはいつも久保を使ってあのようなプレーをするから、我々は試合前に話し合っていた」と警戒していたことを明かしつつ、「対戦相手があのようなプレーをするだけのクオリティーを持っている時もあるし、驚かされることもある」と久保に上回られたことを素直に認めていた。さらに久保について「とても良かったし危険な存在だった」と言及。すなわちこれは世界的名将が久保の実力を評価したことを意味している。

 久保で紙面が賑わった序盤最初の大一番を終えたソシエダはこの後、今季最初のミッドウィーク開催の過密日程を開始する。そこで問題となるのが選手の起用法だ。昨季のUEFAヨーロッパリーグ(EL)では対戦相手が格下となるタイミングで主力選手を休ませることができた。しかし今季は10季ぶりにUEFAチャンピオンズリーグ(CL)へ参戦するため、その余裕がないかもしれない。

 次の代表ウィークまでの6連戦の相手に目を向けると、インテル、ヘタフェ、バレンシア、アスレティック、ザルツブルク、アトレティコ・マドリードとの対戦を控えている。現在ソシエダがラ・リーガで1勝3分1敗の勝ち点6、11位であることを考慮した場合、対戦相手すべてが上位チームとなる。さらにCLでは、インテルはセリエA唯一の全勝チーム、ザルツブルクはオーストリアリーグ6勝1分でそれぞれ首位と、ソシエダが主力選手を温存できるような相手とは言えない。

 この厳しい連戦に臨むにあたり、絶好調の久保をイマノル監督が休ませる決断を下すのは非常に難しいだろう。ましてやここまでのラ・リーガ5試合でまだ1勝という現状を考えるとなおさらだ。

 久保は昨季、シーズン途中にワールドカップが開催されるタイトな日程のなかで、左肩脱臼と大腿四頭筋の違和感で計4試合を欠場している。すなわち酷使し続ければ、どこかでその代償を払うことにもなりかねない。そのため今や攻撃面でチームナンバーワンの選手となっている久保をどのタイミングで温存するのか、今季はイマノル監督の苦悩が続くことになりそうだ。

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高橋智行

たかはし・ともゆき/茨城県出身。大学卒業後、映像関連の仕事を経て2006年にスペインへ渡り、サッカーに関する記事執筆や翻訳、スポーツ紙通信員など、スペインリーグを中心としたメディアの仕事に携わっている。

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