W杯で女子サッカーの勢力図に異変 「アメリカ衰退、欧州&伏兵国の躍進」が示す新時代の到来【コラム】
スペインの初Vで幕、女子W杯で見えた世界的な潮流を考察
女子ワールドカップ(W杯)ファイナルはスペインがイングランドを1-0で破り、初優勝を飾った。FIFAランキング6位のスペインにとっては昨年の女子欧州選手権の準々決勝で敗れた相手であり、苦しい時期を乗り越えての優勝だけに、喜びもひとしおだろう。
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W杯の結果だけで女子サッカーの勢力図が決まるわけではないが、本大会の参加国が24か国から32か国に増えたわりに大差になる試合が少なく、またFIFAランキング25位のコロンビアをはじめ40位のナイジェリア、43位のジャマイカ、54位の南アフリカ、72位のモロッコがノックアウトステージに進出しており、世界規模での女子サッカーの成長を印象付けた。
その一方で、3連覇を目指したアメリカ合衆国が絶対的な存在ではなくなってきていることを証明する大会でもあった。ラウンド16で北欧のスウェーデンと120分間の死闘を繰り広げて、最後はPK戦で敗退したが、グループリーグではベトナムに3-0と勝利したものの、オランダとポルトガルに引き分けて、辛くも2位でノックアウトステージに進んだ。
その理由としてはアレックス・モーガンやミーガン・ラピノーなど、長年チームを牽引してきた選手の高齢化もあるが、相対的に欧州のイングランド女子スーパーリーグ(WSL)やUEFA女子チャンピオンズリーグが急速にレベルアップしたことで、米国のナショナル・ウィメンズ・サッカーリーグ(NWSL)をベースとするアメリカ代表の戦力が相対的に下がったという見方もできる。
4年前の2019年大会でも、フランス開催だったとはいえ、アメリカを除くベスト8の7か国が欧州勢だった。それでも最後はアメリカがオランダを破って2連覇を果たしたわけだが、この4年間でも状況が移り変わってきている。今回のベスト8を見ると、欧州勢は5か国で、南米のコロンビア、アジアの日本、そしてオセアニアながらサッカーではAFC(アジアサッカー連盟)に所属する開催国オーストラリアが食い込んだ形だ。
FIFAランキングの上位10か国のうち、欧州が6か国、20位にまで広げると13か国を占めており、欧州勢が世界の女子サッカーを引っ張る構図は色濃くなってきている。ただ、そうしたランキング上位ではない南米のコロンビアやアフリカ勢の躍進は興味深い。ベスト8ながら、世界からパフォーマンスが称賛されたなでしこジャパンにも言えることだが、主力選手は欧州の強豪リーグでプレーしていることも、こうした傾向に影響しているかもしれない。
欧州の強豪リーグで揉まれた選手たちがW杯で躍動
なでしこジャパンは大会前の時点でFIFAランキングは11位だったが、前回ラウンド16でオランダに敗れ、東京五輪の準々決勝でスウェーデンに完敗した流れから、上位国とはやや差が開いているように思われた。そこから池田太監督が組織的にチーム強化して、さらに対戦相手に応じた準備、選手の結束力が合わさり、ベスト8という結果だけで測れない価値を示したことは確かだ。
しかし、ベスト8から先は勢いでどうにもならない力の壁が見えたのも事実で、ここから戦術面だけでなく、個の力を伸ばしていかないと、かなり厳しいことも確か。その意味で、選手たちがどういった環境で成長していくかも重要になる。日本と同じくベスト8に躍進したコロンビアのエースであるFWマイラ・ラミレスはスペインのレバンテ、10番を付ける司令塔のMFレイシー・サントスはアトレティコ・マドリードでプレーしている。ブラジルをグループリーグ敗退に追いやりベスト16に輝いたジャマイカもセンターラインはマンチェスター・シティのFWカディジャ・ショーなどイングランドのWSLに所属する選手たちだ。
欧州の強豪リーグは練習施設やスタジアムなど、環境が整備されていることもあるが、プロ選手としての待遇面も着実に上がっている。なでしこジャパンは海外組が9人で、うち欧州がマンチェスター・シティの長谷川唯など7人、米国のNWSL組が2人だった。大きく成長するには国内のWEリーグからの底上げは不可欠だが、トップ選手の多くは海外、特に欧州に成長の環境を求めていく傾向は強まるだろう。WEリーグとしては外国人選手の加入が、チーム力の強化や競争の活性化に加えて、国際的な対応力を高めることになるはずだ。
パリ五輪は12か国によって本大会が行われるが、出場国が少ない分、予選は過酷になる。欧州からは開催国のフランスを含めて3か国しか参加できない。UEFA女子ネーションズリーグの決勝ラウンドがパリ五輪の予選を兼ねるが、非常に熾烈な戦いが繰り広げられそうだ。FIFAランキング2位ながら、女子W杯ではまさかのグループリーグ敗退に終わったドイツの奮起も注目される。
アジアは2枠。コロナ禍でしばらく国際大会に参加していなかった北朝鮮が復帰するため、前回の東京五輪は予選が免除された日本にとってオーストラリア、中国、韓国と並んで強力な相手になることは間違いない。今年10月26日から11月1日にかけて行われる2次予選で、日本は開催国ウズベキスタン、ベトナム、インドと同じC組に入り、4か国で最終予選進出を争う。
それに先立ち9月に北九州で南米のアルゼンチンと対戦するが、そこで池田監督がどういったメンバーを選ぶのか。WEリーグの選手はもちろん、FW岩渕真奈やDF宝田沙織など、今回の女子W杯からは外れた有力選手もおり、巻き返しが期待される。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。