三笘&冨安、新シーズンに直面する異なる“チャレンジ” 英在住ベテラン日本人記者が提言する飛躍への鍵【現地発】

三笘薫(左)と冨安健洋の今季を展望【写真:Getty Images】
三笘薫(左)と冨安健洋の今季を展望【写真:Getty Images】

【対談後編】“ブライトンの顔”となった三笘、プレミアを代表するアタッカーになれるか?

 2022-23シーズンのプレミアリーグは、アーセナルとの首位争いを制しマンチェスター・シティが見事3連覇を達成した。そんな絶対王者が君臨するイングランドは、ほかにも見どころが満載だ。そこで新シーズンのプレミアを楽しむべく、「FOOTBALL ZONE」では欧州リーグ開幕にフォーカスした特集を展開。英国在住のベテラン日本人ライター2人、森昌利氏と山中忍氏との“プレミア特別対談”を実施し、その内容を2回にわたってお届けする。後編ではプレミアで存在感を示す2人の日本人選手に迫る。

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森 ここからは日本人選手の話をしましょう。僕は今季の三笘薫に大注目しています。昨シーズン以上の数字はもちろん、プレミアを代表するアタッカーになる足がかりを作ってくれるんじゃないかと思っている。

山中 彼には日本人だけではなく、プレミアファン全体が注目していると思いますよ。

森 ブライトンでプレーするというのが前提だけど、残留すれば怪我をしない限り不動の先発レギュラー。昨季は12試合目のチェルシー戦から先発して7ゴール5アシストの成績だったけど、開幕からフル稼働するはずの今季はゴール・アシストともに二桁が狙える。もちろん、昨季の活躍でマークは厳しくなるけど、それはすでに昨季後半から始まっていて想定済み。昨シーズン最終戦の後に「シーズン・オフに進化したい」と言っていたから、今季はシュート、特に左サイドから中央に切れ込んで対角線上のトップコーナーを狙うフィニッシュの精度を上げて、ゴール数を確実に増やすと思う。アシスト数も1トップに才能あふれるエバン・ファーガソンが定着すれば必ず伸びる。

 三笘には、少し身勝手なくらいにゴールにこだわって複数得点を決める試合を何度も見せてほしいね。開幕直後にゴールを量産して波に乗れば、今季ブライトンの王様になれる。そうすればサイドの違いはあるけど、2015-16シーズンに17ゴール10アシストを記録してレスター・シティを奇跡の優勝に導いたリヤド・マフレズを彷彿とさせるような活躍もできるのではないかと思っている。

山中 ただしモイゼス・カイセドが引き抜かれた場合、三笘の背後をしっかり守れるボランチを補強する必要はありますね。

森 その通りだと思う。三笘本人も言っているけど、カイセドのおかげで守備の負担が軽減されて、攻めに特化できている状況がある。ところが、守りの心配をしなくちゃいけなくなるとかなりのマイナスだ。

山中 これは日本人の良さでもあるけど、チームのバランスを見る気遣いができるから、守りが弱くなれば、そこに労力を割いてしまう。「余計」というと語弊があるけど、そういう余計な守りの心配をせずに、ゴールに向かうプレーをどんどん繰り出すことができたら、今季の飛躍は約束されると思う。120%の期待値(笑)。

森 王様になって、8年前のマフレズのようにボールを持ったら常にシュートを狙うといった独善さを示してハングリー精神あふれるプレーをしてほしい。シュートを打って打って打ちまくってくれれば……。

山中 昨シーズンも惜しいシュートが何本もあったし、少しだけほかの選手が触ってアシストがつかなったプレーもあった。それでも7ゴール5アシスト。怪我さえなければ今季は相当な結果を出すでしょう。期待は本当に大きい。英国でのプレミア開幕の告知を見ていても、ブライトンの顔は三笘。テレビや雑誌の宣伝で、ケビン・デ・ブライネ、モハメド・サラー、マーカス・ラシュフォード、ブカヨ・サカ、ハリー・ケインといったほかのクラブのスター選手に混じって、三笘の写真がメインで使われいる。この現象を見ても、現地での期待がいかに大きさか伝わってくる。日本人選手という枠から飛び出す、三笘にはそんな雰囲気が漂い始めています。

冨安にとって激しいレギュラー争いは歓迎すべき状況

森 一方、冨安健洋に関しては右サイドバックとセンターバックもこなせるユリエン・ティンバーが入って来て、チーム内のレギュラー争いがまた一層厳しくなりそう。けれども、今のアーセナルはプレミアでマンチェスター・シティとの2強を形成しようというチーム。いわば世界の頂点に近いチームなわけで。代表で言えば、フランスやアルゼンチン、ブラジル、スペイン、イングランドといったレベルにあるチーム。ここでレギュラー争いをすることはサッカー選手としてまったく恥ではない。それどころか、このチームに所属できている自体が光栄なことだと思う。

山中 その通り。アーセナルは昨季、近年のヨーロッパのなかでも最もレベルが高いプレミアで優勝争いをした。UEFAチャンピオンズリーグ(CL)を制し、FAカップも優勝したマンチェスター・シティは現時点で間違いなく世界一のチーム。そこと競り合ったのだから、現在のアーセナルは非常に強い。今季、再び優勝争いをして、CLでも準々決勝まで進むことができたら、アーセン・ベンゲル時代の栄光にもう一歩のところまで肉薄できる。そのチームでレギュラー争いをする選手なのだから、冨安の価値の高さに疑問の余地はない。さらに言うと、ここでレギュラーを勝ち取れば、日本人選手が世界のトップレベルに立ったということになる。またアーセナル・ファンと話をすると、みんな口を揃えて「冨安は重要な選手」と言いますよ。

森 それにアルテタ監督も一貫して「冨安は良い選手」と言い続けているよね。4バックのどこでもあれだけ高いクオリティーを保ってプレーできるという選手は本当に異色だ。だから少し出場時間が減ったとしても、雑音には惑わされず、今季はアーセナルで精進するべき。とにかく冨安の場合は、怪我が大敵。シーズン通して無事にプレーしてくれることを願っている。

山中 少し昔は色々なポジションがこなせるユーティリティープレーヤーを“便利屋”のようなイメージで割引する感覚があったけど、モダンフットボールではより広いエリアをカバーできる選手でなければ一流になれない。特に国内外でタイトル争いをするチームにとっては冨安のような選手は貴重です。繰り返しになるけど、今季は怪我をせず、アーセナルの不沈の鍵を握る選手となるようにと期待しています。

[プロフィール]
山中 忍(やまなか・しのぶ)
1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。

(森 昌利 / Masatoshi Mori)



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森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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