シティの4連覇は「面白みに欠ける」 熾烈な展開が予想…群雄割拠の今季プレミアリーグ展望【現地発】

新シーズンのプレミアリーグを展望【写真:Getty Images & ロイター】
新シーズンのプレミアリーグを展望【写真:Getty Images & ロイター】

【対談前編】優勝争いの筆頭は史上初の4連覇を目指すシティ

 2022-23シーズンのプレミアリーグは、マンチェスター・シティが終盤に安定した強さを見せて見事3連覇を達成した。そんな絶対王者は今季もイングランドを席巻するのか、それとも……。そんな世界最高峰リーグの行方を占うべく、「FOOTBALL ZONE」では欧州リーグ開幕にフォーカスした特集を展開。英国在住のベテラン日本人ライター2人、森昌利氏と山中忍氏との“プレミア特別対談”を実施し、内容を2回にわたってお届けする。前編では、優勝候補と熾烈な展開が予想されるUEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場権争いを取り上げる。

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森 プレミアリーグ開幕直前ですが、まずは今季優勝争いと補強状況をどう見ます?

山中 マンチェスター・シティは今夏も隙がない補強をしたと思います。イルカイ・ギュンドアンの穴をマテオ・コバチッチで埋めて(ゴールでの貢献を除く)、世界最高の若手と言われるクロアチア代表DFヨシュコ・グバルディオルを獲得。レベルを落とさない印象の補強をしましたね。

アーセナルも良い補強をしました。イングランド人は相場の1.5倍以上(プレミアム価格)と言われ1億ポンド(約180億円)を越えて高かったけど、喉から手が出るほど欲しかったデクラン・ライスを獲った。これで昨季以上に期待できるチームになったと思います。総合力と完成度でシティの方が上の印象ですが、優勝争いのライバルはアーセナルになりそうです。

森 アーセナルはライスのほか、チェルシーで実績のあるカイ・ハフェルツと22歳のユリエン・ティンバーも獲ってチームが骨太になり、ラインナップに厚みが増した。

山中 ティンバーはアルテタ好みの選手だと思います。身体能力が高く、アヤックス産で足元も良い。昨季はウィリアン・サリバが故障し、冨安健洋もタイミング悪くシーズン終盤の踏ん張りどころで怪我をしてチームが失速してしまったけど、ティンバーが加わることで昨季のように守備陣が大きく崩れることはなくなるでしょう。それにライス、ハフェルツが加わってフォーメーションの中央に一本太い筋が通った。補強が上手くいったこともあり、シーズン前のムードはシティとアーセナルが頭1つ抜けて良い。

森 シティに関しては、主将だったギュンドアンだけでなくここ数年の得点源だったリヤド・マフレズも抜けた。これでベルナウド・シウバまで噂通りにバルセロナへ移籍してしまうと、経験値の高い選手が一気にいなくなる印象が否めない。

山中 シウバが出て行ったとしても、フィル・フォーデンが穴を埋めてくれるでしょう。不振に陥るとしたら、ここ数年勝ち続けていることで積み重なった“精神面の疲労”が原因になるかと。特に昨季はプレミアの3シーズン連続優勝をトレブル(欧州三冠)で飾った。とはいえ、ペップのチーム。あの監督がいて、選手のモチベーションが下がるのは考えづらい。今季はイングランド史上初となる1部リーグ4季連続優勝という大記録がかかっているだけに、成し遂げられるとしたらきっとこのチームでしょう。ペップのことだから前人未到の記録さえ大きなモチベーションにするはずです。

森 でもさすがに、シティは昨シーズンのトレブルでお腹がいっぱいになったのでは? マンチェスター・ユナイテッドも3冠の翌シーズンはプレミア1冠で終わったわけで。

山中 ただ、あの時のユナイテッドはぶっちぎりで優勝しました(笑)。

森 とはいえ、1970年代と80年代のリバプール、そして90年代と2000年代後半のユナイテッドでさえ達成できなかった4季連続優勝はやはり至難の技だと思う。やっぱりこれは願望かな……4年連続でシティ優勝だと面白みに欠ける(笑)。

山中 ですね(笑)。残念ながら現在のシティは1888年から続く世界最古のイングランドリーグでどのチームも成し得なかった4連覇という偉業を達成してしまいそう。そのくらい完成されている。ギュンドアンとマフレズが抜けて経験値は下がったかもしれませんが、フォーデンやジャック・グリーリッシュはこれからの選手。ケビン・デ・ブライネは健在だし、アーリング・ブラウト・ハーランドも大きく数字を落とすとは考えにくい。僕も願いはしないけど、来季の優勝候補の最右翼はシティですね。

久々にCL参戦のニューカッスルは苦戦と予想

森 優勝候補の最右翼はシティだとして、対抗馬はアーセナル。3番手として食い込めるチームはどこでしょう?

山中 ほかのチームのファンには申し訳ないですが、現時点ではこの2チームを脅かせそうなクラブは見当たりません。

森 ユナイテッドが優勝争いを演じる第3のチームになる可能性があると感じていたけど、昨年の11月にクラブを売りに出したにもかかわらず8月になっても新オーナーが決まらない。これによって補強が出遅れて、現時点で優勝争いができるほどチームに上積みがされていない。

山中 エリック・テン・ハフ監督は2年目の今季こそ、“自分のサッカー”をやりたいでしょう。昨季はチームの長所を生かすべく、守りを固めてカウンターという戦法で勝ち点を積み上げました。ただ、本当はポゼッションで試合を支配して、緻密なパス回しで相手を崩したい考えの監督。オランダ人だから現実的な対応をすることができました。2年目で自分が理想とするチーム作りを進めたいはずですけど、今のところ現状維持に近い状態で希望通りとは言い難いですね。

森 しかし、3位候補ではある。

山中 そう。けれども条件は昨シーズン加入ながら中盤を支えたカゼミーロが怪我をしないこと。彼が不在となると、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)の出場権確保さえ一苦労かもしれない。

森 4位を勝ち取った昨季のニューカッスルは本当に素晴らしかった。エディ・ハウ監督の下、特にホームでインテンシティの高い戦いをしてCL出場権を21年ぶりに掴み取った。けれども、今季はプレミアリーグとCLの併走に。これがきつい。週に2回、チームをピークの状態へ持って行かなくてはならない。現在の欧州サッカーで真の強豪とは、国内リーグとCLの2冠を達成できる可能性のあるチームだと思う。その資質を有しているのは、プレミアのシティとスペインのレアル・マドリード、ドイツのバイエルン・ミュンヘンだろうか。

 とはいえ、週2回の真剣勝負をタフに勝ち抜ける力は一朝一夕で身につかない。昨季、ウェストハムがUEFAヨーロッパカンファレンスリーグ(ECL)を優勝したけど、プレミアでは一時降格争いに巻き込まれて最終的に14位。ECLとの併走が影響したのは明らか。ニューカッスルはサポーターが熱く街も晴らしいから、今季も躍進を続けてほしい。

けれども、昨今のプレミアは本当に厳しい。シティ、ユナイテッド、リバプール、アーセナル、トッテナム、チェルシーと優勝争いを演じる可能性があるチームが6つもあるところにニューカッスルが殴り込んだ形なわけだけど、ここまで上位の戦力が拮抗しているリーグはほかにないわけで。CL出場権を毎年当たり前のように獲得できるとは限らないのが今のプレミアリーグでしょう。

山中 その通り。それに補強状況を見る限り、そこまで選手層が厚くなったわけではない。ヨーロッパを股にかけた移動もあるし、週2回試合を行うリズムに慣れるのは大変なこと。これは今季UEFAヨーロッパリーグ(EL)に初参戦するブライトンにも言えることだけど、国内リーグと欧州戦を併走して結果を出すには経験値が必要です。

欧州CL出場権争いの行方は?

山中 ニューカッスルがCL参戦で難しいシーズンを過ごした場合、リバプールが4位になる公算が高い?

森 4位はリバプールとチェルシーで争うんじゃないかな。

山中 今季のチェルシーは6位あたりが妥当だと思っています。

森 ファンは厳しいね(笑)。でも、今季の4位争いはそれほどハイレベルにならないと思う。ここまでシティ、アーセナル、ユナイテッド、ニューカッスルについて話してきけど、今シーズン、本当に厳しいと思うのがトッテナム。

アントニオ・コンテ監督が辞めて現場と経営陣の意識の違いという問題が噴き出し、オーナーのジョー・ルイス氏がインサイダー取引の疑いで米検察当局に起訴されるなど、クラブ内はごたごたの状態で……。おまけに主将の(ハリー・)ケインが移籍希望を公にしている。そうしたチームがプレミアリーグを勝ち抜けるとは思えない。アンジェ・ポステコグルーは本当にいい監督だと思うけど、悪い時に来ちゃったね。とにかく逆風が吹きまくっている今季のトッテナムにチャンスはないかな。シーズン開幕前から申し訳ないけど、CL出場権争いからは早々と脱落したと見ている。

山中 トッテナムはちょっと難しいね。まあケインが残ることを前提にするけど、彼を1トップにして2列目が左からソン・フンミン、真ん中にレスターから獲ったジェームズ・マディソン、そして昨年1月にパルマからレンタルで加入していたデヤン・クルゼフスキが完全移籍して右サイドに収まった攻撃陣には楽しみな部分もあるけど、チームとしてはトップ6に入るのもきついかな。

森 というわけで、4位争いはリバプールとチェルシーが本命。ニューカッスルが欧州カップ戦との併走を克服するか、リーグ戦に注力すれば三つ巴になるかな。

山中 チェルシーが加われば御の字なんですよね(笑)。

[プロフィール]
山中 忍(やまなか・しのぶ)
1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。

(森 昌利 / Masatoshi Mori)



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森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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