長友佑都の後継者筆頭…直系後輩の名古屋MF森下龍矢が森保監督にアピール弾 日本代表の猛者にも劣らない資質とは?【コラム】
8月5日の新潟戦、森保代表監督が視察する前で森下龍矢が決勝ゴール
7月16日から3週間の中断を経て、8月5日に再開したJ1リーグ。長谷川健太監督体制2年目で満を持してJ1タイトルを狙っている名古屋グランパスは東京・国立競技場でアルビレックス新潟を迎え撃った。
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J1国立最多観客となる5万7058人の大観衆が集結し、試合前には愛知県出身の俳優・松平健によるマツケンサンバの華々しいパフォーマンスが繰り広げられるなか、主役の座を奪ったのは、左ウイングバック(WB)森下龍矢だった。
迎えた前半14分。藤井陽也のパスをペナルティーエリアギリギリのところで受けた和泉竜司がドリブル突破し、マイナスのクロスをゴール前に送った。そこに飛び込んだのが森下。次の瞬間、右足を巧みに合わせて値千金の先制点をゲットした。
目の前には今季11ゴールのキャスパー・ユンカーがいたのだが、エースFWを押しのけて一足先にボールに触るという“前向きなエゴ”を強く押し出したのである。
「右サイドで崩してる時、左の前でずっと張ってるプレーって僕、全然良くなかったんで、どれだけ中に入って、ゴールに直接、関われるかっていうのを今日示せて良かった。シュートは正直、当たった感じ(笑)。当てたっていうよりは当たったのかなと。やっぱりゴール前にいることが大事だと思います」と背番号17を付ける男は満面の笑みを浮かべていた。
これが決勝点となり、チームも1-0で勝利したのだから、これ以上の喜びはなかったはずだ。
加えて言うと、同日の国立には日本代表の森保一監督も視察に訪れていた。森下の活躍について問われた指揮官は、「6月の代表招集がいい刺激になってくれていれば嬉しいが、変わったかはみなさんの判断なんで」と言葉を濁したが、長年左サイドバック(SB)を担ってきた長友佑都(FC東京)の後継者有力候補と位置づけているのは間違いないだろう。
そもそも森下は明治大学出身。長友の直系後輩で、栗田大輔監督からも「長友を目指せとハッパをかけ続けられてきた。「自分が代表の左SBを掴んでやるんだ」という意気込みは強かったに違いない。
伊東純也にぶち抜かれ「これはヤバい」と危機感、「点も取れるSB」を猛アピール
日本代表初参戦となった6月シリーズでは、最初の練習で伊東純也(ランス)にぶち抜かれ、「これはヤバい」と危機感を覚えたというが、初キャップのエルサルバドル戦(豊田)では驚異的な運動量と鋭いクロスを披露。2019年ユニバーシアードのチームメイトである三笘薫(ブライトン)や旗手怜央(セルティック)、上田綺世(フェイエノールト)らが周囲を取り巻いていたこともあり、非常にやりやすかったのだろうが、最初の国際舞台としては悪くない印象を残していた。
ただ、他の左SB候補である伊藤洋輝(シュツットガルト)や中山雄太(ハダ―スフィールド)は欧州組。Jリーグを主戦場とする森下はどうしても国際経験で見劣りする。そのマイナス面を自覚したうえで、それ以上のインパクトを残し続ける必要があるのだ。
今回の新潟戦の決勝ゴールは「点も取れるSB」であることを示す好機になったと言っていい。ユンカーから「我先に」とビッグチャンスを奪い取ってしまう鼻息の荒さも、今どきの大人しい若者とは一線を画している。そういった負けん気の強いマインドは、代表のような猛者の集団で生き残っていくうえで必要不可欠。明るさとコミュニケーション能力を含め、森下にはその資格が大いにありそうだ。
長友はかつて「コミュニケーションの世界大会があったら優勝できる」と自信満々に語ったことがあったが、森下も言語化能力はかなり高い。それは明大時代に損保業界を目指して就職活動した経験が大きかったようだが、やはり自らの意思を明確に伝えられる力というのはのし上がっていくためには欠かせない。
中村俊輔(横浜FCコーチ)、長谷部誠(フランクフルト)、本田圭佑、岡崎慎司(シント=トロイデン)といった日本の代々の看板選手たちを見ても、自分の意見を明確に口にできる面々だった。森下はそのストロングを存分に生かすべきなのだ。
攻守両面で頭脳もフル回転「ランニングはすごく考えてプレーしてます」
日本代表は9月にドイツ代表(ヴォルフスブルク)、トルコ代表(ゲンク)との2連戦を控えている。そのメンバーは月末に発表予定だが、森下はそこに名を連ねられるか否かの瀬戸際にいる。森保監督が「絶対に必要」と太鼓判を押すためにも、名古屋でフル稼働し、チームを首位に押し上げることが重要だ。
ここからの名古屋は鹿島アントラーズ、浦和レッズ、セレッソ大阪という難敵との対戦を控える。そこで取りこぼすことなく、確実にポイントを積み重ねていけば、ヴィッセル神戸、横浜F・マリノスをかわしてトップに立ち、そのまま13年ぶりのタイトル奪還という成功ロードを歩むことも可能だろう。
森下には左サイドで力強くチームを支える重責が託されている。
「これまではむやみやたらに走っていたんですけど、それだけでは正直、この日本の夏を乗り切れない。ランニングのところはすごく考えてプレーしてます」と本人も話したが、攻守両面で頭を使いながら賢く戦い、さらなる成長を遂げてほしいものである。
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。