愚直なまでに率直なモウリーニョ イングランド史上初の4冠の可能性を否定

イングランドで好まれるポルトガル人指揮官の発言

 

 モウリーニョのいう通り、このままチェルシーが国内カップ戦を勝ち進めば、年明けの1月は、リーグ戦4試合に加え、相手がプレミア所属クラブの強豪となる公算が高いリーグ杯準決勝2試合と、FA杯第3回戦、4回戦の2試合を戦わなければならず、合計8試合という超過密日程を押し付けられる。

 もしも本気で4冠を狙うなら、勝ち抜くごとに相手が強化される国内カップで、かなりの戦力をつぎ込むことになるだろう。けれどもここで主力を酷使すれば、欧州CLトーナメント・ステージに向けてのコンディションに不安が生じる。それに寒風吹きすさぶイングランドの1月、ピッチも悪化して怪我の心配も大きい。

 こんな厳しい1月を乗り切って、2月には冬期休暇を経てトーナメント・ステージに向けて体調を整えた欧州強豪チームとの対戦が待っているのだ。

 テレビ放映権料収入、それに賞金面でも、欧州CLは国内カップ戦の比ではない。それならやはり、指揮官としては、欧州戦を優先した選手起用をするのが定石だ。

 しかしそれでも、ここまで4冠制覇の可能性が残っていれば、大抵の監督が「困難だが全てを勝つつもりで戦う」と話すだろう。しかしモウリーニョは違う。

 率直に自分の思いを語るのだ。

 たぶん、ポルトガル人闘将のこういうところが、イングランドで受けるのだろう。イングランド・サッカーは一般大衆、いわゆる英国で“労働者階級”と呼ばれる人たちが支える国技だ。

 そのワーキングクラスは、この国でdown to earthと表現される、飾り気がなく、実直で率直な性格を何よりも好む。

 サー・アレックスも思ったことをストレートに口にする率直さがあった。たとえその意見が問題発言として扱われる可能性があったとしても、真っすぐ語り、世に問う姿勢があった。それが大衆に受けた。

 もちろん、ポルトガル人闘将がいうように、過密日程という敵がいるプレミア所属クラブにとって、4冠は不可能に近いのだろう。しかしそれを毅然と難しいという今季のモウリーニョの本音は、昨季無冠の無念を必ず晴らすというところにあるのはいうまでもない。

 可能性のある間は、「頑張る」と建前で語れば何も問題ないのに、できないことはできないと愚直なまでの率直さでいい放つ。その裏には、あえて国内カップを犠牲にしても、プレミアは絶対のこと、あわよくば欧州CLとの2冠を取るという、闘将モウリーニョの燃えるような思いが伝わってくるのである。

【了】

森昌利●文 text by Masatoshi Mori

ゲッティイメージズ●写真 photo by Getty Images

 

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