日本代表DF瀬古歩夢「あいつ…」 “嫌らしいFW”との対峙に好感触、欧州で「もっともっと成長したい」【現地発コラム】

今年3月にA代表デビューを飾った瀬古歩夢【写真:Getty Images】
今年3月にA代表デビューを飾った瀬古歩夢【写真:Getty Images】

グラスホッパーで存在感を発揮する瀬古、同僚に「戦えよ!」の熱いジェスチャー

 スイスリーグでは敵なしの存在でありたい。

 スイス1部グラスホッパーでプレーする日本代表DF瀬古歩夢はそんなことを言っていた。誰が相手でも、どんな状況でも、自分がいれば守り切ることができると言えるだけのプレーを目標にしている。

 それだけに守備陣にズレが生じて失点することをそう簡単に納得はできない。リーグ最終節のバーゼル戦(1-3)では前半相手の攻撃をほぼシャットアウト。チャンスらしいチャンスを与えずに試合を進めた。

「前半は正直何も怖くなくて。自分たちが待ち構えてるところに相手が入ってきてという形で前半はやりたいことができたかなと思ったんですけど。後半はちょっと暑さもあって前線がプレスに行けなくてちょっと外されて、その隙を突かれたっていう感じですね」

 この試合、後半開始早々にスルーパスで崩されて失点を喫している。そのシーンについて話を聞いている時、「あいつ、前半ずっと俺のほうにおったのに」と瀬古が口にした。

「あいつ」とは、バーゼルのスイス代表FWゼキ・アムドゥニだ。瀬古がスイスリーグで対戦した選手の中で能力の高さを認めるFWの1人。この試合では前半に瀬古のサイドでマッチアップする場面が多かったが、前半終盤から逆サイドに移動してプレー。ふらふらといろいろな場所に顔を出しながら、守備陣の間に生じるスペースにすっと顔を出す嫌らしい動きをするFWだ。

「そうなんですよね、嫌な位置を取ってくる選手っていうのはもう分かっていたので、自分もうしろから行くよっていう感じの素振りはずっと見せていた。(マークをしている時はアマドゥニに)ボールはほぼ出てこなかった。そのあたりは良かったかなと」

 身体の向き、裏スペースへのケア、相手マークとの距離に終始気を配りつつ、瀬古は的確なポジショニングを確保し、パスが出てきた時の対応もスムーズだ。マークした相手がそれを嫌がってほかのポジションへ移ったというのは、守備の選手からしたら1つの評価となるだろう。ただ、相手のポジション変更による変化に対応できるように、チーム内の連係もまた求められる。

 1失点後、勝ちにいくためにとジョルジョ・コンティーニ監督は攻撃的な布陣へと変更を決断。瀬古はポジションを1つ前に上げ、アンカーの位置に入った。今季途中に3試合連続アンカーで起用されている瀬古だが、この試合では周囲との守備バランスが上手く保てず、広大なスペースを1人で守らなければならない局面が多くあった。GKからのロングボールを瀬古が相手と競り合ったものの、そのこぼれ球にアプローチする味方が誰もいないまま相手にボールを運ばれ、そのまま失点となってしまった。

 2失点で意気消沈するチームメイトに対して、瀬古は熱さを失わない。後半25分すぎだった。バーゼルが素早いパスで攻撃を展開しようとするが、瀬古が1人猛ダッシュで相手3人に連続プレス。シュートまで持ち込まれたが最後まで食い下がる姿勢を見せたのだ。

 味方に対して大きなジェスチャーで叫びながら鼓舞する。「何やってんだよ! 戦えよ!」という確かなメッセージ。その声は仲間にも確かに届いたと思われる。終盤グラスホッパーはもう1度インテンシティーを高めて、1点を返すことに成功したのだから。

欧州で1シーズンを通してプレー、「守備の選手は経験を積めば味が出てくる」

 瀬古はリーグ戦31試合に出場。1シーズンを通して欧州でプレーしたのは今季が初めてだ。日本とは異なる環境、異なる相手、異なる戦い方。そんななかでコンスタントに出場機会を確保し、戦い抜いた経験は間違いなく貴重だろう。

「1シーズン初めて戦わせてもらって、海外の地で、日本と違うところで。アウェー戦だとブーイングがずっと飛んでいたり、いろんなサポーターがいたり。バーゼルのようなビッグクラブだと、FWに9番(アマドゥニ)みたいないい選手がいて。やっぱ身体能力が高い選手もいる。今日もサイドにめちゃめちゃ速い選手がいました。そういうやつらと一緒にサッカーできて、自分も成長できているなと思います。けど、もっともっと成長したいなっていうのは、自分自身この1年間通して思ったことです」

 自分が理想とする選手になるため、さらに成長するため、適応力と順応力を高めていくことが求められる。バーゼル戦では後半オープンな展開となり、中盤には広大なスペースができた。相手にスピードに乗ってドリブルされると対応は当然難しくなるが、それでも守り切れる選手になりたいと瀬古は話す。

「そのためには、できるだけこっち(欧州)で長く試合に出て経験を積むしかないと思っています。守備の選手は特に経験を積めば味が出てくるって言いますけど、そういうふうになっていけたらいいなと思っています」

 見据える先には確かな将来像がある。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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