森保監督は「4-1-4-1」呼びにこだわり? 「4-3-3」との区別、指揮官が求める要素は?

森保一監督はシステムを「4-1-4-1」と定義【写真:徳原隆元】
森保一監督はシステムを「4-1-4-1」と定義【写真:徳原隆元】

【識者コラム】サイドの久保と三笘をFWに組み入れるのか、MFとしてカウントするか

 現在、日本代表のポジションを書く場合の表記は人によって解釈が違い、揺れが生じている。どう表現すればいいのか、非常に迷う場面も多い。

 森保一監督は日本代表が使うシステムを「4-2-3-1または4-1-4-1」としている(実は報道機関によっては「システム表記は3列で」と決まっている会社もあり、どちらも「4-5-1」と表記している)。だが、メディアによっては「4-1-4-1」を「4-3-3」と呼ぶ場合もある。

 例えば、6月15日に行われたキリンチャレンジカップのエルサルバドル代表戦(6-0)のスタメンを「4-3-3」と「4-1-4-1」で表記するとこうなる。

【4-1-4-1】
上田     
三笘 旗手 堂安 久保
守田     
森下 谷口 板倉 菅原

【4-3-3】
三笘 上田 久保
旗手 堂安   
守田     
森下 谷口 板倉 菅原

 大きく違うのは久保建英と三笘薫の部分。この2人をFWに組み入れるのか、MFとしてカウントするのかで表記が違う。

「4-3-3」なら久保はFWだが、「4-1-4-1」だとするとMFとなる。右FWと言う場合も、右ウイングという表記もあるし、右アウトサイドハーフと呼称することもある。だが、ウイングやハーフ(バック)というのは、最初にその呼び名が使われた時のポジションの役割で考えると今は違ってきているので、果たして使うべきなのかという疑問も生じる。

 サッカー協会の関係者は、「そもそも、1人の選手が複数の役割を果たすようになっているので、呼び名そのものを決めるのが難しいのではないか」と指摘する。サイドに大きく張って縦に突破することもあれば、インサイドに入ってきてボールをつなぐことも、深い位置まで戻って守備をする場合もあるので、「森保一監督がメンバー発表の時に使うFP(フィールドプレーヤー)という呼び名が正しいのではないか」というのだ。

右ウイングで出場した久保建英【写真:徳原隆元】
右ウイングで出場した久保建英【写真:徳原隆元】

ウイングに相当するサイドの選手には守備への貢献も求める

 森保監督、あるいは日本代表チームの中ではどう考えられているのか。

 記者会見などで森保監督に「4-3-3の~」という質問が出た時、監督は最初相手に合わせて「4-3-3では~」と答えたり、質問者に合わせて「ウイング」と呼んだりするのだが、その後何度も「自分としては4-1-4-1」と語ってきた。

 つまり、森保監督の中では、明確に「4-1-4-1」と「4-3-3」は区別されている。その両者の違いはどう考えられているのか、チームの中ではどんな呼び方になっているのかという点について、チーム関係者や選手たちが発してきた断片的な声を集め、ここに整理しておく。

 まず、どうやら森保監督は「ウイング」という言葉に対する昔のイメージを避けたいと考えているようだ。最初に「ウイング」という言葉が使われた時、その役割を担う選手は「スパイクの裏がタッチラインの石灰で白くなる」と言われるほど外に張り付いて、FWとして常に縦の突破を狙い、クロスを供給することが求められた。

 だが、森保監督は久保や三笘、伊東純也らに「ウイング」のプレーだけを求めているわけではない。たしかに外国人選手相手にも個で突破はできるだろう。しかしもっと中にカットインしてくる動き、組み立てに参加するプレーなど多くの役割を要求している。

 さらに、「ウイング」というFWよりも、守備に対しての貢献も必要とされている。ボールロストし、サイドに展開された時にほかの選手たちと連係しながらボールを「狩り」に行く動きは森保ジャパンの中で重要だ。エルサルバドル戦で相手ボールになった瞬間、久保が鋭くチェイスした動きは「ウイング」ではない。

 つまり、FWよりもMFに役割が近い。そのため森保監督は「4-1-4-1」と表現しているようだ。

「インサイドハーフ」「アウトサイドハーフ」「ウイングハーフ」などの「ハーフ」はどうだろうか。「ハーフ」はもともと「ハーフバック」の省略形である。「フォワード」と「フルバック」の中間地点にいる選手のことが「ハーフバック」だったのだ。

チーム内では「インサイド」「アウトサイド」の表現を好み、指示には番号を使用

「フルバック」が奪ったボールをFWにつなぐ役が「ハーフ」だった。これも現在の多くの役割を担うMFの呼び方としては適切ではない。またMF両サイドを「ウイングハーフ」と呼ぶこともあったが、最初に「ウイングハーフ」という言葉が使われた時、役割は相手の「ウイング」を止めるという、守備に重点が置いていた。そのため「ウイングハーフ」というのも言葉としては違ってくるだろう。

 それでは、チームの中ではどう呼ばれているのだろうか。森保監督は「インサイド」「アウトサイド」という呼び方を好んでいるようだ。FWとMF、あるいはDFの役割まで担わなければならないということが理由だと思われる。

 さらに、中盤の選手にポジションを指示する時には「番号」を使っている。これは多くの選手がヨーロッパでプレーしており、そこではポジションを番号で呼ぶことが多いため、選手に分かりやすいようにと考えられている(なお、ポジションの番号はヨーロッパと南米では違うため、世界共通というわけではない)。

【日本式番号例:4-2-3-1】
9     
11 10 7
8(攻撃重点)
6(守備重点)
3 5 4 2
1    

【日本式番号例:4-1-4-1】
9  
11 10 8 7
6     
3 5 4 2
1   

 また、森保監督がエルサルバドル戦後の記者会見で「前半と後半ではシステムを変更したのか」という質問に対して、「選手の特徴が違うので、その特徴を出しながら戦っていく部分で前半と違った形に映ったのかと思っている」と答えたように、選手によって位置や役割はズレてくる。

 こうして考えると、その瞬間の選手の位置や見たものを伝える表現者によってポジションの書き方はどうしても変わってくる。しかし、試合を見ていない読者を想定して、ポジションのイメージも伝えなければいけない。

 ということで、今後自分の記事ではある程度の誤解が生じる危険性を認識しつつも、今後は「4-1-4-1」で「アウトサイドMF」「インサイドMF」を使っていきたいと思う。今後は表記が変わるが、どうかお許しいただきたい。

 蛇足ながら、省略形の「OMF」「IMF」は、「オフェンシブMF」や国際通貨基金と間違われることがあるので使用しない予定にしている。国際通貨基金はきっと出てこないけど。

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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