“今季前半のMVP級”伊藤涼太郎、わずかブレイク半年で欧州移籍の意味 5大リーグへのステップアップも近いか

シント=トロイデンへの移籍が決まった伊藤涼太郎【写真:徳原隆元】
シント=トロイデンへの移籍が決まった伊藤涼太郎【写真:徳原隆元】

【識者コラム】新潟の伊藤涼太郎、ベルギーのシント=トロイデンへ今夏の移籍決定

 伊藤涼太郎(アルビレックス新潟)のシント=トロイデン(ベルギー)への移籍が決まった。

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 伊藤が本格的にブレイクしたのは今季のJ1だから、ほぼシーズン半分の活躍で移籍が決まったわけだ。セルティック移籍の噂もあったが、アンジェ・ポステコグルー監督の退任(プレミアリーグのトッテナムの監督に就任するらしい)によって、日本人選手獲得路線が変更されるのかもしれない。

 シント=トロイデンも日本人選手が在籍している。シュミット・ダニエル、橋岡大樹、林大地、岡崎慎司の4人が所属。2017年に日本企業のDMMグループが経営権を握ってから、日本化が進んだ。これまでも冨安健洋(アーセナル)、遠藤航(シュツットガルト)、鎌田大地(フランクフルト)など、多くの日本人選手がプレーしてきた。

 ベルギーはフランス、オランダ、ドイツに近く、いち早くアフリカの選手を起用するなど開かれた先進性がある。リーグの規模はイングランド、スペイン、ドイツ、イタリア、フランスのいわゆる5大リーグには及ばないが、そこへの足掛かりとしてちょうど良い環境と言える。伊東純也(ヘンク→スタッド・ランス)、三笘薫(ロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズ→ブライトン/保有元へ復帰)もベルギーリーグからステップアップした。

 今季、J1での伊藤の活躍は目覚ましい。技術レベルとアイデアが素晴らしく、シーズン前半のMVP級だった。同様の活躍をベルギーリーグでも示せば、5大リーグへのステップアップもすぐかもしれない。それだけサイクルが早くなっているのだ。

 フランスの国立養成所のあるクレールファンテーヌを取材した時、建物の地下にある情報収集室を見せてもらったことがある。地下の倉庫のような場所の一角にテレビモニターとビデオデッキが設置されていて、担当者は1日中ここでビデオを見ながら情報収集を行っていた。スパイ映画にでも出てきそうな秘密の地下室はなんだか凄いとその時は思ったものだが、たぶん現在はもう存在しないか、あるとしてもかなりリニューアルされているはずだ。インターネットが発達したからである。

つながっているJリーグと世界、かつてなく広がる選手たちのチャンス

 現在はお金さえ払えば、ほぼ全世界の試合をネット経由で見ることができる。ユース年代の試合のデータもあり、選手ごとに閲覧することもできる。だから日本の高校生プレーヤーのことを欧州の誰かが知っていても全く不思議ではない。実際、スカウトやエージェントはそうした情報を共有している。

 かつて、ニューウェルスの監督だったマルセロ・ビエルサは選手たちに「こういう動きをしてほしい」とヤリ・リトマネンのビデオを見せたそうだ。アヤックスで活躍する前のフィンランド人を知る選手などもちろん誰もいなかった。マニアックなビエルサ監督らしいエピソードだが、これもビデオの時代の話である。現在は、世界のどこかに素晴らしいプレーをする選手がいれば、たちどころに世界中の関係者が知るところとなる。

 サッカーの巨大ビジネス化と情報伝達の加速によってサイクルは格段に早くなった。欧州とアジアと南米で、新しい戦術が同時発生的に生まれる現象も起きている。ピッチ状態もかつてほど差がなくなり、その国固有のスタイルや伝統もなくなりつつある。それは寂しいところもあるけれども、マネーをテコに動いていく世界では人種も国境も軽々と飛び越えていける。Jリーグは確実に世界とつながっていて、選手たちのチャンスはかつてなく広がってもいる。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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