鎌田大地、フランクフルト退団発表もブーイングが飛ばない理由 満員ファンの行動から見える“愛され度”【現地発コラム】

フランクフルトの鎌田大地【写真:Getty Images】
フランクフルトの鎌田大地【写真:Getty Images】

フランクフルトと契約延長しないと発表、直後の試合で鎌田大地へファンが見せた対応

 変わらぬ声援がそこにはあった。

 板倉滉がプレーするボルシアMGをフランクフルトがホームに迎えた一戦でのことだ。スタメン発表で選手の名前が次々に読み上げられていく。ファンからの熱のこもった返しが続く。そしてフランクフルトの背番号15、鎌田大地の番が来た。

 フランクフルトと契約延長しないことを表明したあとの試合だ。ファンはどんな反応をするのだろう? クラブを去る決断をした選手へ容赦のないブーイングを浴びせるのか。それとも……。

 スタジアムDJの「ダイチ!」の叫びに、ファンは「カマダ!!」と普段どおりのレスポンスを見せた。この日も満員に詰めかけたスタジアムからは、ためらいも戸惑いも憤りも感じさせない大きな声援があった。自分たちが愛するクラブのためにプレーする大事な選手というメッセージに感じさせる。

 SNSを覗けば不満を漏らすファンのコメントはある。批判的なことを書き込む人だっている。でも多くのファンは、鎌田がクラブのためにしてきたことを知っている。どれだけの喜びと熱狂をもたらしてくれたかを知っているのだ。

 鎌田本人も心に期するものが大きかったことだろう。ドイツ代表MFマリオ・ゲッツェが累積警告で出場停止となったボルシアMG戦(1-1)で、鎌田はフランス代表FWランダル・コロ・ムアニとコロンビア代表FWラファエル・ボレとともにオフェンシブトリオを構築し、精力的な動きを見せ続けた。前線からのプレスで相手からボールを奪取するシーンも少なくない。

 守備ライン裏へ飛び出してパスを引き出し、相手4バックと中盤ラインの間に入ってパスをもらおうとする。コロ・ムアニからの落としのパスをダイレクトでゴール前に送り、あと一歩でゴールのシーンも演出した。前半44分には鎌田からスイス代表MFジブリル・ソウ、そしてボレへとパスがつながり、右サイドに展開。シュートが最後ミートしなかったが、折り返しをコロ・ムアニがゴール前で合わせるビッグチャンスだった。

 後半に入ると、鎌田がボールを引き出す動きが増える。守備ラインからパスを受けると素早く鋭いパスで攻撃を牽引。キャプテンのMFセバスティアン・ローデ交代後は、ソウとダブルボランチに入り、よりゲームメイクに関わっていく。センターから左サイドへ正確なサイドチェンジを飛ばしたり、ダイレクトで見事なループパスを見せたりもした。

 後半13分には、ボルシアMGのフランス代表FWマルクス・テュラムへの鋭いチャージで相手を吹き飛ばしてボールを奪取。これにはスタジアムから鎌田へ大きな拍手が送られた。

長谷部から労いの言葉「いい形で終わらせてあげたいなと思います」

 素晴らしかったのは後半30分のパスだ。右サイド寄りでボールを受けた鎌田が、タイミング・スピード・コースがすべて揃った見事なスルーパスをDFオーレリオ・ブタへ通したのだ。

 フリーで抜け出したブタは、ゴール前のコロ・ムアニにパスを通し、ダイレクトで放たれたシュートはGKを突破してゴール方向へ転がっていく。入ったと思われたボールだが、左ポストの内側に当たって跳ね返り、これをさらに途中出場のMFエリック・ジュニオール・ディナ=エビンベがシュートを狙ったが、相手DFがブロック。得点し切れなかったのは痛かったが、相手守備がどうにも対応できないところへパスを送るという鎌田のクオリティーの高さを感じさせたシーンだった。

 後半31分にFWルーカス・アラーリオと交代でピッチを去るまで、鎌田は自分にできることをすべて出そうと戦っていた。そんな鎌田の姿に、フランクフルトの同僚MF長谷部誠も試合後に労いの言葉を口にしていた。

「流れ的には(退団するという)そういう感じは、もうだいぶ前から感じてはいたんですけど。彼もね、ここで5年ですかね。1年レンタルで行っていたので。5年か。すごくチームのためにいいゴールも、いいアシストもやってくれたと思うので。残りのリーグ戦とカップ戦でね、いい形で終わらせてあげたいなと思います。大地もそうだし、いなくなる選手も何人かいると思うので、そうした選手たちをいい形で送り出したいなと思います」

 いい形で終わるためにも、シーズンラストスパートで鎌田の活躍は欠かせない。オリバー・グラスナー監督が鎌田について次のように話していたことがある。

「ダイチがチームを助けてくれることは分かっている。チームを勝利に導ける資質があることを見せてくれている。チームのためにとても勤勉にプレーしてくれているんだ」

 ここからは1つ1つのゴールが貴重になってくる。1つ1つの勝ち点が大きな意味を持つようになる。試合内容は悪くないだけに、試合を決定付けるプレーが攻守に必要なのは間違いない。「チームを勝利に導ける資質を持った選手」として、鎌田にはフランクフルトを欧州の舞台へ導いて、有終の美を飾ってほしい。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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