吉田麻也の戻る場所を作っておいた? 森保監督が6月シリーズでベテランを呼ぶべき理由
【識者コラム】3月シリーズは戦術変更のスムーズさに欠けた印象
第2次森保ジャパンは大幅に若返ってスタートした。2022年のカタール・ワールドカップ(W杯)の平均年齢が27.8歳だったのに対し、今回招集されたメンバーは24.5歳。2018年のロシアW杯のあとは28.3歳から25.3歳と一気に3歳引き下げたが、今回はそれよりも下がっている。
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2018年の第1次森保ジャパン初招集の時の最年長は、1986年生まれで32歳の青山敏弘だった。そして、2022年のカタールW杯のフィールドプレーヤー最年長は1986年生まれの長友佑都。森保一監督は、最初の招集の時から本大会に臨むチームの一番上の世代を想定してチーム構成していたはずだ。
今回のフィールドプレーヤー最年長は、1993年生まれの遠藤航と伊東純也。現時点での最年長は30歳と、この上限に思われる年齢も引き下げられた。
だが、もう30歳より上のベテランは必要ないのだろうか。例えば、1988年生まれの吉田麻也は、日本代表メンバーに入れなくてもいいのか。3月の日本代表を見ていると、森保監督に再考を促したくなる。
なぜまだベテランが必要かという理由は3つだ。
まず、戦術変更のスムーズさを確保するため。3月28日のコロンビア戦(1-2)では吉田が担ってきた役割の選手がいないために混乱が生じた。
これまで森保監督は吉田に戦術を伝え、吉田がそれをチームに広めていた。ハーフタイムに吉田と監督が話をしながらロッカールームに引き上げていく姿はたびたび目撃されており、試合中の戦術変更なども吉田を経由していた。
その選手がいなくなったことが、今回メモでシステム変更を伝えなければいけないという事態に結び付いた。監督の指示を受け、ピッチの中の状況を考慮しつつ、スムーズにシステム移行していくためには、試合前に監督との十分なコミュニケーションができている選手が必要になる。現在のチームにはまだその役をできる選手がいないということだろう。役割を移行していくための時間は必要だ。
アクシデント対応、経験の若い選手を早く馴染ませるためにベテランは必要
2つ目の理由は、アクシデントへの対応に必要なため。コロンビア戦の失点はバングーナガンデ佳史扶の負傷がきっかけとなった。森保監督は左サイドバック(SB)を交代させるのに、センターバック(CB)を左にコンバートするか、代わりの左SBを投入するかの選択を迫られた。
ここでピッチ内からの要望が監督に伝われば良かった。実際にプレーしている選手がどう解決すべきか判断できるようになっていなければ、刻々と変わる状況には対応できない。その選手の意向がどうなのかも監督の判断材料としては必要だ。
森保監督はロシアW杯の反省を踏まえて、ベンチの指示を待たずに選手が判断できる、自立したチームを作り上げようとしていた。そしてピッチ内の以降をくみ取り、生かしていた。
そのために経験豊富な選手たちが役立っていたのだ。現時点では新チームがまだ自立という段階には達していないのは当然だろう。だから現時点では対応の引き出しを多く持つベテランを入れておいたほうがいい。
最後の理由は、初招集の選手、代表経験の浅い選手を早く馴染ませるためだ。
3月の日本代表活動では、これまでの代表チームの雰囲気と大きな違いがあった。静かなのだ。長友佑都のからかう声も吉田麻也の笑い声もない。そして長友や吉田に引きずられるように声を出し合う選手もいない。
Jリーグが始まる前の時代、日本代表に初めて呼ばれた選手は先輩たちに挨拶に行っても無視されたという。お互いがライバルという存在だからだ。だが、最近の日本代表は違っていた。特に長友が若手に自分から声をかけ、代表の雰囲気に馴染ませようとしていた。
カタールW杯のとき、中山雄太の負傷で急きょ加わった町野修斗は緊張した面持ちでピッチに現れた。そこに早速長友が声を掛ける。「鳥カゴ」のトレーニングの間中、「この雰囲気に慣れろ!」「この緊張感に慣れろ!」と大声で町野をイジリながら雰囲気を作っていた。
2014年の天皇杯決勝では横浜FMの40歳DFドゥトラに屈して優勝を逃した経験
今回の練習取材中、そんな場面は見受けられなかった。もちろん賑やかな雰囲気だけがいいとは思わない。短期間の合宿なら、ずっとピリピリした空気を保つのもいいだろう。だが、新しい選手を急いでチームに取り込んでいくためには、やはりベテランの気遣いが必要になる。
ここまでベテランを招集したほうがいいという理由を3点挙げたが、ずっと呼び続けるべきだということではない。2026年アメリカ・カナダ・メキシコW杯でベテラン勢が活躍できるかどうかは分からない。移動が多い分、今回のW杯に比べると肉体的な負担は多くなるので、若い選手のほうがいいかもしれない。
だが、現時点ではチームのスムーズな移行のためにベテランは必要だろう。森保監督も実はベテランを呼ぶかどうか迷っていて、今回はキャプテンを決められなかったのではないだろうか。吉田が戻る場所を作っておいた気もする。
次回の日本代表活動は6月、ヨーロッパ組はリーグ戦を終えている。代表戦の直後に急いでヨーロッパに戻り試合をする心配はしなくていい。その分、肉体的な負担は減るだろう。となると、6月はベテランを呼ぶのにちょうどいい。
そして、もしかしたらプレー面でもベテランは大いに役に立つかもしれないのだ。森保監督にもベテランが活躍する記憶が残っているだろう。サンフレッチェ広島を率いて戦った2014年1月1日の天皇杯決勝、対戦した横浜F・マリノスには40歳の左SB、ドゥトラがいて活躍し、優勝をさらわれたのだから。
森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。