森保ジャパンの「志は良い」 ブラジルの技術に翻弄も…“無力”ではなかったW杯仕様のプレースタイル
【識者コラム】「これで行くぞ」という意志は感じられた“王国”との一戦
ブラジル代表との親善試合は、ワールドカップ(W杯)での日本代表がどういうプレーをしようとしているかが表れていたと思う。
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ざっくり言えば、志の高いプレースタイルだった。これがカタールW杯でのドイツ代表戦、スペイン代表戦に吉と出るかどうかは分からないが、これで行くぞという意志は感じられた。具体的には敵陣の高い位置からのプレッシングと、自陣深くからのビルドアップ。この2つを安易に放棄しない戦い方である。
ヨーロッパの中堅国でもこれに関しては濃淡があって、強豪国に対してもハイプレスとビルドアップを諦めない姿勢のチームもあれば、最初からハイプレスもビルドアップも諦めて「バスを置く」戦法を採る国もある。意志はあっても、強豪国と同じようなスタイルで挑んだところで結局は押し込まれるというケースもある。
どれが正解というものではなく、相手との力関係や選手の特徴によって正解は変わってくるが、一般論で言えばハイプレスとビルドアップを放棄してしまうと強豪国に押し込まれっぱなしになるので勝つのはかなり難しくなる。
ブラジル戦での日本のハイプレスはそれなりの効果はあった。なかなか高い位置で奪うことはできなかったが、ロングボールを蹴らせて回収という流れを作るところまではできていたので無力ではなかった。ただ、90分間ハイプレスはできない。ボールを持たれた時にはミドルゾーンでのプレスに切り替えるわけだが、ブラジルの技術が高くて奪えず、結果的には押し込まれる時間が長くなった。
パスワークにミスがなく、次々にアイデアが湧いてくるようなブラジルの攻め込みは圧巻だった。PKの1失点で済んだのは運が良かったとも言えるが、最少失点に抑えたのだから守備はかなり頑張れることを示せた。
とはいえ、耐えるばかりではさすがに厳しい。自分たちのボールになった時はキープして押し返す時間が必要だ。ロシアW杯ではベルギー代表を相手にそれができずに防戦一方となり、2-0から逆転されてしまったのは苦い思い出である。
ブラジル戦では自陣からパスをつないで押し返す意志を見せていて、ある程度はできていた。ただし、相手のプレスでボールを失うこともあり、その1つがショートカウンターからのPKになっている。W杯の初戦で当たるドイツのハイプレスはブラジル以上に厳しい。そこにすべてを賭けているぐらいに重きを置いているので、ブラジル戦のように頑張ってつなごうとすることが裏目に出る危険もある。ビルドアップの精度を上げる方向はいいが、ドイツ戦に関しては見切りも必要だろう。
残念なのは強豪国との対戦がブラジルで終わりになってしまうかもしれないことだ。9月に2試合が予定されているので、そこに望みはあるが、ブラジルとの1試合だけでは戦い方の現実的なラインをどこに設定するか判断するのは難しそうだ。フランス代表でもスペインからハイプレスでは奪えない前提の戦い方をしていた。ヨーロッパ中堅国の多くが理由もなくベタ引きを選択しているわけではないのだ。志は良い。できれば、当たって砕けろからもう一歩踏み込みたいのだが、それはマッチメイク次第になりそうだ。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。