中国サッカー界に欠け落ちた発想 なぜエリート教育は通用しないのか――足りない“遊びの時間”

自主的にメニューを選択してトレーニング「言われてやるより2倍3倍伸びるんです」

 Jリーグ創設前の日本は、明らかに中国にも遅れを取っていた。1988年ソウル五輪最終予選では、防戦一方のアウェーで勝利しながら、ホームの国立競技場で引っ繰り返された。しかしプロの時代が近づくと、92年ダイナスティカップ(東アジアカップ)でハンス・オフト率いる日本代表が中国を破り、それからは徐々に力の差を広げていった。

 日本もアマチュア時代は長時間の詰め込み練習が主流で、朝練に始まりサッカー漬けの日々を送るチームが高校選手権に勝てば、多くのチームが後に続いた。それは選手たちにとって苦行でしかなく、いつ終わるか分からないトレーニングに耐え抜くためにはインテンシティーを抑制した。好きで始めたサッカーなのに、練習が休みになれば選手たちは快哉を叫んだ。

 だが一方で選手主体の部活動を続けている堀越高校の卒業生から、こんな話を聞いた。

「3年間本当に楽しいことがいっぱいあったので、最後の選手権で負けた時は、これで終わってしまうことが悲しかった」

 では何が一番楽しかったのか、という問いに彼は、こう答えた。

「毎日の練習です」

 堀越では個々が課題を考え、自主的にメニューも選択して前向きにトレーニングに臨む。「楽しい」は、そのまま「充実」に置き換えることができる。

 広島観音高校監督時代に、選手主体のボトムアップ方式を考案した畑喜美夫氏も言う。

「自分で気づいてトレーニングに取り組むと、人から言われてやるより2倍3倍伸びるんです」

 まだ日本でも少数派だが、中国サッカー界には欠け落ちた発想だと思う。

(加部 究 / Kiwamu Kabe)



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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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