マンチェスター・Uの開幕戦に見るファンハールの哲学崩壊とモイーズテイスト復活の足音

崩壊したアイデンティティー

 プレミアリーグは他国のリーグと比べ、強豪以外もジャイアント・キリングを起こせる力を備えているチームが多数存在する過酷なリーグだ。百戦錬磨のファン・ハールと言えど、プレミアリーグにおいては新人監督である。開幕戦を落とした結果に関しては、それほど大騒ぎすることではなく、全く予想していなかった展開でもない。

 しかし、結果以上に重要なポイントが存在した。自身のフットボールに誇りを持っているファン・ハ―ルが、ほぼ戦力外と見なしていたはずのベルギー代表MFマルアン・フェライニを途中から投入したことだ。そこで、前デイビッド・モイーズ政権さながらの「放り込みサッカー」を展開した点にある。結果論だが、フェライニを前線に置いたパワープレーは全く攻撃の形をつくれず、ファンハ―ルの目指すピッチをワイドに使った連動性豊かなトータルフットボールは影を潜めた。

 クラブ側は、ファン・ハールに前モイーズ政権の色を拭い去ることを期待していた。昨年リーグ7位に終わり、迷走したモイーズ前政権のロングボール主体のフィジカルサッカーからの脱却。それが、確固たるサッカー哲学を持ったファン・ハ―ルを新監督に迎えた一番の理由だったはずだ。しかし、ビハインドを背負っていたとはいえ、アイデンティティーを放棄し、昨季と同じモイーズサッカーを選択してしまったのは目に見える敗戦よりも、深刻な兆候であるように思えてなら ない。

 1972年以来となるホーム開幕戦敗北という厳しい現実に直面したファンハール監督は試合後、「準備期間で全勝し、公式戦初戦で負けてしまうのは最悪な事態だ。われわれは大きな自信を築いてきた。だが、これによりぶち壊されてしまった」と落胆を隠そうとしなかった。昨年の不振で今季欧州のカップ戦に参加する権利を失ってしまったチームに、緻密な戦術と、勝者のメンタリティを回復させてきたはずだった。だが、この一戦でそのすべてが台無しになってしまった。

 そんな重要な初戦で香川真司は、ベンチを温めることとなったが、後半4-2-3-1システムにシフトしたことでチームの攻撃は活性化した。後半のシステム変更は、香川にとっては良い兆候だと言えるだろう。2列目のポジションが増えれば、出場機会が増加する可能性は高い。

 欧州CL圏内である4位の椅子に座るためには、守備面の改善が避けては通れない道だろう。スポルティング・リスボンからアルゼンチン代表DFマルコス・ロホを緊急補強したが、現在の守備陣の個々の能力不足も問題だが、フィールドプレーヤー全員のプレッシングなど守備意識の向上にも着手しなければならない。

 順風満帆だったプレシーズンから一転、激しい荒波に直面することとなった。ファンハ―ルは、「The Red Devils」が今季のプレミアリーグを勝ち抜くための大航海を支えるコンパスを求めている。

【了】

サッカーマガジンゾーンウェブ編集部●文 text by Soccer Magazine ZONE

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