中京大中京の監督と主将の絆が紡いだ10分間 高校サッカーに磨かれた“誇りと財産”

信頼を寄せ合う師と教え子

 同校の岡山監督は、J1の名古屋などでプレーした元Jリーガーだ。その経験を踏まえれば、大会1カ月前にハムストリングを肉離れし、ほぼ出場が難しくなることは分かり切っていた。実際に「出られたことが奇跡に近い。プロ選手だったら、絶対にやりません」と話した。
「石川が今日プレーしたことが、高校サッカーの象徴です。強い精神力があれば、けがも乗り越えられる。最後に懸ける思いが回復力を出して、最後にピッチに立てた。信じる者が良い経験ができて、愚直にサッカーに取り組めるのが、Jクラブと少し違うところ。純粋にサッカーを楽しんでやっていくということです」
 そして、「高校サッカーは美しい」と語り、Jリーグの下部組織との違いを話し始めた。
「83名いて、上から5、6人はプロサッカー選手を目指しますが、それ以外の子は大学に行って、社会に出て行くことになる。僕自身はサッカーを通じて、社会に出た時の頑張り方を伝えたい。プロを目指さない83番目の子にも、いい思い出を作ってあげたい。常々そう思っています。プロサッカー選手を何人も育てたらいい指導者かもしれないけど、試合に出なかった残りのメンバーが、『岡山の元でやって良かった』と思える子を育てるのも良い指導者です。どちらかと言えば、それが高校サッカーだと思う。プロを育てたいなら、Jクラブで指導すればいい。高校サッカーで指導をするなら、そういうことを伝えたい」
 プロサッカーの世界で喜びも苦しさも味わってきた岡山監督だからこそ、高校サッカーという違うカテゴリーで伝えられることがある。3年間の高校生活で熱い思いを受け止めて続けてきた石川の言葉は、強い絆を感じさせるものだった。
「ピッチに入る時に、『もう、肉離れしてもいい。おまえの高校サッカーはこれで終わりだから、後悔のないようにやってこい』と言われました。この3年間を岡山監督にささげてきて、その監督にそう言ってもらえたのは、そこで涙が出そうなくらいうれしかった。最後の最後まで自分らしくやり切れて、後悔のない高校サッカーでした」
 プロ予備軍としてのJリーグ下部組織とは違い、普段も生活を共にして、体当たりで生徒たちと向き合う高校サッカー。その監督と選手との絆は、強く、堅く、そして美しい。
【了】
轡田哲朗●文 text by Tetsuro Kutsuwada
ゲッティイメージズ●写真 photo by Getty Images

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