強豪校DFが総合格闘技の道へ「サッカーは高校までと決めていた」 離脱期間で再確認「人生は1度きり」

前橋育英の市川劉星【写真:FOOTBALL ZONE編集部】
前橋育英の市川劉星【写真:FOOTBALL ZONE編集部】

前橋育英3年DF市川劉星…自らセレクションに申し込んで群馬へ

 第104回全国高校サッカー選手権の都道府県予選も佳境に入り、各地では代表校が決まり始めている。ここでは全国各地で繰り広げられている激戦の主役たちのエピソード、プレーなどをより細かくお届けしていきたい。

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 今回は群馬県決勝の前橋育英vs前橋商業の伝統の「群馬クラシコ」から。前年度選手権王者は、伝統校の前橋商業の全員守備、全員攻撃に手を焼くも、前半に挙げたMF柴野快仁(FC今治内定)のゴールを守り抜いて5年連続28回目の出場を決めた。

 名古屋グランパス内定のDF久保遥夢と不動のCBコンビを組むDF市川劉星は、卒業後にサッカーとは別の道を進む。彼が下した決断の裏側と高校までとなるサッカーに対する思いとは――。

 184センチのサイズと屈強なフィジカル。ボール奪取力と圧倒的な空中戦の強さを誇り、左足から放たれるフィードも質、強度ともに非常に高い。何より相手を制圧するという雰囲気を醸し出すCBで、その佇まいは鹿島アントラーズの植田直通を彷彿させるし、実際に彼の高校時代と雰囲気はかなり似ている。

「1、2年までトップには最初の方しか絡めず、昨年は左足の第5中足骨を骨折して半年間離脱して、復帰は10月になって、ずっとCチームの県リーグに出場をしていました。選手権優勝はスタンドから見ていて、もちろん嬉しかったのですが、やっぱり悔しかった。今年は自分たちの代だし、右CBには遥夢がいるけど、左CBは3年生が卒業して、左利きのCBは僕しかいなかったのでチャンスだと思いました。絶対にレギュラーを取るという気持ちで今年に臨みました」

 選手権優勝メンバーの多くが2年生だったが、左CBのポジションは序列的に彼が最も有力だった。努力の甲斐もあり、プレミアリーグEAST開幕からスタメンの座を掴み、守備の要となっている。

 今予選でも久保とともに強固な守備を構築し、前橋商とのファイナルでも空中戦を制し、鋭い出足のボール奪取と身体を張ったシュートブロック、この1年で成長したカバーリングを見せて1-0の完封勝利に貢献をした。

「昨年ずっとスタンドから見ていた分、ピッチの上で勝利に貢献できるのは嬉しい。次はいよいよ夢に見た選手権の舞台なので、チームの勝利のために身体を張って貢献したい」

 彼にとって選手権が高校最後ではなく、サッカー選手として最後の大会となる。高校を卒業したら総合格闘技の道に進むことを決めている。

「もともと格闘技が大好きで、RIZINなどをよく見ていました。もし前橋育英に入学することができなかったら、サッカーを辞めて地元の普通の高校に進んで、ジムに入って総合格闘技をやろうと思っていました」

 大阪出身の市川は中学時代、「パスで丁寧につなぎながらも、ロングボールを効果的に使うサッカーに凄く感銘を受けた」と、前橋育英のサッカーに魅了されて目指すようになった。当時からサイズがあり、フィジカルレベルが高かった故に、関西、中国地方の強豪校からオファーが殺到した。

 前橋育英からのオファーはなかったが、自らセレクションに申し込んで群馬へ。「挑むことが大事だと思っていたので、ダメだったら後悔なくサッカーを辞められたと思う」と不合格だったら全てのオファーを断るつもりだったが、2度の練習参加の末に入学を勝ち取ることができた。

「最初からサッカーは高校までと決めていた」と口にしたように、3年間を全力で駆け抜けた。サッカーが楽しくて、一度はサッカーを続けるか考えた時期もあったが、昨年の怪我での離脱期間で自分を見つめ直したとき、やはり揺るがない思いを再確認した。

「あの時期に『将来自分はどうありたいのか』を真剣に考えたときに、やっぱり格闘技への思いが強くて、『人生は1回きりなのでチャレンジをしたい』と総合格闘技への道に進みたいと思いました」

 この時間で格闘家への道はどういうものがあるのかも調べられた。大学は進学する予定で、大学に通いながら格闘技ジムに通うことを決めた。今年に入り、東京の総合格闘技ジムであり、朝倉未来らが所属をするJTT(JAPAN TOP TEAM)に入門することを決めた。

「選手権も一度きり。全力で仲間のために戦いたいし、みんなに恩返しをして次の道に進みたいです」

 ただ全力でやり切るのみ。道を変えても応援してもらえる選手になるために、憧れのタイガーユニフォームを身に纏って、チームのために全身全霊でプレーして有終の美を飾ろうとしている。

(安藤隆人 / Takahito Ando)

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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。

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