友人が何人も「叩かれてるけど大丈夫?」 SNSでトレンド入りも…岩政監督がブレなかった理由

札幌を率いる岩政大樹監督【写真:元川悦子】
札幌を率いる岩政大樹監督【写真:元川悦子】

今季から就任した札幌の岩政大樹監督

 7月12日の第23節のあと、3週間の中断期間に入っている2025年J2。現時点での順位をおさらいすると、15試合無敗の水戸ホーリーホックが勝ち点48でトップに立っており、開幕からスタートダッシュに成功したジェフユナイテッド千葉が同41位で2位。昨季J2昇格プレーオフ決勝まで勝ち上がったベガルタ仙台が千葉と同勝ち点ながら得失点差で下回る3位につけている。

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 2024年J1で下位に沈み、降格したサガン鳥栖、ジュビロ磐田、北海道コンサドーレ札幌はいずれも苦戦を強いられているが、今季一度もJ1昇格プレーオフ圏内に入ったことのない札幌に関しては、今後の巻き返しが強く求められる状況だ。

 そこで今回、岩政大樹監督にインタビューを実施。ここまでの戦いを振り返るとともに、今後の展望、指揮官としての矜持やホームタウン・北海道への思いなどを赤裸々に存分に語っていただいた。(取材・文=元川悦子/全7回の1回目)

   ◇   ◇   ◇

 23試合終了時点で勝ち点31の11位。プレーオフ圏内の6位・徳島ヴォルティスとの勝ち点差は7。これが、札幌の現在地だ。その立ち位置ついて岩政監督にストレートに問うと、意外にもこんな回答が返ってきた。

「正直言って、プレーオフ圏内との勝ち点差を今、知りました」

 その真意はどういうことなのか……。

「リーグ戦はだいたい毎年、順位と勝ち点が決まっているじゃないですか。優勝勝ち点、プレーオフなどの目安はいつも同じ。だから僕が重視しているのは、チームとしての勝ち点ペース。他のチームは本当に関係ないんですよ。それが自分のやり方です。

 ご存知の通り、今季J2を見ると、新シーズンに向けて指揮官交代のあったチームが少なかった。そういう中、自分は就任1年目の新監督だったわけですから、前半戦が苦しい戦いになるのはある程度、想定していました。新監督の僕にメリットがあるとしたら、戦いながらプラスアルファがどんどん作られていくこと。ベースを作りながら後半戦に大きな波を作る形は、新監督ならみんな同じだと思いますが、僕も最初からの構想でした。

 僕も人間なので、シーズン頭から素晴らしいスタートを切って、後半にも大きな波を作って、独走する形が理想でしたよ。でも、現実はそんなに甘くない。開幕4連敗というスタートはかなり厳しかったのは事実です。それでも後半に大きな波を作るという目標自体は全く変わっていない。

 6月の中断明けからの5試合で勝ち点10を取れたんですけど、これがずっと選手たちに伝えている『試合数×2』の勝ち点。このペースでこの先も戦えれば、昇格も見えてくるでしょう。後半戦に大型連勝を作って、できるだけ上の順位に辿り着き、J1昇格を果たすという道筋はまだ十分、可能性があると考えています」

 彼が右肩上がりの軌跡をイメージするのは、自身が鹿島アントラーズの若手だった2007年のJ1逆転優勝の経験があるからだろう。

 同年の鹿島はオズワルド・オリヴェイラ監督体制1年目。開幕直後は5戦未勝利でJ2降格圏に沈んでいた。そこから徐々に巻き返し、小笠原満男(鹿島アカデミー・テクニカル・アドバイザー)がイタリアから復帰した夏以降は4連勝と9連勝を2度達成。最終的にライバル・浦和レッズをかわしてタイトルを手にしたのである。

「当時を思い返してもそうなんですけど、ギアを上げるのは結果しかない。そのためのチーム作りをしてきたつもりです。強がりを込めて言うと、『やるべきことをやるべき順番で進めてきた前半戦』だと自己分析している。その先に大型連勝ができるベースはできたと見ています。実際、僕自身は『あの時にああしておけばよかった』という後悔はあまりないですね」

温かかったコンサドーレサポーター「前向きに仕事に取り組めました」

 とはいえ、ここまでの成績は納得できるものではなかっただろう。キャンプ時の「圧倒するサッカーを目指す」という発言とはかけ離れた序盤になったことも災いし、黒星先行の2~4月はSNS上で「岩政監督」「コンサドーレ」がほぼ毎試合後にトレンド入り。批判の矢面に立たされたのだ。

「それだけ注目していただけるのは有難い話ですね。僕はSNSを見ないんですけど、4連敗した時、『お前、ものすごく叩かれているけど、大丈夫』と友達が何人も連絡してきて、初めてそのことを知りました。

 だけど、北海道にいて、そこまでの批判や風当たりは感じたことはなかった。『一緒に頑張ろう』と背中を押してくれる人が多くて、すごく励まされたし、力をもらいました。コンサドーレのサポーターは温かいなとも思った。自分は前向きに仕事に取り組めました。

『圧倒するサッカーを目指す』という言葉にしても、鬼木(達=鹿島監督)さんをはじめとした他の監督さんも言っていること。監督はそれぞれ理想のサッカーを掲げて、それをどう体現していくかということにトライしているわけです。

 言葉を切り取りたい人がいるのも分かりますけど、自分は相手をどんどん押し込んでアグレッシブに前進していくフットボールを目指している。それが『圧倒する』という言葉の意味ですし、そこに向かって突き進んでいくだけだと割り切っています」

 雑音に囚われることなく、日々、選手たちと向き合い続けてきたことを明かした岩政監督。2018~2024年までの7シーズンをペトロヴィッチ監督が率い、最高峰リーグで戦い続けてきたチームを改革するというのは、傍目から見るほど簡単ではない。そういう現実も彼自身、よく理解していたから、落ち着いていられたところもあるのだろう。開幕4連敗という苦境を真摯に受け止め、岩政監督の本格的なアプローチが始まったのである。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)



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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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