町田の「蹴るサッカー」はネガティブではない “色気を出さない”がゆえの「無駄」の徹底削除【前園真聖コラム】

現在首位を走る町田【写真:徳原隆元】
現在首位を走る町田【写真:徳原隆元】

黒田監督が規律を徹底

 J1リーグも折り返しを迎えようとしている現在、首位をひた走っているのはFC町田ゼルビアだ。J2から昇格したばかりのチームが現在までの好成績を残していることに加え、その勝負に徹したサッカーのスタイル、そして指揮官の強気の発言など、町田は今のJリーグの話題の中心の1つといっていいだろう。その町田を元日本代表MF前園真聖氏はどう思って見ているのか。黒田剛監督の発言などについても聞いた。(取材・構成=森雅史)

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 J1リーグの首位を、昇格したばかりの町田ゼルビアがひた走っています。6月15日のJ1リーグ第18節で横浜F・マリノス戦に3-1で勝利を収め、2位の鹿島アントラーズとの勝ち点差を2に広げました。3位ガンバ大阪とは勝ち点差4あるので、1回の敗戦では2位までとなるACLエリート(AFCチャンピオンズリーグ)圏から落ちることはありません。

 ただ、その町田のサッカーについてはいろいろな意見があるようです。「ロングボールを多用する」「ロングスローを使う」「ファウルがひどい」「時間稼ぎをよくする」などが目に付きます。また、黒田剛監督のいろいろな発言が取り上げられることもあるようです。

 まず町田のサッカーについて、僕は「蹴るサッカー」というネガティブな感じを持っていません。むしろ「非常のよく整理されている」と見ています。「無駄なことをしない」「縦に速い」そして「やることがハッキリしているので選手に迷いがない」と思います。

 選手は1本でも2本でも、縦にパスが入れられるのなら積極的に出していこうという指導をされていることでしょう。サッカーで最も大切な、常にゴールに向かう姿勢というのを貫いています。そこにトランジションの速さと豊富な運動量が加わって、町田の強さが形成されています。

 逆に言えば、ほかのJリーグのチームはそれだけ無駄な横パスをしているということです。それに対して町田はなんの色気も出さない。単純に前線の藤尾翔太やオ・セフンを狙ったボールを入れ、サイドからは平河悠がゴールに向かって切り込んでいく。J1ではあまり用いられていなかったロングスローも効果的に使っています。シンプルにやるべきことをやっている。黒田監督がそこにしっかりと規律を徹底させて結果を出しています。

結果を出している人の発言には「何も言えない」

 その黒田監督の発言は、時おり強い言葉を使うことで「炎上」しているようですが、正直に言うと、僕は「今は何を言ってもいい」と思っています。

 黒田監督の発言がそれだけハレーションを起こすのは、注目を集めているからです。実際、高校の指導者から転身すると1年目でチームを昇格させ、2年目はトップリーグで首位を走っているのですから、関心を持たれないほうがおかしいでしょう。

 それだけ他のチームよりも取り上げる話題が多いということですし、それはプロとして重要なことです。もしも町田が下位に沈んでいたら、取り上げられたり反感を持たれたりすることは少ないと思います。

 そして自信を持っている人が何か発言すれば、その強い気持ちが強気だと取られる言葉になって表れるものです。何より、プロの世界なら結果を出している人の発言には何も言えないのです。

 それに、もしかすると町田はこの逆境を活力にするというチームマネジメントなのかもしれません。U-23日本代表や各国代表チームに選手を取られていてもチーム力があまり落ちたように思えないのは、選手の反発心を上手く引き出しているからではないかという気もします。

 筑波大学に敗戦した後の横浜FMとのリーグ戦では、負傷者が出ていたりU-23代表選手が海外からの遠征から戻ってきたばかりという難しい状況のなかで、黒田監督もチームも試合に集中し勝利しているのです。

 町田のような勝利へのこだわりを前面に押し出してくるようなチームは、Jリーグの中では非常に珍しいと思います。それだけに町田が勝つことはリーグ全体が盛り上がっていいと思いますし、プロリーグとしてはこの町田の勢いをそのままリーグの発展に使ってほしいものです。そして僕はこのまま町田がどこまで行ってくれるのか、楽しみに見守りたいと思います。

(前園真聖 / Maezono Masakiyo)



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前園真聖

まえぞの・まさきよ/1973年生まれ、鹿児島県出身。92年に鹿児島実業高校からJリーグ・横浜フリューゲルスに入団。96年のアトランタ五輪では、ブラジルを破る「マイアミの奇跡」などをチームのキャプテンとして演出した。その後、ヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ)、湘南ベルマーレの国内クラブに加え、ブラジルのサントスFCとゴイアスEC、韓国の安養LGチータースと仁川ユナイテッドの海外クラブでもプレーし、2005年5月19日に現役引退を表明。セカンドキャリアでは解説者としてメディアなどで活動しながら、「ZONOサッカースクール」を主催し、普及活動を行う。09年にはラモス瑠偉監督率いるビーチサッカー日本代表に招集されて現役復帰。同年11月に開催されたUAEドバイでのワールドカップ(W杯)において、チームのベスト8に貢献した。

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